今年、紫綬褒章を受章したしりあがり寿氏。本誌では4コマ漫画「時事おやじ」を連載中

今年、紫綬褒章を受章した漫画家、しりあがり寿(ことぶき)氏。

その描く漫画は、オリジナリティあふれる作風で数多くのファンを魅了している。また、『週刊プレイボーイ』本誌では、時事に鋭く切り込んだ4コマ漫画「時事おやじ」を「NEWSマシマシ」ページで連載中だ。

そんな、しりあがり氏に、2014年に起こった数々の重大ニュースを振り返っていただくインタビューを敢行。自身のことから、今年世間をにぎわせた話題まで語っていただいた。

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いろいろなニュースがあったけど、一番印象に残っているのは…やっぱり僕が紫綬褒章(しじゅほうしょう)(*芸術、スポーツの分野で活躍した人を対象とする勲章)をいただいたことですね(笑)。

いきなり個人的な話でごめんなさい。でも、本当にビックリする出来事でした。フィギュアスケートの羽生結弦さん、歌舞伎俳優の坂東玉三郎さん、女優の宮本信子さんといった方々の受章はともかく、なぜ僕が、という話でしょ? 何か悪いことでも起きるんじゃないかと逆に不安になったけど、断るのはもったいないし、ありがたくいただきました。

皇居で天皇陛下に拝謁(はいえつ)する機会なんてもう二度とないだろうし、近くにいらっしゃったら“ガン見”しようと思っていたんだけど、いざその場面になると、お辞儀したまま頭を上げられなくなって、ずっと陛下の足元だけ見ていました(笑)。

本題に戻ると、やっぱり今年はキャラの濃い人が多かったかな。特に、理研の小保方(晴子)さん、作曲家の佐村河内(守)さん、兵庫の号泣県議(野々村竜太郎)の3人。

時事モノの4コマを描くにあたっては「なるべく中立の立場をとる」とか、いくつか気をつけていることがあります。で、そのひとつが「笑いをなるべく個人に向けない」なんだけど、号泣県議について描いたものは、笑いが完全に個人に向いてしまった。あそこまでおかしいと、僕もそうせざるを得なくなる(笑)。

ただ、この3人の件では、怖さも感じましたね。彼らは、今まで世間にスクリーニングされてきた上で、それぞれの業界で一定の評価を受けていたわけでしょ。で、僕なんかはそれをなんの疑いもなく信じる。ところが、実はそのチェックが甘かった、みたいな。いろいろ信じられなくなりますよね。

安倍首相はなんか変な熱や湿り気を持ってる

4コマのネタは、普通に新聞やテレビのニュースを見て考えます。何かの分野にすごく詳しいわけでもないし、浅く広く、誰でも知っているような題材を取り上げるようにしています。ただ、風刺だから、どうしても政治、社会ネタの割合が多くなっちゃう。そして、今年は安倍(晋三)首相をたくさん描きました。

安倍首相はなんか変な熱や湿り気を持っていますよね。いつも目が潤んでいるし。同じ首相でも、サッパリとして乾いていた小泉(純一郎)さんとは正反対。ただ、安倍さんは顔の特徴がはっきりしているので、描きやすいのは描きやすい。

その点、前首相の野田(佳彦)さんは手間がかかった。なんて表現したらいいのかわからないけど…たとえるなら、“画数の多い漢字”みたいな顔(笑)。ほかに描くのが大変な政治家は石破(茂)さん。

政治家といえば、今年は(民主党の)海江田(万里)さんを描く機会がなかったね。野党時代の自民党(代表)の谷垣(禎一)さんもそうだったんだけど、それだけ存在感が希薄。橋下(徹)さんも最近は減った。

だから、もうちょっと野党を描きたかったなというのはありますね。おちょくられるっていうのは、良くも悪くも存在感がないとダメなんですよ。そういう意味で、どうしたって安倍さんを描く機会が多くなっちゃう。野党の皆さん、2015年はぜひ頑張ってください。

●しりあがり寿(しりあがり・ことぶき)1958年生まれ、静岡県出身。キリンビール在籍時の85年にマンガ家デビュー。94年の独立以降はギャグにとどまらず、多様な作品を発表。2014年春の叙勲で紫綬褒章を受章した

■週刊プレイボーイ1・2号(12月25日発売)では「時事おやじ」の拡大版で、しりあがり寿氏が描いたコマをセレクトし再掲載、1年のニュースを振り返る!