コジマ技研工業の小嶋實社長

経済産業省は今年3月、既存産業のすき間を突くニッチな分野でトップクラスの世界シェアを確保し、高い収益を上げている日本企業100社を「グローバルニッチトップ(GNT)企業」として発表した。

コストダウンのため、日本でも製造部門を海外に移している会社は少なくない。だがGNT企業は国内生産と輸出を基本としながら海外展開していることが特徴で、しかも選定された100社のうち94社を中堅・中小企業が占める。

神奈川県相模原市の「コジマ技研工業」も、従業員12名の会社ながらGNT企業に選出された。

同社は、焼き鳥店などで使われる串刺機の専業メーカーである。小嶋實社長は、その前身となる会社で工場用の製造機械を作っていたが、あるとき、行きつけの焼き鳥店の店主に、

「毎日、手で串打ちをするのが大変なんだ。串刺しができる機械を作ってくれたら、これまでのツケを全部チャラにするよ」

と言われたのをきっかけに、串刺機の開発に取り組むようになった。

ところが、いざ始めてみると、これが容易ではない。小嶋氏が言う。

「焼き鳥店で串に刺す食材は正肉、レバー、つくねなどさまざま。固さは全部違うし、筋が入っているものもある。それらを竹や木の串に、手作業に負けない仕上がりで機械刺しすることは、かなりの難題でした」

そこで焼き鳥店で、肉がどのように串に刺さっていて、焼き上がるとどうなるのかをじっくり観察した。

他社には盗めない微妙な工夫

さまざまな食材を、さまざまな串で正確に刺せる万能自動串刺機

「肉は加熱されれば縮むのですが、その際、一片一片の肉の間にすき間ができてしまうと、むき出しになった串が燃えてしまいます。だから、そのまま真っすぐ刺すのではなく、軽くウエーブをつけながら肉を刺して串にしっかり固定し、しかも一片一片の肉をしっかり密着させて、焼き上がり時にすき間ができないようにしていた」(小嶋氏)

だったら、内側にあらかじめウエーブをつけたトレーに肉を並べてしっかり前後を固定し、上から適度な圧で押さえながら串を刺していけば、手作業での仕上がりを再現できる、と彼はひらめいた。

このアイデアを取り入れた機械は、手作業にも負けない仕上がりで、しかも早く、正確に、どんな具材でも刺せた。

同社の串刺機が一気に普及する転機となったのは、2000年代初頭に東アジアで流行した鳥インフルエンザだった。

当時はコストと時間の節約のため、店舗での串打ちをやめ、焼き鳥店や居酒屋では中国で製造された生の冷蔵焼き鳥串を使用するのが主流になっていたのだが、安全上の理由で輸入禁止になってしまったのだ。個人店でも大手チェーンのセントラルキッチンでも、再び自分たちで串打ちをせざるを得なくなり、コジマの串刺機に注文が殺到したのだ。

さらには世界的な和食ブームの影響で各国に日本料理店が増え、そうした店からも注文が舞い込んでくるので、串刺機の分野では現在9割の世界シェアを握っている。

コジマの製品を臆面もなく模倣し、市場に食い込もうとしてくるメーカーもないわけではない。しかし、そんな連中など、ハナから眼中にない。

「うちの串刺機は本体にしてもトレーにしても、他社には盗めない微妙な工夫がぎっしり詰まっています。マネに終始する者は、結局オリジナルには追いつけないんですよ」(小嶋氏)

80歳を超え、なお意気軒高(いきけんこう)な社長なのであった。