経済悪化による地方の惨状を語る鈴木氏(左)と拉致問題で安倍政権は失敗したと言及する佐藤氏(右)

北朝鮮の拉致問題に、ロシアとの北方領土問題など長引く外交問題を抱える日本。それに加え、国内では経済悪化という悩みの種もある。いったい日本はどうなるのか。

鈴木宗男・新党大地代表と元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が毎月第4木曜日に衆議院第二議員会館で行なっている「東京大地塾」の詳細をレポートする第2回。

■拉致問題は北朝鮮の崩壊後にしか解決しない?

佐藤 安倍政権は政権浮揚策として北朝鮮の拉致問題に力を入れています。しかし、これはわれわれが期待しているような解決は絶対に出てこないでしょう。この問題はもっと冷徹な目で見ないといけません。

国家を維持していくためには、絶対に表に出さない秘密や大ウソが必ずあります。そして国家は崩壊するまでそのウソをつき続ける。北朝鮮にとっての拉致問題は、その種のものだと私は見ています。

例えば、ソ連が崩壊したとき。その大きな理由はバルト三国の独立でした。バルト三国の独立がなければ、私は鈴木先生と出会うことはなかったわけですが、この独立の原因は1939年に結ばれた独ソ不可侵条約、いわゆるモロトフ・リッベントロップ条約の秘密議定書にあります。その秘密議定書に基づいて、バルト三国はソ連に編入されたのでは、という疑惑がずっとあった。

ところが、ドイツ側の文書は第2次世界大戦末期にナチスの文書庫から見つかって、アメリカが公表した。ソ連側は「そんな文書は存在しない」と言い続けていた。

1980年代の終わりに、当時のゴルバチョフ大統領が歴史の見直しを行なうために真相究明委員会をつくった。そこでアレクサンドル・ヤコブレフという人物を委員長に任命し、KGBを含めすべての資料を見る権限を与えたんです。

その結果は、「秘密議定書はあったけれども、1970年代に破棄された」。これが正式な報告として上げられ、ゴルバチョフも了承しました。

ところが、ソ連が崩壊して、エリツィンの時代になったら、この秘密議定書と(ドイツとソ連の占領範囲分けの)地図が出てきたんですよ。それも青鉛筆で線が引いてあって、(両国外相の)サインしてあるヤツ。どこから出てきたと思います? ゴルバチョフの金庫ですよ。ゴルバチョフがウソをついていたんです。

北朝鮮はこのソ連の歴史を勉強しています。だから、拉致被害者が何人いて、どういう経緯で拉致されてという真相は、北朝鮮が崩壊した後にしかわからない。

北朝鮮は日本の金が欲しいから、さらにウソをついてくるでしょう。で、そのお金で何をするか? アメリカ本土に届く弾道ミサイル開発です。1年あれば北朝鮮はミサイル搭載可能な核弾頭の小型化を実現できます。

北朝鮮は、リビアがアメリカに届く核弾道ミサイルを保有していれば、革命で崩壊することにはならなかったと考えている。日本の部分的制裁解除で、ひとり3000万円のお金を送金できるようになったから、100人送れば30億円。ミサイル開発に十分貢献できます。

北朝鮮から安倍政権へのラブコールは、自国の安全保障を担保する上で必要だった。そこに安倍政権はまんまと乗ってしまった。拉致問題は政権浮揚策とかでやるべきではない。国家100年の計でやるべき仕事なんです。

クリミア問題で見るマスコミのアホさ

■クリミア問題の対応次第では北方領土も動く

佐藤 それから、ロシア関係のことでひとつ。10月18日にシンドラーというドイツの連邦保安庁秘密情報部の長官が、秘密公聴会において興味深い報告をしたとドイツの週刊誌『シュピーゲル』が報道しました。

それによると、「7月のマレーシア航空機撃墜事件は、親ロ派武装勢力がウクライナ軍から奪取したブークミサイルシステムで迎撃したと報告した」というんです。このことは共同通信や朝日、産経も報道してるんですが、いずれも「この発表によってロシアが不利になった」と言ってる。ところが、これはまったく読みを誤ってる。

