世界中で重大事が起きるたびにネットを飛び交う「その裏には巧妙に隠された驚くべき事実が…」「実は私たちの知らない巨大な力が…」といった陰謀論。政治・経済を陰で操り、人類を支配するのは秘密結社なのか? それとも宇宙人なのか? 一見、荒唐無稽なストーリーが次々と飛び出す背景を実例とともに検証するシリーズ第3回!

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類を見ない残虐さで世界的な脅威となっているイスラム国。豊富な資金力と急速な台頭の背景には謎が多い。そこに陰謀論が生まれるのだ。

イスラム国の総兵力は10万人以上とみられ、イスラム教に改宗した白人も多く、日本でも参加しようとした若者が事情聴取された。

イスラム国の発端は、イラク戦争にある。2003年に米英など有志連合がイスラム教スンニ派のフセイン政権を倒した。そのときスンニ派の過激派組織は「イラクの聖戦士アルカイダ」と名乗る組織をつくり、これが分裂と合流を繰り返して「ムジャヒディーン(聖戦士)諮問評議会」となり、イスラム国のもとになった。この組織にまつわる陰謀論は次のようなものだ。

9・11同時テロを起こしたとされるアルカイダは、CIAとパキスタン軍統合情報局がソ連によるアフガン侵攻に対抗させるためにイスラム義勇兵を訓練したのが始まりだ。従って、実はあの同時テロもCIAと裏で通じての犯行である。イスラム国も、アルカイダ分派という成り立ちからして、CIAとつながっているのだ。

CIAはこれまで、多くの国々で政権の転覆工作をしてきた。CIAが認めたのは7件だけだが、疑惑なら50件はある。

目的は不都合な政権を排除し利権を得ること

10年のチュニジア「ジャスミン革命」に始まり、エジプトやリビアなどに広がった「アラブの春」もそう。ソーシャルネットワークが大きな働きをしたが、そこにもCIAの工作員がひと役買っていた。

アメリカの目的は、不都合な政権を排除し利権を得ることにある。石油などの資源、そして市場を獲得するのだ。革命後にエジプトやリビアのように混乱状態になっては、アメリカ政府としては困るが、実質的な首謀者である多国籍企業にとっては治安などどうでもいい。むしろ危機的で不安定なほうが儲かるチャンスが増える。

イスラム国も、そうした混乱をつくり出す道具にすぎない。捕虜の首切り処刑ビデオも、よく見ればインチキくさい。世界中の憎悪を高めて戦争に持ち込むためのでっち上げビデオに違いないというわけだ。

空爆が始まって、軍産複合体の連中はさぞ喜んでいることだろう。軍事費でアメリカ経済はいっそう逼迫(ひっぱく)するが、一部の支配層は儲かって笑いが止まらないのだ……。

【陰謀論研究の第一人者・田中聡氏による分析と解説

CIAが育てた反政府組織が後に反米に転ずるのは、もともと両者の目的が違うからでしょう。でも、その対立が偽装で、実は裏ではつながっているという陰謀論は数多くあります。

確かにあり得るでしょうが、イスラム国には通用しなさそうです。イスラム国は、第1次世界大戦中に英仏露に勝手に分割された国境などは無意味と考え、イスラムの伝統的なカリフ制の復活を目指しています。宗教であり理念ですから、領土を失っても敗北はしません。彼らが考える敵も、国家ではなく欧米の価値観や世界観でしょう。

このような新しい存在が出てくると、陰謀論もこれからは前提となる世界観を変えねばならないだろうと思います。

●田中聡(たなか・さとし)1962年生まれ、富山県出身。怪しげなもの、奇妙なものを大マジメに論じ、分析することに定評のある文筆家。『怪物科学者の時代』(晶文社)、『妖怪と怨霊の日本史』(集英社新書)など著書多数。近年盛んになった陰謀論の核心に迫る近著『陰謀論の正体!』(幻冬舎新書)が好評発売中