「活美登利」エミオ石神井公園店では寿司を回転レーンで回す一方、一品料理は配膳レーンでテーブル席に直行。厨房内のタッチパネルで席番号を押すと発車する

円安による原価率高騰などによって、業績悪化していたかっぱ寿司。居酒屋「甘太郎」や焼き肉店「牛角」などを展開するコロワイドに買収されることになったが、専門家たちからは、再建は不可能との厳しい声が相次いでいる。

ほかの100円回転寿司チェーンの現状はかっぱ寿司とは対照的だ。回転寿司評論家の米川伸生氏が説明する。

スシローは2010年下半期の売上高でかっぱ寿司を上回り、今も首位の座を堅持。創業当初から『原価率50%』を公言した戦略が当たり、『味にこだわるスシロー』がしっかりと認知されたことが勝因です。グルメ化路線を走り、今年4月からは1皿189円の取り扱いを本格化させています」

続いては、くら寿司

「“脱寿司化”を加速させ、サイドメニューの開発に力を入れています。特に7種の魚介だしラーメンは、発売から約1年半で1000万食を突破。また、業界内でタブーとされていたコーヒーを昨年12月に導入。この“KURA CAFE”スタイルは定着し、主婦や学生といった新たな客層の取り込みに成功しました」(米川氏)

だが、業界誌編集長のT氏は「かっぱ寿司の凋落(ちょうらく)はスシローもくら寿司も含めた100円回転寿司の限界を意味する」と指摘する。

「その理由は、魚価の高騰です。ウナギは国産、海外産ともにサイズダウンでも対応しきれないほどに価格が高騰し、メニューから外す店も出てきました。100円回転寿司のエビは東南アジア産の養殖バナメイエビやブラックタイガーを使うケースが多いのですが、これまでは1尾15~20円が寿司種の採算ラインだったところ、今は1尾30円近くまで上昇。回転寿司で一番人気のサーモンも、調達量の多いチリ産がこの一年で6割高。イカやウニも高値圏にあります」

魚価高騰の理由とは?

「新興国を中心に回転寿司ブームが起きています。現地の企業が店舗網を拡大し、例えば台湾の『争鮮すしエクスプレス』は台湾に200店舗、中国でも100店舗展開。マレーシアの『すしキング』も100店舗近くの店舗網を構築している。これによって海外での寿司需要が急速に拡大し、サーモンやエビなどの定番ネタを中心に世界的な争奪戦が起きています。現地の買いつけ交渉で日本企業が海外企業に買い負けるケースも目立ち始め、水産卸会社も『100円寿司はもう限界』と口をそろえます」(T氏)

回転寿司店が居酒屋化する?

さらに、100円回転寿司にとって深刻な問題がもうひとつ。

「回転寿司といえば、回転レーンですが、今、そこから寿司を手に取る人が激減しています。ある民間調査では、回転寿司を利用する人の中で、板前に直接注文して握ってもらう人が約6割。寿司がグルグルと回るワクワク感こそ回転寿司最大の求心力になっていたはずが、その魅力が完全に失われています。

さらに原価率の高い100円回転寿司というビジネスモデルは、売り上げ増こそ経営上の至上命題ですが、今では飽和状態で出店余地が残されていません。かっぱ寿司の買収が号砲となり、100円回転寿司業界は今後、異業種を巻き込んだ大再編の時代に突入するでしょう」(前出・T氏)

ここで、「業界大再編は“居酒屋”がキーになる」と断言するのは、前出のT氏だ。

「実は、回転寿司と居酒屋は親和性が高いんです。回転寿司で仕入れる安価な寿司ネタは、居酒屋でも同時に使えますからね。それに、寿司ネタとして仕入れた冷凍魚の中には品質の悪いモノも含まれていることがありますが、それも廃棄することなくゲソ唐、タコ唐などにして居酒屋に転用できる。既存の居酒屋チェーンでは海鮮モノの調達能力が比較的弱く、回転寿司チェーンのバイイングパワーは欲しいはず。居酒屋チェーンを展開するコロワイドもそこを狙ってかっぱ寿司買収に踏み切った部分もあるはず」

