プロ野球歴代選手の「NPB80周年ベストナイン」の発表を記念して、本誌が独自に「プロ野球マンガの最強ベストナイン」を選出してみた。

ただし、水島新司先生の野球マンガを入れるとその登場人物ばかりになってしまうので、そちらは前回に別収録。今回は“水島以外”のベストナインだ。

野球マンガをこよなく愛する専門家たち4人に、過去の名作から議論してもらった。参加したメンバーは以下。

・横浜ベイスターズの通訳兼広報を経た後、新庄剛志選手の通訳としてMLBのワールドシリーズも経験。今年10月に『ゆるすぽ』を立ち上げ編集長に就任した小島克典氏。

・新進気鋭の野球マンガ評論家のツクイヨシヒサ氏。

・『このマンガがすごい!』メインライターの粟生こずえ氏。

・野球関連本やスポーツマンガの書評、コラムなどを執筆しているオグマナオト氏。

それでは、激戦となった選出の模様を見てみよう。まずは投手から。

 * * *

小島:経験上、“プロの投手”なんて変わり者しかいないよ。『巨人の星』の星飛雄馬もしかり。“魔球”のイメージがありますけど、投手としては球質が軽いし厳しい。対極にいるのが『グラゼニ』の凡田(ぼんだ)夏之介。地味な中継ぎだけど能力的にも素晴らしく、移籍事情とかもよく描けてる(笑)。

オグマ:先発なら『ONE OUTS』の渡久地東亜(とぐちとうあ)。エースの条件が“勝つ”ことであるならば渡久地は負けたことがない。最強のエースじゃないですか。

小島:ストッパーは毒島大広(ぶすじまたいこう)もいいけど『MAJOR』の茂野吾郎を推したい。吾郎の声優、高校時代のクラスメイトでして。

ツクイ:魔球なら『侍ジャイアンツ』の番場蛮。『ミラクルジャイアンツ童夢くん』の新城童夢も、小学4年で300キロ近く出したり魔球を乱発したなぁ。

粟生:小学生投手が巨人で活躍するといえば『リトル巨人くん』の滝巨人(たききよと)。内山まもる作品はいいですよ。『てなもんや剛速球』もオススメです。あとは柳沢きみお『男の自画像』。主人公・並木雄二は一度引退して会社員になるも6年後に現役復帰を目指すという、年末の戦力外通告番組みたいないいマンガですよ。

オグマ:忘れちゃいけないのは今年33年の連載に幕を下ろした『なんと孫六』の甲斐孫六。孫六の勝つためなら手段を選ばない“闘争心”の部分は誰よりも突出していますし孫六ボールという魔球も持っています。

人材難のショート。誰が適任?

ツクイ:キャッチャーは『MAJOR』の“とし君”こと佐藤寿也で決まりでしょう。

粟生:インサイドワークも良くて打撃も抜群。さらにあのルックスです。学生時代は黒すぎるのでプロに入れましょう(笑)。

オグマ:ファーストは『巨人の星』花形満かなぁ。

ツクイ:あとは『ジャイアント』の巨峰貢(きょほうみつぐ)ぐらいで意外といない。

粟生:長打力なら巨峰だけど、花形にはえも言われぬ華がある。

小島:花形だね。確か最近も外伝的なマンガがやってたよね。

一同:……あれは……(無言)。

オグマ:セカンドは『ストッパー毒島』の三条洋二。打てないけど、あの守備は魅力ですよ。

一同:これは文句ない!(笑顔)

ツクイ:ショートはまた人材難。

オグマ:『侍ジャイアンツ』の眉月光(まゆづきひかる)。『すすめ!! パイレーツ』の獅子丸(ししまる)。『キャットルーキー』の加縫(かぬい)勇治。あとは『やまだたいちの奇蹟』の山田太一とか。

粟生:『ワイルドリーガー』で巨人の不動の4番を務める御園生静(みそのおしずか)がいるじゃないですか。

小島:米国だと身体能力が高いと“3番ショート”だけど、日本だとエースで4番。ショート不足は日本らしい傾向ですよね。

ツクイ:まぁ、わが国には身体能力が高すぎる“アストロ超人”がいますけどね……入れると荒れるので皆、黙殺してますが。

オグマ:「二郎はラーメンにあらず、二郎という食べ物である」という格言がありますが、アストロ球団も「アストロは野球マンガにあらず、『アストロ球団』である」って思えば腑に落ちます(笑)。

粟生:超人といえば、週プレで連載していた『愛星団徒(あせんだんと)』の鷹王は球速2000キロですよ。最終的には宇宙空間で投げています(笑)。そして9月9日生まれの異能少年たちが活躍する『じゃりガキ9』。このサードに藤堂鷹虎(たかとら)という東大出身の華のある選手がいます。

オグマ:サードは『かっとばせ!キヨハラくん』や『ロボット長島』はある意味最強。中畑清の『燃えろ!キヨシ』もある。

野球マンガでさ最高のライトはイチロー?

ツクイ:『ONE OUTS』の高見樹は物語を通じて、主人公のライバルとして活躍してましたよね?

小島:僕も高見がいいね。

オグマ:では外野ですが、とにかく毒島兄(貴志)は入れたい。

ツクイ:打者としてはみじんも穴がなく、ケガがなければ最強の選手ですよ。ポジションは? 確かセンターを守ってたよね。

粟生:ライトは『すすめ!! パイレーツ』のジェロニモも捨て難いけど、『REGGIE(レジー)』のレジー・フォスターかな。

ツクイ:『愛しのバットマン』の香山雄太郎も素晴らしいです。レフトで当確でしょう。

小島:ベイスターズOB的には左門豊作だけど、彼の特徴は?

ツクイ:汗で大リーグボール2号を破る!

粟生:熊本のすいかのCM!

オグマ:家族思い!

ツクイ:でも、「野球マンガ」というくくりでさえ、最高のライトはイチローになってしまうんですよ。『ドカベン』でも『毒島』でも出るし、『MAJOR』では鈴木コジローの名で登場してます。

粟生:確かに存在がマンガですよね。殿馬との1、2番は岩鬼のときより機能しているし。

小島:イチローの孫が主人公の『TOMORROW』ってマンガは置いといて、今の大谷もそうだけど「マンガみたいな選手」ってのはスターの証ですよね。ではレフト香山、センター毒島、ライトイチロー、DHがレジーで決定ですね。

ツクイ:監督は『硬派!埼玉レグルス』の歯車獅子太郎に一票。ヤクザがプロ野球監督になる物語ですが、最終的に念力でボールを扱い、ピッチャーは浮きます(笑)。クロスプレーで足がもげ、打球の風圧で目が潰れる。で、最後はみんな死にます。なんてマンガだと思いましたね。

オグマ:僕は『侍ジャイアンツ』の川上監督です。アレは番場を成長させる川上マンガですよ。

そして、監督はこの川上哲治で落ち着いた。「プロ野球マンガ最強ベストナイン」は、“華”のある打者がズラリとそろい、毒島兄を筆頭に「天才」が多く選ばれた印象だ。特に渡久地&佐藤寿也の“ブラックすぎる”バッテリーは最恐! それにしても、イチローは野球マンガでも抜群の存在感なのだった。