イラクからシリアにかけて勢力を拡大中のイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」に、日本の大学生が参加寸前だった! 衝撃的なこのニュースに対して、日本社会はどう向き合っていけばいいのか?

■イスラム国はまるで広告代理店

今回、イスラム国への参加を望んでいた北大生は、アニメアイコンのツイッターで「死にたいにゃんinイスラーム国」などとつぶやいていたことが注目され、「変なヤツ」というレッテルが貼られつつある。

しかし、国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏は、この事件を“変なヤツが起こした偶発的な事故”で片づけては危ないと指摘する。

「イスラム国は、英語圏のメディアで“adaptive”(順応性がある)と評されています。SNSを中心とする広報戦略も、まるで広告代理店のように新しい方法をどんどん生み出している。“優しそうな兄ちゃんたち”を演じたり、逆に人質処刑動画でショックを与えたり、自爆した仲間を誇らしげにたたえたり。

一方、日本の社会はものすごくガラパゴス化していて、大半の大人はそういう世界のリアリティをわかっていません。それでも、日本語の壁がこれまで日本を守ってきたんですが、今回の事件では、北大生の手引きをしたアラビア語を話せる元大学教授がその壁に小さな穴を開けた。

今後、ほんの少人数でもイスラム国に日本語を話すスポークスマンが出現したら怖い。大学のキャンパスでチャリティを装って勧誘するとか、コミケに出展するとか日本に特化した施策も考えられます。

しかも、最近の日本は完全に無宗教社会で、宗教に対して無防備。かつてはオウムがその空白に食い込んだのかもしれませんが、もし子供が急に宗教に対してガチンコの状態になっても、ほとんどの親は説得する言葉を持たないでしょう」

イスラム国に入隊するのは簡単

もし、日本人がたきつけられてイスラム国へ行こうとする場合、そのハードルはどのくらい高いのか?

「トルコにはイスタンブールやアンカラ、あるいはシリアとの国境近くなど、各地にイスラム国の連絡事務所があります。その場所さえわかればすぐに入隊できる。最近はアンカラに領事館まで開いたという話もあるし、イスラム国の軍事訓練場も3、4ヵ所あります」(中東コンサルタント・野口勇氏)

入るのは簡単。その後、イスラム国は日本人をどう迎えるのか? それは本人の能力次第だと、前出のモーリー氏は言う。

「戦士としての適性がなくても、使い道はいろいろあります。手先が器用なら爆弾を作らせればいい。何も取りえがないと判断されたら、日本政府を脅すための人質にする手もある。『24時間以内に日米同盟を解消しなければ、こいつの首を斬る』ーー。こう要求されたら、日本政府は対応できますか?」

大パニック間違いなし……! では、今そこにあるイスラム国の“リクルート”という危機に対して、日本人はどう向き合えばいいんだろうか?

「とにかく、みんなが短絡した答えを出そうとしないこと。いろんなことをバネやクッションのように受け止めて、正邪をはっきりしすぎない。ワイドショー的にすぐ“悪人”を見つけて叩こうとしない。難しいことは全部他人のせい、っていうのは逃亡のロジックです。たとえイスラム国に選ばれても幸せになれないし、彼らを頼ってもなんの意味もない」(モーリー氏)

(撮影・取材協力/本多治季 取材協力/世良光弘)