『週刊プレイボーイ』で「古賀政経塾」の連載を持つ経産相の元幹部官僚・古賀茂明氏が、総選挙における各党原発政策の“本音と建前”に迫る!

■原発政策の“本音と建前”

総選挙における各党の公約が出そろった。

メディアも有権者も、今回の選挙の争点はアベノミクスの評価とする向きが多いが、それだけではない。

集団的自衛権行使の容認、特定秘密保護法、武器輸出3原則の変更など、この2年間、安倍政権が進めてきた「戦争できる国づくり」の政策への是非も大切な争点だ。

さらにもうひとつ、忘れてはならないのが原発政策だ。

福島第一原発事故から3年9ヵ月。いまだに12万人以上もの人々が避難生活を強いられ、来年2月には鹿児島・川内(せんだい)原発の再稼働が控えている。そのことを考えれば今後、日本は原発とどう向き合うべきか、この総選挙できっちりと方向性を示さなくてはならない。

そこで投票日を前に、各党の原発政策を読み比べてみよう。

まず政権与党の自民党。目を引くのは、原子力を「重要なベースロード電源(発電コストが安く、昼夜を問わず安定的に稼働できる電源)と位置づけ、活用する」という一文だ。

2年前の衆院選で自民党は「原子力に依存しなくてよい経済・社会構造の確立を目指す」という公約を掲げていた。それが昨年夏の参院選では「原子力に依存しない」という文字が消え、さらにこの衆院選では「ベースロード電源として活用」に変わっている。

こうした公約の様変わりを見れば、自民党が原発重視、原発の再稼働に前のめりなのは明らかだ。もし、この総選挙に勝利すれば「最重要争点はアベノミクス」と主張しておきながら、「国民は原発政策においても、わが党に信任を与えた」と原発推進、再稼働に乗り出すことは間違いない。

民主、維新は原発政策が定まっていない

そして、自民の公約には“責任逃れ”の巧妙な仕掛けが散りばめられている。

例えば、原発再稼働に関する公約には「原子力規制委員会(以下、規制委。編集部注)によって、新規制基準に適応すると認められた場合には、その判断を尊重し、原発の再稼働を進める」とある。

だが、規制委の田中俊一委員長は今年7月、記者会見で「(規制委は)安全基準に合致しているかどうかを審査するだけで、稼働させるかどうかには関与しない」「(川内原発についても)安全だとは私は言わない」と明言している。

本来、再稼働の決定を下すのは政府だ。なのに、安倍自民の公約は「規制委がお墨付きを出した。原発を動かしても大丈夫と言っているから、再稼働する」と、あたかもその責任が規制委にあるかのようなニュアンスになっている。

さらには「原発依存度については可能な限り、低減させる」という一文。これは典型的な官僚用語で、「可能でない場合は、低減させなくてもよい」ことを意味する。ここでもまた、選挙中はいかにも原発の再稼働に慎重なように見せかけておいて、選挙後には「ちゃんと公約を読んでみて。再稼働できると書いてあったよね」と、開き直れる仕掛けを仕込んでいるのだ。

では、野党はどうか?

共産、社民、生活ははっきり原発反対を打ち出している。次世代は原子力技術の維持を主張していることから、原発推進。

その点、野党第1党の民主と第2党の維新の公約はいずれもあやふやで、わかりにくい。

まず民主は「2030年代の原発ゼロに向け、あらゆる政策資源を投入する」と大見えを切っている。

これだけを読むと、民主は脱原発だと受け止める有権者もいるだろうが、実はそうではない。

約束しているのは「あらゆる政策資源を投入する」ということだけで、それさえ実行すれば、結果がどうなるかについてはうやむやになっている。原発ゼロに向けて、腰が定まっていない。

原因はおそらく民主党の支持母体である連合の圧力が大きいためだろう。連合の有力メンバーである電力総連は原発推進で知られている。選挙運動を支え、組織票を回してくれる連合への遠慮が、民主党の原発政策をこのようなうやむやなものにしていると私は考えている。

有権者はどんな投票行動を取ればよいのか?

維新の原発政策もなんだかよくわからない。「(既設の)原発のフェードアウト」を掲げるが、その公約自体にさほど意味はない。原発の寿命は長くて40年。放っておけば、いずれは既設の原発はみんな廃炉となるからだ。

原発の新設について認めるかどうかには触れておらず、これではどうにも判然としない。維新はもともと原発推進派の議員が多かった。そこに脱原発派議員が多い結いの党と合党し、2派がまだら模様になっていることが影響しているのだろう。

ただ、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の「最終処分問題が解決しなければ、再稼働すべきでない」とした公約には注目してもよいかもしれない。核のゴミの最終処分は永遠の難題で、もし維新がこの公約を貫けば、結果的に原発ゼロ、再稼働反対に動かざるを得ない。

さて、こうした各党の原発政策を知った上で、有権者はどんな投票行動を取ればよいのか?

原発賛成なら自民、次世代、反対なら共産、生活、社民という選択肢がある。あるいは公明は与党だが、「新設を認めず、ゼロを目指す」という立場を取っている。このことは原発反対の有権者は知っておくべきだろう。

悩ましいのは民主、維新だが、これまで説明してきたように、党として原発政策が定まっているわけではない。有権者にすれば、投票してよいのかダメなのか迷ってしまうところだ。

であるなら、民主、維新については候補者の原発政策をひとりひとり確認し、その答えを投票の材料にするしかない。それもできれば、演説会などの公的な場で原発政策を問い、その回答をスマホなどで撮影し、ユーチューブやSNSにアップすることだ。一般の有権者にはややハードルが高いかもしれないが、その候補の原発政策がネットを通じて広まるし、当選後の言質(げんち)ともなる。

いずれにせよ、今回の衆院選はこの国の原発政策を左右する選挙だ。各党の公約をしっかりと読み解き、多くの有権者に投票所へ足を運んでほしい。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011 年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著は『国家の暴走』(角川oneテーマ21 )。『報道ステーション』(テレビ朝日系)のコメンテーターなどでも活躍。脱原発派