米アマゾンの今年第3四半期(7-9月期)決算が、4億3700万ドル(約470億円)の赤字だったと同社から発表された。前年同期が4100万ドル(約44億円)の赤字だったことと比べると、莫大(ばくだい)な損益を計上したことがわかる。

飛ぶ鳥を落とす勢いのはずのアマゾンが大赤字!? どうやら原因は、同社が新規分野に行なった多額の投資にあったようだ。流通ジャーナリストの西川立一(りゅういち)氏が指摘する。

「例えば、彼らは生鮮食品の配送に手を出しています。アメリカの隅々にまで生鮮食品を届けるには、冷蔵・冷凍の物流網整備に莫大な資金がかかる。さらに物流拠点には、相応の在庫も抱えなければなりませんから、そこにも投資が必要でした」

また、アマゾンは米国内で、年会費を支払えば注文品の送料がすべてタダになる「アマゾン・プライム」会員に向け、動画配信サービスを行なっている。同社は今年、そのサービスに提供するためのオリジナル番組制作にも乗り出した。

「第3四半期だけで、製作資金として1億ドル(約107億円)以上を投じたといわれています。ただ、出来上がったオリジナル番組の内容は、さほど高い評価を得られなかったようですが」(西川氏)

しかし、それら以上に同期で最もアマゾンの足を引っ張った新規事業は、7月に鳴り物入りで市場投入されたオリジナル・スマホ「ファイアフォン」だったようだ。

対象物にレンズをかざすだけで同じ商品を購入できるアマゾン上のサイトを自動表示する機能がウリで、キャリアの2年縛り付きモデルは当初、199ドル(約2万1000円)だった。ところが、これが大コケ。あまりの売れ行きの悪さに、9月にはなんと99セント(約106円)という投げ売り価格にまで値下げ。それでも人気は出ず、現時点でも8300万ドル(約89億円)相当の端末が売れ残っているというのだ。

ファイアフォンが流行らなかった理由とは?

ITジャーナリストの石川温(つつむ)氏が言う。

「結局、ファイアフォン自体に魅力がなかったことに尽きます。デザインがいいわけではないし、特別便利な機能もありません。買いたいものがあれば、別に物にかざさなくても(検索画面に)商品名を打ち込めばいいだけの話ですからね(笑)」

投資がことごとく利益を生まず、前年同期比10倍超の赤字。急成長を続けてきたIT業界の巨人も、ここへ来て窮地に陥(おちい)ったと見るべきなのだろうか?

「それは早計です。アマゾンは基本的に目先の儲(もう)けは二の次で、赤字になってもいいからどんどん新規分野に投資して事業の範囲を広げ、中長期的に黒字にもっていこうという考え方の会社。初期段階で利益が出なくても投資を続け、ある一定のインフラが整えば、競争力が強くなってライバルは駆逐される。圧倒的なひとり勝ちのシェアを握る分野を、そうやって次々に増やしていこうとしているわけです。

今回の赤字も、従来の戦略にのっとった結果で、資本が潤沢(じゅんたく)なアマゾンの屋台骨を揺るがすほどの事態ではありません。ただ、ファイアフォンの不振だけはちょっと当てが外れた格好だと思いますが」(前出・西川氏)

「そのスマホ事業にしても、アマゾンには電子書籍端末のキンドルを軌道に乗せた実績がある。戦略を練り直し、競争力のあるスマホをあらためて継続投入してくるはず」(前出・石川氏)

4億ドルごときの赤字など、アマゾンにとっては屁(へ)でもないってことのようで……。