マルタ島の「四隅渦巻き石板」2基。中心の円形は太陽と月のシンボルとみられる

これまで3回にわたってリポートしてきた「アトランティス伝説」。それは紀元前5~4世紀頃、ギリシャの大哲学者プラトンが、古代エジプトに伝わる秘話として世に広めた。その内容は「(今から1万1000年前頃に)優れた文明が栄えていた陸地が、天変地異に襲われ一昼夜のうちに海中へ沈んだ」というものだ。

古代の地中海世界を広く旅して見聞を広めた哲学者プラトンが、嘘八百の空想物語を後世に残したとは思えない。この伝説はなんらかの“史実”から生まれたのではないか? そう考えて長期取材を進めてきた本誌は、ひとつの“アトランティス候補地”にたどり着いた。それは地中海の中央に浮かぶ「マルタ島」「ゴゾ島」である。

今から8000年前頃、この島の周りは広い陸地で、世界最古の石造神殿を中心とした巨石文明が誕生した。しかし、4000年前頃に近くの海底で激しい地殻変動が起き、大地震と波高100mもの巨大津波が発生、島の周りの陸地が海底に沈没したことが近年の研究で明らかになった。つまり、この天変地異の記憶がアトランティス伝説のモデルになった……というのが、本誌の独自仮説である。

ただし、この「マルタ巨石文明」は完全に滅びたわけではなく、生き残りの「マルタ=アトランティス人」たちはふたつの道を選んだ。ひとつは地中海に残留し、サルディニア島やイタリア半島の北部・中部地域などに移動。後のギリシャとローマ帝国の基礎になる古代文明を発達させた。

もうひとつの道は地中海から外へ脱出し、北大西洋のヨーロッパ沿岸部、アイルランド島、グレートブリテン島などに移住した。しかし、4000年前から2000年前頃に地球が急速に寒冷化したことで、多くの“地中海脱出組”は温暖な大西洋南方へ新天地を求めたのではないか?

そして、この推理に基づいて取材していくと、想像を超えた新事実が浮かび上がってきた。4000年前頃に地中海を船出した「アトランティス人」の子孫が、1万2000kmも離れた南米大陸の「アンデス高原地帯」にまで移動した形跡が見つかったのだ。

マルタ島に残る謎の渦巻きピラミッド

■マルタ島に残る謎の渦巻きピラミッド

前回で紹介したように、マルタ島の石造神殿に残る、四隅に“渦巻き”の文様を彫った「大型石板」とよく似た石板が、ボリビア・アンデス高原の「チチカカ湖」近くで1970年代に発掘された。それを作ったのは、推定3700年から3500年前頃に誕生した「チリパ文化」の人々だった。

つまり、4000年前に滅びたマルタ巨石文明が、数百年の歳月を経てアンデス高原へ伝わったという仮説が成り立つのだ。これについて、現地取材に取り組んできた考古ジャーナリストの有賀訓(あるが・さとし)氏は、こう解説する。

「まず、制作時期が古いマルタ島の石板ですが、この渦巻き文様は8000年前頃から4000年前頃まで、ずっと神殿や巨石記念物に彫り続けられました。そして、マルタ巨石文明末期に建てられたタルシン神殿の中に、最も形が整った2基の“四隅渦巻き石板”が発見されたのです。

この石板の4つの渦巻き文様は、時計回りと反時計回りが逆向きに組み合わさっていて、中心の円は“太陽と月”を意味し、渦巻きは宇宙全体を動かすエネルギーを表している、というのがマルタ考古学の定説となっています。マルタ島とゴゾ島の神殿には“夏至・冬至・春分・秋分”の時期や“月齢”の変化を探る天文台機能が備わっていたので、これらの石板が宇宙を意識して作られたのは間違いないでしょう」

マルタ島の「四隅渦巻き石板」2基。地面に埋められた根元部分を含めた全高は約1.5m。それぞれ渦巻きの方向が異なり、中心の円形は太陽と月のシンボルとみられる

「宇宙=天空の神」を意識した“ピラミッド状”の遺跡

マルタ巨石文明は神殿の奥に“太った女神像”を祭っている。これはおそらく人間にさまざまな恵みを与える“大地”のシンボルだろう。その一方で、目に見えない宇宙の力が、自然界の変化を支配していると直観し、それを渦巻き文様で表現していた。実際、この文明が「宇宙=天空の神」を意識していたことを示す“ピラミッド状”の遺跡がゴゾ島内にある。

「それはゴゾ島北側のマルサフォン地区に2ヵ所残る、高さ53mと90mの巨大遺跡で、石灰岩の岩山をふもとから頂上までひと続きの“螺旋(らせん)形”に成形加工し、急角度の壁を石を積んで補強した構造物です。どちらも私有地にあり、住民の話では、いつの時代に誰が石壁を積んだのかまったくわからず、ふもとの横穴の中には無数の古い土器片が残っているそうです。やはり4000年以上前の遺跡だと考えられます」(有賀氏)

ゴゾ島マルサフォン地区の螺旋形ピラミッド(標高約90m)。頂上には1960年代にキリスト像が建てられたが、現在は破損がひどく登るのは難しい。

斜面には場所によって崩れかけた大昔の積み石の跡が残っている。

マルタ語通訳者を介した有賀氏の取材中、現地の人々はしきりに「Torri=塔」という言葉を口にした。

「今では宅地と農地開発、石灰岩の採掘で消滅しましたが、20世紀前半まではゴゾ島とマルタ島の内陸部にもTorriらしき遺跡が何ヵ所か残っていたとか。重要なのは、この構造物を真上から眺めると“大きな渦巻き”に見えることです」(有賀氏)

マルタ=アトランティス文明の渦巻き文様は宇宙と深い関係があり、天空の神に近づいて祈りを捧げるために、大がかりな螺旋形ピラミッドを建造したのではないか。

マルサフォン地区に残る、もうひとつの螺旋形ピラミッドらしき岩山(標高約53m)。こちらは崩壊がさらに進み、石灰岩の大きな岩盤が露出している。

*明日配信予定の後編に続く!

(写真/有賀 訓)

■週刊プレイボーイ47号「短期集中連載・古代史最大の謎を追う! 第4回 アトランティス『渦巻き文様石版』に隠された秘密」より