エロゲー、小説、アニメ、特撮とあらゆる媒体で筆を振るってきた希代のシナリオライター・虚淵玄(うろぶちげん)が次に挑むのは全編3D劇場アニメ。新作への思いと今後の野望とは!?
2011年に脚本を担当したアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』(以下、『まどマギ』)で、持ち味ともいえる衝撃的かつハードな物語で社会現象を巻き起こすと、その後、近未来SFアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』では『踊る大捜査線』シリーズの本広克行(もちひろかつゆき)監督と異色のタッグを組んで話題に。
さらにその活躍はアニメ業界だけにとどまらず、昨年10月から今年9月まで放映された特撮『仮面ライダー鎧武/ガイム』のメイン脚本家に抜擢(ばってき)され、日曜朝のお茶の間に“虚淵ワールド”を発信し続けた。今でこそ表舞台で躍進中だが、そもそもはエロゲーのシナリオライター出身! そこから、真逆ともいえる子供向け番組にまでたどり着いた、稀有(けう)な経歴を持つ脚本家なのである!
そんなノリノリな奇才が今月15日公開の劇場版アニメ『楽園追放-Expelled from Paradise-』(以下、『楽園追放』)で脚本家として再びアニメに戻ってきた。
アニメ業界に凱旋(がいせん)した虚淵氏にインタビュー!
■王道エンタメでも虚淵ワールドは健在
―これまでエロゲー、小説、アニメ、実写と多様なメディアで執筆していますが、一番自分に合っているのは?
虚淵 どの現場にも面白さや苦労があるので、どれが一番かは難しいですね。でもアニメは業界そのものが変わり続けている世界で、マンガや小説に比べると次々新しい技術が導入されている。その変化にいつも新しい驚きが生まれるので、アニメ業界には長居のしがいがあります。まだまだアニメの可能性は掘り尽くせておらず、その最たる例がこの『楽園追放』なんです。
―本作のキャラの動きや戦闘シーンは超流麗で、アニメ新時代の到来を感じさせます!
虚淵 ついに全編3Dでアニメを作る時代が来たのかと感慨深いです。海外ならフル3Dアニメは珍しくないですが、3Dに傾くほどピクサーやディズニーの映画に近づくのかといえば決してそんなことはなく、日本の3Dアニメは独自進化をしていくんだなと自分の目で確かめられたのはよかったです。特に後半のアクションシーンは、演出の方に「ここはよろしく動かしてください」って感じで投げ渡してしまっていたんですが、それがあんなふうにダイナミックでスピード感あふれる映像に化けてくれるっていうのは脚本家としては非常にうれしいですね。
仮面ライダー終了にほっとするワケは?
―ただ、『楽園追放』は虚淵さんらしからぬ王道ストーリーで、『まどマギ』のような人間の心理をえぐる“鬱(うつ)展開”を期待していたファンとしては、ぶっちゃけ、少々肩透かしを食らった気持ちです!
虚淵 あれ、そうですか?(笑) でも、そもそも僕は鬱展開やハードな設定の作品ばかり作っているわけではないので(笑)。それに、この作品は東映アニメさんが新しく3DCGを軸とした映画部門を立ち上げるための企画としてスタートし、興行ありきではなく技術的な実験作という側面が大きかったんですよ。ですから、脚本で攻めすぎると3D映像自体のインパクトが薄れてしまう懸念があったので、あえて直球で骨太な、映像に集中しやすい話にしたいと当初から考えていたんです。
―そんな深いお考えがあったんですね。生意気言ってサーセン!
虚淵 でも、物語のバックボーンやラストシーンでは、僕のテイストが出ていると思いますけどね。単純に見ればハッピーエンドに思えますけど、深く考えれば相当悲惨な話ですよ。試写を観た知人からも「さすが虚淵の脚本だね」って言われたくらい(笑)。
確かにそのとおりで、ハッピーと取るかバッドと取るかは人それぞれ。直球で作ったとはいえ、せっかく2時間近く付き合ってもらったのに見終わって即忘れちゃう話も寂しいので、考える余地を残す作品にはしたかったんです。
―『楽園追放』のプロジェクトは5年も前から動き出しており、実は『仮面ライダー鎧武/ガイム』を手がける以前に脚本は仕上がっていたとか。
虚淵 はい。『楽園追放』が動き始めた5年前から今日までに、日本でもすでにほかの全編CGアニメが発表されていたので、今となっては目新しい試みというわけではないと思います。けれど、完成まで5年間という時間がかかってしまったことがデメリットかというとそうではなく、製作期間中に3D技術が飛躍的に進歩したおかげで、本作の映像美が実現できたと考えれば、むしろ作品としてはうれしい誤算だったかなとも思えますよ。
■エロゲー業界への恩義は強く感じます
―公開順は前後しますが、その後取り組んだ『仮面ライダー鎧武/ガイム』は賛否両論巻き起こしたまま、今年9月末にエンディングを迎えました。
虚淵 今はほっとしている気持ちですかね。一応当初のプロットどおり結末を迎えられたんですが、今振り返るとそれは奇跡だったなと感じるぐらい1年間バッタバタでしたから。特撮ものの実写の現場はすべてが違いすぎて、カルチャーショックを受けっぱなしでした。だってアニメの場合、まずは脚本が先行して出来上がって、そこからコンテなどを起こしていくという進め方なんですが、特撮にはそのセオリーは通じないんですよ。
―作り方がまったく違う?
