10月14日のブラジル戦では、 試合前に日本のスタメンの顔ぶれを知って驚いたファンも多かっただろう。何しろ相手は世界屈指の強豪だというのに、本田圭佑(ACミラン)、長友佑都(インテル)ら主力と目されていた選手たちの名前がなかったのだから……。

9月のウルグアイ戦、ベネズエラ戦に続く、アギーレジャパンの10月シリーズ。10日のジャマイカ戦(新潟)は現状のベストと思われる布陣で臨み、相手のオウンゴールの1点のみに終わったものの内容的には圧勝。

だが、その4日後にシンガポールで行なわれたブラジル戦で、アギーレ監督は先発6人を入れ替え、代表キャップ数の少ない若手を多く起用。結果、ネイマールら主戦クラスをそろえたブラジルに、なすすべなく0-4と惨敗したのだった。

通常なら、格下のジャマイカ戦でこそ若手を試すのがセオリーのはず。なぜアギーレ監督はよりによってブラジル戦で、前代未聞の奇策に出たのか? スポーツ紙日本代表担当記者のA氏が言う。

「試合後会見でアギーレ監督自身も話していましたが、強豪を相手にした厳しい状況のなかで、若い選手たちがどう対処するのかを見たかったということです。弱いジャマイカを相手にいいプレーができても、それは選手の実力を正確に見極める材料にはなりませんからね。逆に本田や長友らがブラジル相手にどこまでやれるのかは、すでに答えが出ているので試すまでもない。

だから、勝敗を度外視して、未知数だった選手たちの見極めを行なったのです。せっかくのブラジル戦を“テスト”の場にしてしまったことに批判の声もありますが、あれはあれでひとつの見識として評価されることだったと思いますよ」

ブラジル戦では、日本のアンカー(守備的MF)の左右のスペースを狙われ、中盤をずたずたに切り裂かれたが、アギーレは試合中に選手の位置取りやシステムの変更を行なうなどの修正を施さなかった。しかし、これも明確な意図があってのことだったようだ。

ザッケローニには絶対できなかった?

サッカージャーナリストの後藤健生(たけお)氏はこう話す。

「アギーレは就任以来、DFラインの前にアンカーを置く4-3-3の布陣を敷いていて、ここまでの4戦で相手が強かろうと弱かろうと、そして試合展開がどうだろうと、フォーメーションを一切変えていません。それは彼が、チームの基本布陣を4-3-3でいくと決めていて、今はそのベースをつくる時期に充(あ)てているからです。各ポジションにいろいろな選手を当てはめ、それぞれの適性を見ると同時に、チーム全体に4-3-3での戦い方を浸透させているのです。

ただ、もちろんアギーレは、何がなんでも4-3-3に固執しているわけではないはず。ベースさえできれば、相手や試合展開に応じてシステムを変えたり、細かい修正の指示を出したりするでしょう。だから、来年1月のアジア杯を通して、“アギーレサッカー”の輪郭がはっきり見えてくるでしょう」

つまり、ここまでの4戦は、選手起用やフォーメーションも含め、いわば土台固めをしていたわけで、アギーレはすべて確信犯的に行なっていたのだ。

「とはいえ、相当思い切ったチームづくりであることは確か。例えば、慎重を旨とする前任者のザッケローニには、絶対できなかったでしょうね」(後藤氏)

目指すのは、年明けに始まるアジア杯での連覇。大胆な“テスト”の成否は、そのとき見えてくるだろう。

■週刊プレイボーイ44号(10月20日発売)「アギーレジャパン アジアカップ連覇へのベスト布陣が見えた!」より(本誌では、アジアカップへのベスト布陣を予想!)