モホス平原から出土した大型土器には、マルタ巨石文明、アンデス高地のチリパ文化の神殿跡から見つかった大型石板と同じ「4つの渦巻き文様」が描かれていた

地中海のマルタ島とゴゾ島に高度な巨石文明を築き、南米大陸に渡ったと推測されるアトランティス人。彼らがアンデス高地にたどりつく前に、別の土地に定住した可能性を示す遺跡地帯が近年発見されている。

それはアマゾン川の源流地帯にあたる、ボリビア・ベニ州のモホス平原だ。日本の本州と同じ広さの平地を開拓した謎の文明とは――? 古代史の謎に迫るシリーズ第5回後編!

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モホス平原から、このアトランティス・リポートで絶対に避けて通れないひとつの土器が見つかっている。それは高さ約15mのロマを5mほど掘り下げた場所から現れた、直径約45cmの鉢形の土器だ。これは男性の埋葬遺体の頭部にかぶせられた状態で出土した。

2回目のリポートで触れたが、マルタ巨石文明の「墓地」は今は海に沈んだ低い場所にあったと推定されている。ただしゴゾ島の陸上には何ヵ所かの墓の遺跡があり、実はここでも土器を頭にかぶせた人骨が見つかっているのだ。つまり、マルタ=アトランティス人と同じ埋葬方法がアマゾン源流域文明でも行なわれていたのである。

さらにもうひとつ、このモホス平原のロマから出土した鉢形土器には驚くべき特徴があった。その内側に、マルタ巨石文明、アンデス高地のチリパ文化の神殿跡から見つかった大型石板と同じ「4つの渦巻き文様」が描かれていたのだ。

「この土器の4つの渦巻きは、マルタやチリパ文化とは巻き方が違っていますし、渦の感じが“蛇”のように見えます。蛇は水をコントロールし、生命再生力を秘めた聖獣として世界各地の古代社会で崇拝されていたので、大規模な水利施設で成り立っていたモホス平原の農耕文明にふさわしいモチーフといえるでしょう。

残念ながら土器の中心の絵は消えていますが、マルタとチリパの石板のように円形の太陽と月のシンボル、またはカエルなどの聖獣が描かれていたのかもしれません。やはり、この渦巻き文様入り土器にも、マルタ巨石文明の信仰や宇宙観が表現されたように思えるのです」(考古ジャーナリスト・有賀訓氏)

雨期に河川氾濫を繰り返してきたモホス平原の自然地層は、普通の泥よりも粒子が細かい「シルト土壌」で厚く覆われているため、彫刻石板を造れるような石材は地中深くに沈んで手に入らない。そこで石版の代わりに大型土器に4つの渦巻き文様を描いたのではないか。

とにかく、このアマゾン源流域文明の遺跡地帯にも、明らかに4000年前以降に南米大陸へ渡ってきた「マルタ=アトランティス人」の気配が漂っているのだ。

モホス平原のロマに埋葬された推定身長190cmの男性人骨

上とは別の遺骨は、その頭部位置に4つの渦巻きを描いた土器がかぶさっていた

出土した人骨は大柄で逞しい骨格の“巨人”

■アマゾンとマルタ島で発掘された皿をかぶる“巨人”の遺骨

では、この渦巻き文様の鉢形土器が作られたのは、いつの時代なのか? これをかぶってロマの中間部から少し上の地層に眠っていた男性は、2000年前頃に埋葬されたと推定されている。しかし、その年代が鉢形土器の製作年代とは限らない。なぜなら遺体の下には、まだ約10mの人工地層があり、アマゾン源流域文明がもっと古い時代からあったことを示しているからだ。

そして、この遺骨の男性を含め、モホス平原各地のロマから出土した人骨からは、ひとつの際立った特徴が浮かび上がった。それは「巨人」と表現するにふさわしい、非常に大柄で逞しい骨格を持っていたことだ。これまでに発掘された男性遺体の推定平均身長は190cm前後、女性でも170cmを超していた。

ここで思い当たるのが、マルタ島とゴゾ島で語り継がれてきた「大昔に巨人が大量の岩を運んで大きな家を造った」という伝説だ。その大きな家はもちろん両島に残る巨石神殿遺跡を意味するのだろうが、実はマルタ巨石文明時代の墓で発見された人々の体格も、大腿骨や上腕骨のサイズから判断して大柄だったと推定されている。

アトランティス伝説を後世に伝えたギリシャの哲学者プラトンによれば、アトランティス王国は食料資源に満ちあふれ、大きな野生動物がたくさんいたと記している。マルタ島で発掘された当時の人骨を分析すると、魚介類より動物の肉を多く食べていたこともわかっているので、まず間違いなくマルタ巨石文明を築いた人々の体格も立派だったと想像できる。

その血筋を受け継いだ子孫だからこそ、アマゾン川源流域の過酷な氾濫平原を農地と居住地に変える、気の遠くなるような大規模な土木工事を実現できたのではないか?

それにしてもなぜ、推定2000年以上にわたってアマゾン源流域に栄えた一大農耕文明が、無数の生活痕跡だけを残して12世紀前後に消え去ってしまったのか? 次回の最終リポートでは、その原因とアトランティス伝説の裏側に見えてきた知られざる古代史の真実を紹介したい。

アマゾン源流域文明遺跡の特徴は、土器の出土点数が非常に多いこと。さまざまな絵や模様をつけた芸術性の高い土器も多く、文化レベルの高さを感じさせる

(写真/有賀 訓 『MALTA before HISTORY(』MIRANDA PUBLISHERS)から一部写真転載)

*続編「第6回 アトランティス人の末裔は今も生きている!」は週刊プレイボーイ49号(11月25日発売)に掲載!