今の政治はダメだ! それならいっそのこと、自分が選挙に出て日本を変えてやるーー。

実際、小選挙区選の競争率は4・31倍、比例選は6・21倍と、数字だけなら難関大学の入試や就職試験の競争率と比べてもそれほど高くない数値。「ひょっとしたら、なんとかなるんじゃ!?」……そんな思いを抱いた人が実際に出馬を考えるとき、気になるのは「いくらかかるのか?」ということだ。

まずは立候補にかかるお金で知っておきたいのは「供託金」だ。衆院選に立候補する場合には小選挙区で300万円、比例区との重複立候補なら追加で300万円の「供託金」を納める必要がある。政党の比例単独で出馬する場合は600万円だ。

自民党の選挙対策副委員長・菅原一秀(すがわらいっしゅう)衆議院議員が語る。

「選挙にかかるお金でいえば、供託金はほんの一部です。衆院選の選挙期間は12日間で、公営ポスター掲示板に張る選挙用ポスターは枚数が決まっています。しかし、自分の訴えていることを広く有権者に知ってもらうためには、日常の政治活動用ポスターを数千枚刷って個人宅の壁に張らせてもらうなどの活動もしなければなりません。

例えば、A1サイズのポスターを1000枚作れば、1枚1000円として約100万円。3万人にダイレクトメール(DM)を1回出すだけでも200万円。15万世帯に向けて新聞折り込みをすれば1回100万円。印刷代で100万円。やればやるほどかかります」

いきなりハードルが上がった気がするが、まったくのゼロから立候補する場合、自己資金は最低どの程度必要なのだろう? この疑問にズバリ答えてくれたのは次世代の党の事務局だ。

「お金がある党は供託金を党が全額負担する場合もありますが、そのほかにスタッフの人件費、事務所費、各種印刷物の作成費なども必要です。候補者自身の生活もあります。供託金以外に自己資金を500万円から1000万円は用意しておくべきではないかと」

しかし、自民党の元大臣の政策秘書を務めた池田和隆氏の見積もりはもっと高額だ。

「自己負担額は選挙前の活動費、休職中の生活費などを含め3000万円は必要。事前に2000万円から3000万円は準備したほうがいいですね」

政治家が選挙資金を捻出する方法とは?

そんな多額のお金、みんなどうやって用意するんだろう? 世襲でもなくサラリーマンから区議、都議、衆院議員(当選4回)へステップアップしてきた前出の菅原議員に聞いてみた。

「私の場合、最初の選挙時は親戚や友人、知人から個人的に借金をしました。政治家は選挙に落ちたら収入がない上に借金まみれです。『ただの人』より下だから金融機関からの信用はゼロで住宅ローンも組めません。これは3年間の浪人後、衆院議員に当選してからも同じです」

衆院当選4回、副大臣も務めた現職議員ですらそうなのだ。

「私の父は私が小学生のとき、無所属で衆院選に出て負けたことがありました。その翌日から家にはたくさんの借金取りが押しかけてきた。私自身も最初の国政選挙で落選した後は、1週間のうち4日は資金繰り、3日が挨拶(あいさつ)回りという生活でした。政治家はへこんでいるヒマがないし、選挙中の平均睡眠時間は約4時間。強い意志と体力が必要です」

いきなりお金がドーンと出ていくハードな話が続いたが、法的には供託金などのお金が一部戻ってくる仕組みもある。

日本維新の会(現・維新の党)から前回の衆院選に出馬した経験を持つ元東京都議、野田数氏はこう語る。

「有効投票総数の10%以上の得票があれば、供託金が返還されますし、ポスター代、選挙カーのレンタル代、運転手の人件費、ガソリン代などが公費から支給されます。これは選挙費用を税金で負担する『選挙公営』(※)という仕組みです。ただし、得票率10%を切れば供託金は没収され、これら公費負担分も全額自腹です」

(※法定選挙費用には上限がある。有権者数に人数割額15円を乗じて得た額と、固定額1910万円とを合算した額)

これはかなりの大勝負。当選すれば年収約2200万円の歳費に加え、月額100万円の「文書通信交通滞在費」も得られる。しかし、落選すればゼロ。同じ落選でも、どれだけ票を取れるかが死活問題になるのだ。

(取材/畠山理仁)

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