猫の顔の中に鳥がたくさん描かれている作品「EAT」。テーマはアンチ“ロハス”だという

全67巻&エクストラ号を刊行し187万部の大ヒットを記録したDVDマガジン『燃えろ!新日本プロレス』の冊子コンテンツから、プロレスラーの意外な一面を掘り下げた「俺の趣味!」を復活公開! 

第2回は、新日マットで唯一無二の存在感を放つ“キング・オブ・ストロングスタイル”中邑真輔が登場。予測不可能な真輔ワールドの源流とは? イヤァオ!!

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親類に絵がうまい人が結構いるんですよ。親父もうまいし、親戚で美大に進んで清水焼の絵付けをやっている人もいます。僕が絵を描くようになったきっかけは、母親が言うには幼稚園の参観日のとき。

運動会の衣装としてビニール袋にチューリップの絵を描くんですけど、僕はそれをしないでひとり教室から出てブランコで遊んでいたらしい。母としては「この子、おかしいんじゃないか!?」って心配になって家で絵を描かせてみたら、ちゃんと描けたと言うんです。それからは、広告チラシの裏とかを使っていつも絵を描いている子供でしたね。

大学(青山学院)2年か3年のとき、美術部に入ったんです。レスリングをやっているのでアルバイトする時間もあまりないので遊ぶお金もないし、授業の空きがあればずっと美術部の部室にいましたね。部の個展に作品を出したり、ファッションショーをやるサークルにも所属していたので、イベントのフライヤーのイラストを描いたりとか……レスリングに加えて和術慧舟會(わじゅつけいしゅうかい)でも練習してたし、大学時代はマジ忙しかったですね(笑)。

なにか刺激を受けると、それが描くモチベーションになることが多いんです。描いているうちに当初の予定からどんどん変わってよくわからなくこともある(笑)。僕が手にしている「EAT」という絵も、最初は鳥の絵を描いてたんですけど、パンチがないなと思って猫に変えたんです。猫の顔の中に鳥がいっぱいいるでしょ。

プロレスにも生きてくる、子供たちとのコラボアート

母校の子供たちと描いた「みんなのパンチ」(2009年)。幅6m、高さ2mの巨大な絵だ

2009年から子供たちと一緒に絵を描く活動を続けています。最初は母校の小学校の生徒80人と「みんなのパンチ」という作品をつくりました。コンセプトは「黒板アート」。黒板の色のキャンバスをつくって、ヨーイドンで子供たちと一緒に絵を描いていく。ミックストメディアという手法で、描けるものならクレヨンでもクーピーでもチョークでもいいし、何を描いてもいいんです。

子供たちの絵は面白いんですよ。幼稚園から小学校4年生くらいまでかな……高学年になると、先生に教えられた通りの型にハマって全然面白くなくなっちゃう。僕個人の感覚では、小さな子供の絵は名のある画家の絵より100倍面白い。なんのテーマもないんだろうけど、すごく生き生きしたものが肌から伝わってくるんです。

この活動を通して「絵を描くことにはなんの制約もないし、上手下手ではなく自分の思うように描いたほうが楽しいよ」ということを子供たちに教えたい。大人になるといろんな制約があるし他人からの評価も気にしなきゃいけない。でも、絵を描くことに関しては自分を解放しちゃっていい。自由を体感できるんですよ。

それと、僕の下心としては、子供たちの感覚からヒントを得たいということもあります。それは絵だけではなく、プロレスにおいても生きてくる。

どんな仕事にもいろんな制約はあるけど、その中には「遊び」の部分があって、そこを探せば自分を出せる場所が必ずあるんです。やりたいようにできて、プロレスほど面白い職業は他にないって僕は思ってますからね。

■中邑真輔(なかむら・しんすけ)1980年生まれ、京都府出身。一大勢力「CHAOS(ケイオス)」の中心人物。現IWGPインターコンチネンタル王者。アーティストとしてもこれまで多くの作品を美術展に出典している。決め台詞は「イヤァオ!」

■『燃えろ!新日本プロレス』vol.64(2014年3月27日号)に掲載http://weekly.shueisha.co.jp/moero/main.html

(撮影/保高幸子)