ナイトライド・セミコンダクターの村本宜彦社長

ニッチな分野で世界シェアを確保している日本企業100社を経済産業省が選んだ「グローバルニッチトップ企業」。実は、選定されたうちの94社を中堅・中小企業が占めている。

中村修二氏らのノーベル賞受賞で再び脚光を浴びている青色LEDの分野でもトップの座を確保している中小企業がある。それも、青色よりさらに難しい高効率の紫外線LEDを2000年に世界で初めて開発したのだ。

徳島県鳴門(なると)市の「ナイトライド・セミコンダクター」は、徳島大学との産学連携で生まれたベンチャー企業である。発足当初、研究の中心的存在だったのが、日亜化学工業在籍時の中村氏に窒化ガリウムを使っての青色LED開発をアドバイスした世界的権威、酒井士郎教授だ。

そして、経営側の舵取りを任されたのが当時の「徳島ニュービジネス協議会」事務局長で、現在もトップとしてナイトライド・セミコンダクターを率いる村本宜彦社長だった。村本氏は言う。

「酒井教授が精通している窒化ガリウムを使って、何を開発しようかとなったとき、われわれが選んだのが紫外線LEDでした。なぜかと言えば、高効率のものは開発が難しく、ほかの研究者や企業がどこも手をつけていなかった(笑)。実は具体的な用途さえはっきり定まっていなかったのですが、とにかくまずは開発するのが先だと」

だが弱い光こそすぐに出せたものの、高効率な紫外線LED誕生の糸口はまるで見えてこない。しかも研究が壁にぶつかるなか、社の頭脳である酒井教授が病に倒れ、やがて教授がヘッドハントしてきた博士号を持つエンジニアたちも方向性の違いを理由に、一斉に退職してしまった。

残された開発スタッフは、辞めたエンジニアの下で働いていた、地元の阿南(あなん)工業高等専門学校(徳島県阿南市)を卒業して間もない若手社員たちだけだった。

「その彼らが、道を開いてくれた。頭でっかちにならず、こつこつ地道に実験を繰り返すなかで、高効率化する方向性を探り当てていったんです」(村本氏)

遠くない将来、グローバルトップ企業に!

ATMで紙幣を真贋判定する際の光源として世界中に普及している紫外線LED

2002年、目指していた水準の紫外線LEDが完成し、発表にこぎつけた。そこへATMの世界的大手メーカーである日立製作所から、サンプルを送ってほしいと連絡が入る。

当時のATMは、紙幣の真贋(しんがん)を識別するための光源に効率の低い紫外線ランプを使用していた。ランプだからいつか球が切れるし、電流を流してからしばらくしないと光が安定しないのもネックだった。

これを紫外線LEDに置き換えられれば、信頼性と耐久性が高く、省電力な光源になると期待されたのだ。

日立製ATMへの採用が決まると、競合他社のATMもこぞって取り入れた。

「世界のATM市場は日本企業の独壇場なので、日本のメーカー各社に納入できれば、われわれの紫外線LEDも必然的に世界シェアを握ることになるんです。しかも最初に採用されたLEDの波長が、紙幣判別用のデファクトスタンダードになりますから他社は参入してこられない。LEDはとても繊細なもので、完璧に同じコピー品は作れません。そして少しでもLEDの性能や特性が違えば、ATMのセンサーが反応しなくなってしまうんです」(村本氏)

今後はATM向けだけでなく、現在紫外線ランプが使用されている樹脂や塗装を硬化させるための光源、殺菌・空気清浄機用光源など広範な分野で紫外線LEDへの置き換えが進むことが予想される。

「今のわれわれはグローバルニッチトップ(GNT)企業ですが、遠くない将来、ニッチが取れたグローバルトップ企業となることを目指しています。そのポテンシャルは、十分あるはずです」(村本氏)