世界中で重大事が起きるたびにネットを飛び交う「その裏には巧妙に隠された驚くべき事実が…」「実は私たちの知らない巨大な力が…」といった陰謀論。政治・経済を陰で操り、人類を支配するのは秘密結社なのか? それとも宇宙人なのか? 一見、荒唐無稽なストーリーが次々と飛び出す背景を実例とともに検証する!

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多数の人が乗るマレーシア民間機がミサイルで撃墜されるという衝撃的な事件。いまだ真相究明がなされず謎だらけなだけに、陰謀論の勢いも増している。

7月17日、内乱状態にあったウクライナ東部で、オランダからマレーシアに向かっていたマレーシア航空のボーイング777型機が撃墜された。

乗員乗客298名全員が死亡し、そのなかにはオーストラリアで開かれる「国際エイズ会議」に出席する予定の高名な研究者たちも含まれていた。

陰謀論によれば、マレーシア航空機の撃墜は、このエイズ研究者たちの命を狙ったものだった! すべては秘密結社「イルミナティ」の指示によって行なわれたというのである――。

イルミナティとは、1776年にドイツのパヴァリアで結成された秘密結社。政府転覆の疑いで弾圧され、10年足らずで解散した……といわれるが、実は今なお存続し、下部組織のフリーメイソンを操って陰謀しまくっているとされる。

彼らは、世界を支配する計画に先立って、地球上の人口を6分の1にまで減らそうとたくらんでいる。エイズもそのために彼らがつくり出した病気だった。

その役割は、ただ人口を減らすだけではない。不十分な治療法しかないことで、イルミナティの支配下にある大手製薬会社は莫大(ばくだい)な利益を上げ続けている。だから決定的な治療法などが発表されては困るのだ。マレーシア航空機の撃墜は、有能なエイズ研究者たちを抹殺する絶好の機会だったのである。

イルミナティにはもうひとつ大きな狙いが

そして、イルミナティにはもうひとつ大きな狙いがあった。ウクライナで2月に政変が起きたこと自体、イルミナティが裏で糸を引いていたのだが、続いて起こった親欧州派の新政府と親ロシア派との内乱をいっそう激しいものにして、ここから新たな“世界大戦”を引き起こそうとしたのだ。

親ロシア派が民間機を撃墜した犯人だとされれば、親ロシア派への攻撃が正当化される。そこで新政府側が攻勢を強めれば、親ロシア派を助けるためにロシア軍が乗り込んでくる。そうなれば西側諸国も軍隊を送らざるを得ない。そうして世界大戦へ拡大するという段取りだった。戦争と病気で一気に人類の人口を減らしつつ、同時に軍需産業で大儲けしようというわけだ。

実際には、かつての冷戦のような緊張が生まれただけだったが、それでもイルミナティが背後で操る軍需産業にとっては喜ばしいことなのである……。

【陰謀論研究の第一人者・田中聡氏による分析と解説

ウクライナ政府は、親ロシア派側が撃墜した証拠があると発表し、オバマ米大統領もロシア側に事件の責任があるとしてEU諸国にロシアへの経済制裁を呼びかけました。

しかし一方で、証拠は捏造(ねつぞう)だったという説もあり、むしろウクライナ新政府軍がアメリカと共謀して親ロシア派に罪をかぶせるために民間機を撃墜したという疑惑まで浮上しています。ただ、それもまたロシア側の情報工作かもしれません。

このような、何が真実なのかがハッキリしない情報戦のなかにある現実は、まるで陰謀論のままに見えます。事件をめぐってさまざまな陰謀論が飛び交うのも無理はありません。

●田中聡(たなか・さとし)1962年生まれ、富山県出身。怪しげなもの、奇妙なものを大マジメに論じ、分析することに定評のある文筆家。『怪物科学者の時代』(晶文社)、『妖怪と怨霊の日本史』(集英社新書)など著書多数。近年盛んになった陰謀論の核心に迫る近著『陰謀論の正体!』(幻冬舎新書)が好評発売中

■週刊プレイボーイ47号(11月10日発売)「総力特集12P 世界の大事件を“陰謀論”で説明してみた!」より