強力なリーダーシップで国際社会でも存在感を発揮する中国・習近平主席。世界が注視する彼の2015年は、いったいどんな年になるでしょうか。

“お試し期間”は終わりました。

習近平(しゅうきんぺい)氏が中国の国家主席に就任してから、間もなく丸2年。これまで彼の言葉や政策をウオッチングしてきて、指導者としての人物像はおおよそ見えてきました。

印象的なのは、反腐敗闘争(汚職撲滅運動)をはじめ、安倍晋三首相との会談やアジアインフラ投資銀行の設立など、内政・外交の重要政策を習主席が自ら決めていること。近年の中国は集団指導体制で政治を行なってきましたが、習主席には“リーダー”という言葉を超えた権力集中が起こっているといえます。

国際社会には習政権を強権的だと見る向きもありますが、逆に言えば、これほどのリーダーシップを発揮する指導者は近年いなかったという見方もできる。“調整型・官僚型”だった胡錦濤(こきんとう)前国家主席との差は歴然です。改革を強靱(きょうじん)に推し進めていくという意味で、習主席の手腕に期待を寄せる国内外の関係者も少なくありません。

内政にしろ外交にしろ、現時点ではうまくいっているように見える習政権ですが、習主席が打ち立てた多くの体制や政策は、まだ実を結ぶ段階には至っていない。2015年は、それをいかに実現していくかが焦点になるでしょう。

放った矢が狙ったところに命中しなければ、“机上の空論”という批判は免(まぬが)れず、その矛先は政治・経済・外交・軍事などの分野で権力を掌握している習主席へダイレクトに向かう。言葉よりも行動と結果が重視される一年になることは間違いありません。

日本のメディアでは、ナンバー2の李克強(りこくきょう)首相と習主席の仲が芳(かんばし)くないという報道もあるようですが、ぼくが知る限り、両者はパートナーとしてうまくやっています。

自分の担当分野を超えて“政治の民主化”などに首を突っ込みがちだった温家宝(おんかほう)前首相と比較すると、李首相は「自分の担当は経済」と割り切っており、政治改革や軍事、外交といった他分野には関与しようとしない。一方、習主席は李首相担当の経済政策・構造改革に関しても、はっきりした発言を繰り返している。

だからこそ、特に外国からは「両者の関係が悪い」という取り上げられ方をするのでしょう。しかし、李首相の経済政策が具体化していくのは今年以降ですし、習主席も彼の手腕に期待しています。

なぜ習近平がリスクに?

どの国でも同じかもしれませんが、中国にも「経済の成果が政治の安定を決める」という常套句(じょうとうく)がある。その点、李首相は経済分野の責任者としてきちんと仕事をしており、中国メディアでは毎日のようにその動向が報道されています。不動産価格や成長率の下落が取り沙汰されるなか、李首相は都市化政策や自由貿易区構想、中小企業減税、サービス業振興などでイノベーションを起こすという成長戦略を進めようとこまめに動いている。経済リスクはさほど表面化しないでしょう。

では、2015年の中国にとって不安要素は何かと言えば、やはり政治リスクでしょう。習主席が昨年、周永康(しゅうえいこう)元政治局常務委員という超大物を汚職などの理由で“落馬”させたことについて、中国共産党内には反発の声も根強く残っています。こうした権力闘争の余波がいつ、どのような形で噴出するのか予断を許しません。

そして、最大のチャイナリスクは「習近平リスク」です。これほどまでに権力が集中している習主席の身に、健康問題などなんらかのアクシデントが発生した場合、党指導部は安定とバランスを保ったまま進んでいけるのか。当然、指導部は常に不測の事態を想定しているとは思いますが、政治の多くを習主席に依存しているだけに懸念は捨て去れませんし、本人もプレッシャーを感じていることでしょう。現在の中国にこれ以上のリスクがあるというなら、逆に教えて!!

●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!http://katoyoshikazu.com/china-study-group/