鈴木宗男氏(左)と佐藤優氏が、衆議院選挙後の日本について鋭く分析する! 鈴木宗男氏(左)と佐藤優氏が、衆議院選挙後の日本について鋭く分析する!

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。今回のテーマは、昨年12月14日に行なわれた衆議院選挙の結果、"今後の日本はどうなるか"だ。

改選前と同様、与党が衆院の3分の2を超える議席を得たため、安倍政権は悲願の憲法改正、集団的自衛権の行使に踏み切る...かと思いきや、なかなか安倍首相の思いどおりにはいかない可能性もあるという。どういうことか?

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鈴木 12月14日に行なわれた衆議院選挙では、皆さんのご支援を賜り、鈴木貴子は2期目の当選を果たすことができました。しかし、今回の選挙ではいろんな人に「民主党には反省がない、お詫びがない。海江田さんがアベノミクスを批判する前に『まずは申し訳なかった』と言うべきだった」と言われました。もし民主党がそういう態度を見せていれば、もう20~30議席は伸びたと思いますね。

今度、民主党は細野(豪志)さんが党代表に手を挙げました。これは思い切った世代交代、そして新生民主党を印象づけるにはいいことだと思いますね。なので、できることなら菅(直人・元首相)さんには潔く身を引いてもらうのが民主党再生のわかりやすい一歩になると思います。それでは、今日は佐藤さんから衆議院選挙の結果分析を聞きたいと思います。

佐藤 今回の衆院選について、新聞各紙は「自民党の大勝利」と報道していますが、頭がまともに動いてるのかって思いますね。解散前の293議席が291議席、2議席減らしてるんだから勝利じゃないですよ。

ただし、与党としては勝利です。公明党は31から35と、4議席増やしました。これで自公で326議席。衆院の3分の2を与党で超えているので、参院で否決された法案を衆院で再可決し成立させることができます。

 今回の大地塾には当選したばかりの鈴木貴子議員も出席。小選挙区で225 票差で敗れた悔しさと、今後の決意を力強い演説で語っていた 今回の大地塾には当選したばかりの鈴木貴子議員も出席。小選挙区で225 票差で敗れた悔しさと、今後の決意を力強い演説で語っていた

自民党若手議員は創価学会のおかげで勝てた

この状況は選挙前と変わっていませんが、選挙の内実を見ると、自民党の勝利とは到底言えません。今回、投票率は52・66%という史上最低の数字でした。こういうとき、選挙は組織力の勝負になります。

ところが、最近の自民党の1、2年生議員は後援会をつくらないんです。民主党も1、2年生はもとより、閣僚経験者までも後援会を持っていない人がいる。なぜか? 自民党の若い連中は創価学会、民主党は連合に選挙を頼ってるからです。要は、今回の選挙は創価学会と連合と共産党の組織戦で、その力量の差がそのまま獲得議席の差につながったにすぎないんです。

小選挙区において、創価学会・公明党は2、3万票を動かすことができます。つまり、次点の候補との差が2万票以内で当選している自民党議員は学会の力で当選しているので、公明党が別の方向を向けば、次は全員落選することになります。

小選挙区で当選した自民党議員の得票数をきちんと見ていくと、自民党単独で当選する力は相当少なくなる。実質の力は291議席の半分程度と見るべきでしょう。残り半分は公明党の力です。だから政局上の力は、自民党と公明党はほぼイーブンと見ていい。

ただ、安倍総理は自民党が完全に創価学会に依存しているという自らの政治的基盤の脆弱(ぜいじゃく)性は見えていないようです。それどころか今回の選挙で、国民から白紙委任状をもらったと勘違いしているくらいです。

安倍さんは、選挙というのは公約をお配りして理解していただいて投票していただく、とか言ってましたが、選挙公約なんて誰も見ないような冊子を党本部に置いて、ネットに上げて、それで公約全部が選挙で国民に信任されたなんてメチャクチャな話です。

政治家は自分の言葉で、こういった政策をやるんだと説かなければいけない。ましてや、集団的自衛権の行使や憲法改正という最重要問題は総選挙の争点にして明示しなければならない。

ところが、選挙戦でそんなことには触れなかったと、テレビ東京の選挙特番で池上彰さんに指摘されて、安倍さんはカーッとなった。人間カーッとなるのは事実無根のことを言われたか、本当のことを指摘されたか、そのどちらかですからね。

次世代惨敗で、憲法改正の路線は遠のいた

集団的自衛権に関しては、イスラム国の脅威がこれだけ高まっているのに日本は自衛隊を派兵できない。これは(2014年)7月の閣議決定で公明党の縛りがかかっているから。自衛隊は海外に出せないと、公明党との間でまとまってしまっている。

今回の選挙で私が注目したのは東京12区でした。ここは公明党・太田昭宏さんの地盤ですが、次世代の党から田母神(俊雄)さんが出馬してこう言ってました。「安倍さんが本当にやりたいことをやるためには、公明党を倒さないといけない」

この田母神さんの動きに対して、次世代の党の石原慎太郎さんが、出馬を思いとどまらせようと説得したけど断られたという報道も出ました。すると石原さんは「申し訳ございません、公明党さん。私はこの責任を取って政界を引退させていただきます」となった。次世代の党の比例名簿9位はそういう意味なんです。

これは東京3区から出ている、三男の宏高候補が公明党に見捨てられたら落選することが背景にあるんですが、とにかくお詫びとして、長男の伸晃氏が太田さんの応援にも来たりとか、石原さんは目に見える形で田母神さんと決別するわけです。

すると、自民党のほかのタカ派議員も田母神さんとは違うという態度を見せ始めた。そして選挙では次世代が19議席から2議席へと壊滅的な惨敗を喫した。要するに、安倍さんの思想的盟友が断罪されたわけです。これで憲法改正の路線は遠のきました。

なのに憲法改正について安倍さんは、池上さんに挑発されて、選挙特番で一歩一歩進めると認めてしまった。さあ、これからが大変なんです。

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

■「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は1月29日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ。

●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002 年に国策捜査で逮捕・起訴、2010 年に収監される。現在は201 7年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる) 1960 年生まれ、埼玉県出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