実際、回転寿司に創作和食をドッキングさせて成功した店がある。都内と神奈川県内で10店舗を展開するチェーン「活美登利(かつみどり)」が今年4月に練馬区にオープンさせたエミオ石神井公園店。

回転レーンに寿司が回るカウンター席に加え、4人から6人用のボックス席の横には特注の配膳レーンを設置した。大皿やお盆で運べるよう、通常の回転寿司のレーンより幅を広くし、一品メニューも拡充。各座席に設置されたタッチパネルで注文すると、唐揚げやポテトフライ、枝豆など寿司以外の一品料理が厨房から特急レーンで運ばれてくる仕組みだ。日本酒や焼酎、ボトルワインなどのアルコール類も充実している。

「お寿司以外にも一品料理やお酒も人気で、通常の回転寿司店より客単価が上がり、店の売り上げ増につながっている」とホール長の吉田氏は明かす。

業界変化はコンベアメーカーにも影響

また、仙台市の「平禄寿司」は、2005年に資本提携した名古屋市の居酒屋チェーン、ジー・テイストのもとで新展開を見せている。通常の回転寿司店舗だった福島須賀川店を“しゃぶしゃぶと寿司食べ放題”の業態に変え、「平禄三昧」として8月にリニューアルオープン。改装にあたり、既存の特急レーンを大皿やお盆が載る幅の広いタイプに改良した。

現在は回転レーンに寿司が回り、特急レーンではしゃぶしゃぶ用の肉や野菜、そして商品数を増やした居酒屋メニューが高速スピードで往来する。

「業態を変えてからは注文や配膳の手間と時間が省け、家族連れに加えて若者や仕事帰りの会社員など新しい客層の開拓にもつながり、売り上げが5割ほどアップしました。これだけの思い切った業態転換は異業種の会社と一緒になったからこそ。今後も回転寿司からの業態転換は進めていく方針です」

こうなると、居酒屋が回転寿司を食う第2、第3の買収劇が起こっても不思議はない。前出のT氏はこう予測する。

「客席の端末で注文し、特急レーンで料理を運ぶ。回転寿司店が持っているこの自動配膳システムは、店内の従業員の数を最小限に抑え、人件費削減につなげることも可能。人材難の居酒屋チェーンには強力な援軍になる。回転寿司を買収すれば、同時にそのインフラも手にできるということ。今頃、コロワイドに続けとばかりにモンテローザやワタミあたりがスシローの買収をもくろんでいるかもしれません

さらに、特急レーンの寿司以外への活用もトレンドになりつつある。例えば、関西地盤の焼き肉チェーンの松屋は、注文した肉や野菜、ドリンクを特急レーンで客の席まで運ぶ新型店「焼肉特急」を今年4月に大阪に開店。特急レーンの導入で人件費が削られた分、例えば牛カルビ肉は通常店の2割程度安い価格で提供している。さらに串かつをレーンで運ぶ“串かつ特急店”も大阪に出現した。

こうした展開は、大手回転寿司コンベアメーカーの動きと連動しているのも特徴だ。

「回転寿司のコンベアメーカー最大手、北日本カコー(石川県)は、現在、業界シェア7割を握ります。しかし、このまま回転寿司業界が先細りすれば、自社も共倒れする。その危機感から数年前に新型特急レーンを開発。焼き肉の大皿など重いお盆を載せることを想定して幅を広めにし、積載重量も回転寿司向けの既存レーンの10倍に改良したもので、寿司以外の業態向けに積極的に営業をかけています。同社の新技術には居酒屋、焼き肉店、牛丼チェーンなども関心を寄せているそう。今後の大再編に拍車がかかるのは必至です」

回転寿司業界の大再編時代は、もうすぐそこまで来ている。

(取材・文/興山英雄 撮影/五十嵐和博)