虚淵 そうですね。「マジですか!?」ってタイミングで突発的に脚本の変更をお願いされることがたびたびありました。そういう意味で1年間通してのライブ感が強かったですね。だから無事に当初の構想どおりの結末を迎えられて安堵(あんど)しました。
―ちなみに鎧武のヒロイン役の志田友美ちゃんは、週プレのグラビアでも活躍中ですよ!
虚淵 え!? 本当ですか! 志田さんってすごい奇跡の体形をしていて、実物で見るとフィギュアが動いてるんじゃないかってくらいのスタイルでビックリしますよ(笑)。
いつかは“エグい月9”に期待!?
―虚淵さんは女性だったら二次元と三次元、どちらが好み?
虚淵 僕の中では全然別物。三次元ならその人の内面の魅力を感じますけど、二次元は作者の想念の魅力。なので、描き下ろしの一筆入魂みたいな女のコのイラストには作り手の想念を感じて、特にグッときます。
―『楽園追放』のヒロイン、アンジェラ・バルザックも相当エロい体ですが、彼女なんてどうでしょう?(笑)
虚淵 今でこそ言えるけど、最初は3Dで動くキャラに、作り手の想念が宿るのかと半信半疑でした。でも、いざ動いたらちゃんと個性が出て、3Dで女のコがこんなにかわいく、生々しく動いてくれるならアニメの未来も明るいなって確信しましたね(笑)。
―そんな、アニメ、実写と実績のある虚淵さんが、新しく挑戦したい舞台はどこですか?
虚淵 鎧武の経験で実写のノウハウも獲得できたので、また挑戦はしてみたいですね。でも自分を育ててくれたのはエロゲー業界やアニメ業界ですから、そっちこそがホームグラウンドだなっていう意識はあるんですよ。
―古参ファンはまた虚淵さんの新作エロゲーをやりたいと思ってるでしょうけど、もはや周囲から止められそうですね。
虚淵 止められはしないけど、次やるなら名前は変えなきゃいけないかな。虚淵玄名義で今すぐにエロゲーを書いたら、鎧武ファンの子供たちがショック受けちゃうかもしれないから良心が痛みそうで(笑)。でも15年後ぐらいに僕が虚淵玄名義で新作のエロゲーを作ったら、リアルタイムで鎧武を観てくれていた今の子供たちが大人になっていて、「この人、昔、仮面ライダー書いてたんだよな?」なんて感慨にふけりながらプレイしてくれるかもしれないので、それはありかも(笑)。
―エロゲー時代からの虚淵ファンは、過去の経歴を隠してほしくないと思うでしょうね。
虚淵 エロゲーがあるから今の自分があるので、隠すことはしないですよ。そのときの作品によっては、製作サイドの誰かが配慮して伏せることはあるかもしれないですけど、僕個人の意見としてはむしろ堂々と出していきたい。エロゲー作ってたオタク文化出身のやつが作ったものがこれだって、今後どの業界に出張っても胸を張っていきたいし、今まで恩のある方たちのことを考えても言わなくちゃいけない。
むしろ、僕がきっかけでエロゲーやアニメに多くの人が興味を持ってくれることが恩返しになると思いますし。ですから、もっとマスに訴求できる場で書ける機会があれば積極的にチャレンジしたいですよね。
―ではもしも、朝ドラや月9ドラマのオファーがきたら!?
虚淵 まぁ爽やかな恋愛ドラマを書いてくれと依頼されたらほかにもできる方がいっぱいいますから断るでしょうけど、「おまえみたいなオタクが書いたエグい月9が観たい!」なんて言ってくれる物好きなプロデューサーさんがいたら、ぜひやりましょうとなるかもしれないですね。
―エロゲー業界で育った男が書く月9……観たすぎる!!
■虚淵玄(UROBUCHI GEN) 1972年生まれ。PCゲームメーカー「ニトロプラス」所属。テレビアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』で知名度を得て、現在はオタク業界No.1シナリオライターの呼び声も高い
(取材・文/昌谷大介、武松佑季[A4studio] 撮影/本多治季)