今回のポイントは「親ロ派武装勢力がウクライナからブークシステムを奪取した」こと、つまり、「ブークシステムはすべて管理下にあり、一台も親ロ派勢力に渡ったものはない」と説明していたウクライナ政府はウソつきであり、ウクライナは自分のとこの地対空ミサイルも管理できない軍隊を持った破綻国家だと、ドイツの秘密情報部長官が明言したんです。

そうすることで、ドイツはロシアを応援しているという姿勢を見せたんですよ。

このシュピーゲルへのリークは、米独関係にも大きなリスクとなりかねないんだけど、ロシアの言い分が正しいと表明することで、ドイツは今年の冬もロシアから安定してエネルギーを供給してもらえる。こういう外交をドイツはやってるわけです。

でもそれが日本の報道だと、逆の話になる。こういうところに日本のマスコミのリテラシーが驚くほど弱ってるのがわかるし、今度の政治資金問題の分析でも、その低さは表れてくると思いますね。

鈴木 ウクライナの問題に関しては、佐藤さんのおっしゃるとおりだと思いますね。ロシアの立場が厳しくなったというのは短絡的な見方です。

クリミア問題については、「ロシアが領土拡大に走った」とよくいわれますけど、別にロシア軍が侵攻して力で奪ったわけではなく、住民投票でロシアに行きたいというわけなんですから、この事実は冷静に考えなくてはと思いますね。

クリミア容認で北方領土返還とは?

佐藤 このクリミア問題は、日本にとって北方領土問題を動かすシナリオに使えるんです。

クリミアは歴史的な経緯からいえばロシア領だし、そこの住民がロシアに帰属することを望んだ。しかし、欧米はロシアは領土を拡大したと受け止めている。

だからこそ日本が「クリミアはロシア領である」と世界で一番初めに認めてあげればいいんです。クリミアと違って、北方領土はロシア固有の領土ではないことはロシア人もわかっているし、北方領土には日本の思いがあることも知っている。

だから日本がクリミアを尊重すれば、ロシアは北方四島の引き渡しに動き始める可能性がある。しかし、そのとき、日本は同時に腹をくくらなくてはいけない事態になる。日米安保条約を改定しないといけないんです。

日米安保条約には、「日本が支配する領域には米軍が基地を展開できる」としています。だから、北方四島に米軍基地は置かないと約束しなければならない。安保条約の適用外にすることをアメリカにもロシアにも確約しなければダメです。

そこまで日本が主権国家としてきちっとやれば、金を使わないで、北方四島は戻ってきます。

しかし、11月16日の沖縄県知事選挙、そして来年春の統一地方選に加えて、日本経済の悪化もあるでしょうから、安倍政権はかなり内政が流動化してくる可能性があります。だから、日ロ関係どころではなくなるでしょうね。

実際、今、アベノミクスでいくら金をばらまいて公共事業をやろうとしても、地方では仕事ができないという話を聞きます。鈴木先生、そこのところはどうなんですか?

鈴木 地方は公共事業を落札しても、今は円安でガソリン代も高いし、資材の代金も上がってるので、業者同士が入札金額の叩き合いをして落札しても赤字が増えるばっかりだというわけ。だから、誰も仕事を取らなくなってきてますね。会社を存続させるためには落札しないほうがいい。そういう地方の現実を、中央はあまりにも知らなすぎます。

佐藤 最近、鳥取県では給食の牛乳の入札をやめるという面白い動きが始まりました。入札をやめて随意契約にし、地産地消で地元の牛乳を使うようにしたんです。

これは競争入札に対する地方の反逆です。自由競争の入札が是で、随意契約が悪みたいな、新自由主義的なやり方で疲弊した地方がいよいよ立ち上がってきたということでしょうね。

鈴木 競争原理でやっていけるところといけないところをきちっと整理していく。それが政治の役割だということで、私は今後も自信を持ってやっていきたいなと、こう思っております。

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)