前夜から降り続いた雨が開始予定時間の午前10時には上がり、スタッフ総動員の復旧作業の後、無事グラウンドで開始

11月9日、静岡市の草薙(くさなぎ)球場で2014年のプロ野球12球団合同トライアウトが開催された。

開始は午前11時2分。元広島の富永一が一番手のマウンドに上がりシート打撃が開始。その2球目だった。中日の“ブーちゃん”こと中田亮二(27歳)がいきなり右翼席へ叩き込む。かつては「日本人最重量選手」ともいわれ、107kgの体躯(たいく)と長打力を持ちながら5年間、一軍でホームラン0本の男がいきなり最高のアピールを果たした。

「先頭でホームランを打てたのはインパクトを与えられたと思うし、パワーという面でも自分らしさを見せられた。今は何も考えず、オファーを待ちます」

中田亮二

投手の3番手で登場したのはソフトバンクの江尻慎太郎(37歳)。チームが日本一を果たした翌日に戦力外を言い渡されたベテラン右腕は、マウンドに向かう際に「これが最後になるかも……」という思いが込み上げたという。

「ここに来る前にチームメイトの長谷川(勇也)に『初球インコースの真っすぐを投げておけば大丈夫』と言われたので、そのとおりに投げたら本当でした。最速145キロですが、欲を言えばもっとスピードを出したかった。ただ年齢が年齢だし、力のある真っすぐをしっかり見せられたのはよかったかな」

打者4人を完封し、引き揚げながら見せたガッツポーズが印象的だった。

その江尻に何やら声をかけられ、入れ替わりに登場したのが早大野球部の2期先輩にあたるDeNAの藤井秀悟(37歳)。2001年にセ最多勝、昨年は開幕投手も務めた藤井だが、この日は四球ふたつと苦しい投球。

「まだ投げられるということを証明しに来ました。左肘は問題ないですし、昨年ぐらい勝てる力は持っていると確信しています。今日はしっかり腕を振って投げられたし、不安要素は払拭(ふっしょく)できたとは思います」

そう気丈に語ったものの、帰宅後に更新した自身のブログ『野球小僧』では「自分自身にガッカリ。久々に心が折れた」と失意のコメント。翌日には「2回目(のトライアウト)は受けない」と宣言するも、その翌日にはこれを撤回。「まだやって欲しいという激励の言葉やブログのコメントにも心を揺さぶられた」と、再び前を向いた。

独立リーグ、群馬ダイヤモンドペガサスのSDに就任したラミレスの姿も

男たちの様々な思いが交錯

中日・落合、DeNA・高田の両GMほか各球団の編成担当がスタンドから熱視線

同じくファンの声が力になったのは、日本ハムの左腕・佐藤祥万(25歳)。

「マウンドに上がってもめっちゃ緊張してたんですけど、いつも鎌ケ谷(かまがや)に応援に来てくれていた3歳ぐらいの男の子が、今日もスタンドに来てくれたんですよ。『しょうまさん、頑張れ!』ってすごい声援をくれたのが聞こえて……力になりました。僕の生命線である左打者のインコースをシュートで攻められたし、自分の投球ができました。本当に感謝です」

佐藤のもとにはトライアウト後、すぐに広島からオファーが届き、2日後には入団会見が行なわれた。

一方、古巣への感情をむき出しにしたのは広島の長身サイドスローの梅津智弘(31歳)。守備陣のエラーもあり失点するなど不運な内容に、「納得いかない。きちんと勝負をしたかったけど、自分のボールを見せる前に手を出されて、あっという間に終わってしまった。今の気持ちは、広島を見返してやりたいという気持ちだけ。だからNPBでもう一度勝負したい」とリベンジ宣言。

同じくDeNAの眞下(まつか)貴之(23歳)も「DeNAになって3年間ずっとモヤモヤしていたので、今日はサッパリしました。ホームランを打たれたことは気にしていない。1球目からいい球が行ったし、絶対にどこかのチームに入って、横浜を完封します!」と恩返しを誓った。

ある者は生き残るため、ある者は野球観を再確認するため、ある者は野球人生の区切りをつけるため……。トライアウトとは、男たちのさまざまな思いが交錯する場所なのだ。

●この続きは、発売中の週刊プレイボーイ48号にてご覧になれます

(取材/村瀬秀信 撮影/高橋定敬)

■週刊プレイボーイ48号「プロ野球合同トライアウト2014 『オレたちはまだポンコツじゃない!』」より(本誌では、八木、東野、北方など他の選手のプレイとコメントも紹介)