近大マグロに代表されるように、大学と企業による産学協同プロジェクトはどんどん増えている。早稲田大学と慶應大学も“早慶戦”ばりに、新たなベンチャー食品でしのぎを削っているのだ。
慶應大学では「牛肉」の開発が行なわれている。同大学理工学部共同研究員でAISSY代表取締役社長の鈴木隆一(すずきりゅういち)氏が開発したのは「熟成赤城和牛」だ。
「味覚には甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つがあります。熟成赤城和牛の大きな特徴は、その中のうま味の強さです。
慶應大学と共同で開発した味覚センサーによる分析では、肉のうま味の平均値は2.9くらいですが、熟成赤城和牛は3.6前後。この0.7の差が大きいんです。甘味でたとえれば、2.9は甘味のあるお米で、3.6は甘いオレンジジュースの数値。それくらいの差があります。
では、このうま味の強い牛肉はどうすればできるのか。うま味の成分はグルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウムですが、これをエサに混ぜて牛に与えればいいというわけではありません。
肉質の60%は遺伝といわれているので、まずはうま味のある、いい肉質の母牛選びが重要ですが、さらにそこから『エサにこれくらいの割合で穀物を混ぜた牛は3.1』『こういうタイミングでエサを与えたら3.2』と、数値化していくんです。
牧場では1200頭の牛を飼育しており、そのデータを2年半かけて分析してきました。牛は約30ヵ月で肉牛として出荷されるので、ちょうど今、熟成赤城和牛の研究に取り組み始めたときの子牛が肉牛に成長し、やっと完成品ができたという段階です」
鈴木氏の更なる挑戦とは?
そのため、まだ現段階では多くの熟成赤城和牛が市場に流通しているわけではない。しかし、来年の早い段階では、多くの熟成赤城和牛を市場に出したいと鈴木氏は考えている。
また、味覚センサーを使った“うま味のランクづけ”にも挑戦しようとしている。
「世の中には、ブランド牛以上にうま味のある牛肉が意外と多いんです。でも、知名度がないために安売りされたりしています。味覚センサーを使えば、うま味が数値化できるので、こうした埋もれているおいしい肉を発掘して、消費者の皆さんに情報発信などができます。
また、うま味は日本人にとってはおなじみの味覚ですが、海外では長い間理解されませんでした。うま味をおいしいと感じられる日本人の味覚は世界的に見ても特有なのです。
私は今、うま味のある食品を海外に輸出することが、これからの日本の食品産業を支えると考えています。うま味の強い食品を世界に広めれば、海外の人は本格的な日本食を食べたくなり、結果的に日本の食材が輸出されることになるでしょう。
だから、今は肉のうま味を研究していますが、今後は魚やお米、日本酒などにも取り組んでいきたいと思っています」
現在、ほかにも多くの大学が、独自の研究で新商品を開発している。大学の知恵と企業のパワー。このふたつの力が合わさって、これからの日本経済が再生されていくはずだ。
(取材・文/村上隆保 熊谷あづさ 撮影/五十嵐和博 村上庄吾)