「俺になんか起きたら、その時に好きなように書けばいい」と遺したメッセージとは

映画『仁義なき戦い』シリーズなどで知られる名優、菅原文太がこの世を去った。本誌は昨年の39号(9月17日発売)で菅原のインタビューを掲載、実は当時、記事にしなかった言葉があった。

撮影も終了し、取材場所の部屋を出ようとした菅原が記者を手招きし、「連れション、しようや」と誘った時のことである。そこに至るやりとりは週プレNEWSでもすでに伝えた。(http://wpb.shueisha.co.jp/2014/12/08/40282/

「俺になんか起きたら読者に伝えておいてよ」ーー本人の希望で、その時は掲載できなかった、メッセージの続きをここに公開する。

■自分には「弾ぁ、残っとる」と思え

菅原は、トイレの白い壁を見つめ続けていた。そして、おもむろに口を開いた。

「ここ(膀胱[ぼうこう])がおかしくなってから(2007年に膀胱がんが判明)小便するのも大儀でな。まあ、体はあっちこっちボロボロだけどなぁ。それでな、さっき言い忘れたが、若い連中に、もうひとつ伝えたいことがあって。こんなことを言うのは僭越(せんえつ)かもしれんけど。

まっ、今の若い連中も大変だと思うよ。生まれた時から、親や社会がレールを敷いちゃってな、そのレールから少しでもハズれようもんなら、すぐに落伍者の烙印(らくいん)を押されてしまう。レールから外れんように生きていても、ほら、最近はヒドい会社が増えているというじゃない? ブラックなんとかみたいな。まじめないい子ちゃんほど、いいように会社や世の中に利用されちょる。まぁ、それは昔と変わらんけども。

だから、そんな連中に言いたいんだよ。

負けてもいいぞって。

でな、さらに大事なことは心の中で、こう自分で自分に言い聞かせることなんだ。

『弾ぁ、まだ残っとる』。

組織は汚い大人の集まりだから喧嘩するだけ無駄

例えば、若いサラリーマンが会社で理不尽な目に遭っても、そこはいったん負けを認めたほうがいい。自分に正義があったとしても、相手は組織だしな、しかも組織ちゅうのは、汚い大人の集まりだから(笑)。喧嘩(けんか)するだけ無駄だ、勝てっこない。でも、負けたからといって卑屈になることもなければ、気力を手放すこともないんだよ。

そこはジッと我慢して、自分には『弾ぁ、残っとる』と思い、前を向けばいいわけ」

ーー弾とは……?

「その弾の正体は、自分がこれまで勉強してきたことや、周囲の人たちから受けた愛情や支えだと思えばいい。で、本当に自分が勝負を賭けたい時に、その弾をブッぱなせばいいんだ。その弾が当たらなくても、懲りずに自分には『弾ぁ、まだ残っとる』と粋(いき)がって生きてりゃいい。その繰り返しだよ、男の人生なんてもんは」

ーー今のその言葉、メモって原稿につけ加えていいですか。

「いや、よそう」

ーーなぜですか、もったいない。

「メモするのは構わんけど、なんかなぁ、しゃべってて急に恥ずかしくなってきた(笑)」

ーー載せましょう!

「いや、だったら、俺になんか起きたら、その時に好きなように書けばいい。俺も、いつどうなるかわからんし(笑)。まあ、そん時は、そっちの読者に今の言葉、伝えておいてよ」

菅原文太は、ありったけの生命力という名の弾を撃ち尽くし、天に召された。

そうだ、俺たちには「弾ぁ、まだ残っとる」のだ。これからどんなにイヤな目に遭おうとも「弾ぁ、まだ残っとるぞ」とつぶやき、やせ我慢を続けていくのだ。

■菅原文太さんに哀悼の意を表し、明日から本誌昨年39号のラストインタビューを前後編で全文掲載予定!