早稲田米と、それを持つ早稲田大学環境エネルギー技術総合研究所招聘研究員で、T.M.L代表取締役社長の山川裕夫氏

完全養殖に成功し、今や市場にも流通している近大マグロ。大学と民間企業の連携によって、新たな市場が開拓された。しかも、こうした産学協同の開発プロジェクトは近畿大学だけでなく、東大から地方の大学まで注力、しのぎを削っている。

早稲田大学と慶應大学ももちろん、ベンチャー食品でも“早慶戦”が始まっているのだ! まずは、早稲田大学の取り組みを紹介しよう。

早稲田大学環境エネルギー技術総合研究所招聘(しょうへい)研究員で、T.M.L代表取締役社長山川裕夫(やまかわひろお)氏は、その名もズバリ「早稲田米」を開発した。

「早稲田米の玄米は、通常の玄米に比べてブドウ糖が約13倍、ギャバ(天然アミノ酸のひとつ)が3倍増えています。そのため、甘味とうま味が強く感じられます。また長時間、水に浸す必要がなく、玄米特有のにおいやエグ味も気になりません。

こうした、お米のおいしさを引き出すのが早稲田大学と、埼玉県の産業技術総合センターが共同で研究開発したソフトスチーム加工。これは100度以下の飽和湿り気空気(最大限まで水蒸気を含んだ空気)を使って加熱する技術です。

これまでの加工食品は100度以上の熱を使ったものが主流で、100度以下で加工する技術はありませんでした。例えば、アウトドアなどで利用されるアルファ化米は、水を加えるだけで食べられるように加水加熱加工していますが、あれは100度以上で加熱されているため、細胞が壊れてしまってベチャベチャとした食感になってしまっていたのです」

お米が一番おいしくなるスチーム加工技術とは?

ソフトスチーム加工の長所はそれだけではない。

「肉も魚も野菜も果物も、それぞれに甘味やうま味、栄養素などが高まる温度帯があります。お米もある温度帯になると糖化して、その温度をずっとキープしておくと甘味がどんどん増していきます。これも100度以下の加熱技術がないとできません」

山川氏のチームは10年ほど前からそれぞれの食材の最適な温度を研究し、6年前には野菜のソフトスチーム加工技術の開発に成功した。しかし、米はスチーム前に水に浸す時間やスチーム後の環境など条件が様々あるため、最適な甘味やうま味を出すデータをそろえることが難しかった。

「そして2年前にやっと、お米が一番おいしくなるスチーム加工技術を開発し、今年から生産を始められるようになりました。

日本の農業は素晴らしい栽培飼育技術や農畜技術を持っているのに、海外からの輸入品にどんどん圧迫されています。私は、日本の農業を活性化させるためにはこうした飼育・農畜技術に、さらに加工技術を融合して高品質の商品を作り出さなければいけないと考えています。

11月下旬には『ソフトスチーム米』という名前で早稲田米の白米が発売されます。ブドウ糖が増えて格段に甘くなり、米粒の中までふっくらと炊き上がるんです。ぜひ試してみてください」

(取材・文/村上隆保 熊谷あづさ 撮影/五十嵐和博 村上庄吾)