没後12年、 伝説の「消しゴム版画家」ナンシー関が彫った自身のハンコ (C)Nancy Seki

消しゴム版画というジャンルを発明し、気鋭のテレビウオッチャー&コラムニストとして金字塔を打ち立てた、ナンシー関。没後12年となる2014年の今秋、『顔面遊園地 ナンシー関 消しゴムの鬼』が渋谷・パルコミュージアムで開催中だ。そこで、盟友・町山広美が語る知られざる素顔と伝説とは――?

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ナンシーさんに対して、無頼な毒舌家っていうイメージを持たれてる方もいると思うんですね。でもそれ、全然違います(笑)。すごく穏やかで育ちの良さを感じさせる方でした。

「帰らないと叱られる」と言って毎年正月は必ず帰省していたんですが、今年の命日に青森の実家に伺ったときに聞いて驚いたのは、ご両親の前では絶対たばこを吸わないし、一滴も酒を飲まなかったって。普段は酒もたばこも量多かったのに。夜はこっそり弟さんの部屋で缶ビールを飲んでたみたいですが(笑)。

そんなまっとうな生活を大事にしてるからこそ、テレビや芸能の浮かれた世界を、適度な距離感で観察できたんじゃないかなぁと。

実際、悪く書いた小倉智昭とか神田うのに対しても「自分がいくら罵倒しようが芸能界から消されたりはしないし、そもそも青森っていうフジテレビすら映らないようなはるか彼方で生まれ育った人間の話なんか聞いてないでしょ? でも私はちゃんと観てるからね」っていう冷静なスタンスでした。

じゃあ、彼女のアンテナに引っかかるのは誰かというと、“バレてないと思ってる人”ですよね。誰しも「(視聴者に)こう観られたい」っていう自己演出をするじゃないですか。でもどうしたってそこからこぼれ落ちちゃう本性というか、実態の部分がある。それを完全にコントロールできてると思い込んでる、「視聴者なんかに俺の本性が見抜けるわけないでしょ?」っていう腹が透けて見える人は大嫌いだったと思いますね。

自分を「お笑い」だと標榜する中山秀征を嫌いだって何度も書いてるから、「彼の番組観るのは苦痛じゃないの?」って一度聞いたんです。でも全然苦痛じゃないと。「テレビが好きだから、芸能が好きだから」って。ある意味、異常なテレビの世界で、例えば歌バカを隠しきれない玉置浩二とか(笑)、ヘンな人がヘンなさまを見せ合ってる芸能というものが好きなんですよね。

ナンシーさんの彫る女性のおっぱいがすごく好き

最近は作り手が「どう見られるか」を気にしすぎてテレビが萎縮しちゃってるじゃないですか。

ナンシーさんは「どうせ私の話なんて聞いてないでしょ」っていうのが根本にあったわけで、今みたいにちょっとした批判にも過剰に反応されるような世界とは関わりたくなかったんじゃないかなぁと……。とはいえ、今年だとサムラゴーチや号泣議員は彫らざるを得なかったんじゃないかな(笑)。

犯罪者とか事件の人を彫るのも得意なんで。たぶん、どっちかなんですよね。自分の見られ方をコントロールできてると思い込んでるけど、そうじゃねえよって言ってやりたい有名人と、事件起こしちゃう人みたいに無意識で自分を垂れ流しちゃってる人(笑)。

好きなゴム版ですか……難しいですねぇ。私、ナンシーさんの彫る女性のおっぱいがすごく好きなんです。由美かおるのおっぱい、イイですよ。ハリがあって(笑)。せっかくの展覧会なので、テレビや芸能だけじゃない仕事も知ってほしいですね。

●ナンシー関1962年生まれ、青森県出身。84年に消しゴム版画家としてデビュー。無類のテレビ好き、愛とトゲにあふれたコラムニストとして活躍。『小耳にはさもう』『テレビ消灯時間』など著書多数。2002年に39歳の若さで急逝

●町山広美放送作家。『有吉ゼミ』『幸せ!ボンビーガール』『マツコの知らない世界』などを手がける。ナンシーと繰り広げた時事放談が『隣家全焼』『堤防決壊』で読める

■『顔面遊園地 ナンシー関 消しゴムの鬼』2014年11月14日(金)~11月25日(火) 10:00~21:00(最終日は18:00閉場)パルコミュージアム(東京・渋谷パルコ・パート1・3F)問い合わせ:TEL03-3477-5873彫って押しまくった生ハンコ約800点、傑作コラムの数々、激レアな仕事道具などをズラッと展示。幻の小説『通天閣はもう唄わない』を映像化しピエール瀧が朗読した特別企画も!展覧会の公式ツイッターは「顔面遊園地@ganmenland」で

■週刊プレイボーイ47号「2014年 話題の10人をナンシー関のゴム版で振り返ってみた!」より(本誌では、あの名作消しゴムをご覧になれます!)