インディカーレースで活躍するレーシングドライバー佐藤琢磨

F1ドライバーとして世界で戦ってきた佐藤琢磨は現在、インディカーレースに活躍の場を移している。しかも2013年4月に開催されたインディ・ロングビーチのレースで初優勝を果たすなど、世界のトップレーサーであり続けているのだ。

キャスターの山岸舞彩が、そんな佐藤のモータースポーツ人生に迫った。

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山岸 F1からインディカーに活躍の舞台を移して今年で5年たちますが、今でも勝手の違いに戸惑うことってあります?

佐藤 見た目は似ているけど、クルマのフィーリングはだいぶ違うし、コース環境も違うのでレースのアプローチも違う。インディカーではオーバルコース(注)があって、そこではブレーキをほとんど使わない。常に速い速度で走っていて、コーナーを350キロとかで抜けていったりする。そういうスピード感はF1をやっていた頃にはなかった。

【注】オーバルコース:全体は楕円形で、ストレートと傾斜のついたコーナーで構成されるコースの形状の種類。F1に代表されるヨーロピアンタイプのロードコースが減速、コーナリング、加速を繰り返すのに対し、こちらは純粋なスピードや横並びのバトルが繰り広げられる。アメリカ型モータースポーツの花形である

それと、すごく狭い領域に何台ものクルマが密集して走っているわけですから、空気の流れを読むのが本当に難しい。「ダウンフォース」といって、高速で走ることによって生まれる空気の力を使ってクルマを路面に押さえつけているので、前にほかのクルマがいると、その空気がなくなったり乱れたりしてダウンフォースが効かなくなってしまう。

山岸 でも風なんて目に見えるものじゃないし、そのあたりは感覚で?

佐藤 そうですね。感じながら、経験で……でも、見えてきますよ。風には色はついてないですけど、クルマ同士の位置関係と速度と、伝わってくるグリップ感と挙動……見えてきます。そういうときは楽しいレースができます。

モータースポーツの醍醐味とは?

山岸 インディカーに転向して新たな楽しさや手応えが見いだせた?

佐藤 はい。来シーズンも、アメリカで走り、インディカーの舞台で頂点に立ちたい。挑戦を始めたのは遅かったですけど、ドライバーとして充実しているのは感じますし、経験も積めてきた。チームも非常にいい感じに育ってきたので、このチームでチャンピオンを目指してがんばっていきたいです。

モータースポーツって、結局チームスポーツなんです。人間関係がすごく大事で、もちろん先に言った科学とか机上の計算が大部分を占めているんですけど、それですべての結果が決まるわけじゃない。人間が勝負して、最後の一歩はやっぱり「ハート」だったりするんです。

チームでつくり上げたクルマを最後に受け取って走るのはドライバーだけど、だからこそ「こいつのためにやってやろう」ってエンジニアやメカニックに思ってもらえないと、チームはまとまらない。僕と一緒にやってくれているスタッフは、本当に家族同然のパートナーというか、全幅の信頼を寄せられる人たちで、そういう人たちに囲まれてここまで来たのはすごく幸せなことだと思います。

山岸 ドライバーを勝たせるために、スタッフも一丸となって戦っているんですね。

佐藤 僕が乗るクルマをつくるために何十時間、何百時間という時間をかけて、何十、何百という人のサポートがあって。レースが始まってからもエンジニアがいろいろなデータを見たり、レース戦略を考えたりピットに入ってきてタイヤ交換をするメカニックがいたり、その人たちの0.1秒とか1秒で結果が変わってしまうこともある。だから、常に全員が真剣勝負をしている。

そういうところが、僕はたまらなく好きなんでしょうね。

■インタビューの全文は週刊プレイボーイ47号(11月10日発売)「挑戦者たち#006」にて掲載。

レーシングドライバー佐藤琢磨×山岸舞彩 スペシャルインタビュー動画はこちらより↓ 「挑戦者たち」#006http://youtu.be/1qWbWuhbC58

佐藤琢磨 SATO TAKUMA1977年1月28日生まれ、東京都出身。身長164㎝、体重59㎏。愛車:ホンダ・ビート、ミニ・クーパー。10 歳のときに観戦したF1日本グランプリに魅了され、F1ドライバーを志す。高校時代は自ら自転車部を創設し(部員1名!)、インターハイ優勝。大学在学中に鈴鹿レーシングスクールの募集告知を見て、モータースポーツの世界へ。初めてレーシングカートに乗ってわずか5年でのF1シート獲得は、「奇跡」といわれるスピード出世だった。以後、日本を代表するF1ドライバーとして世界中を転戦、2010年からは活躍の舞台をアメリカのインディカー・シリーズに移し、2013年には日本人ドライバーの悲願だった初優勝を果たす

山岸舞彩 YAMAGISHI MAI1987年2月9日生まれ、東京都出身。『J リーグタイム』(NHK BS1)、『サタデースポーツ』『サンデースポーツ』(NHK総合)のキャスター(2012年にはNHKロンドンオリンピック放送の現地キャスターも経験)を経て、現在は『NEWS ZERO』(日本テレビ系)に、月曜~木曜のレギュラーキャスターとして出演中