ついにテロリストによる悪夢の悲劇が日本をも襲ったーー。

24日、日本人ふたりを人質に身代金を要求していた「イスラム国」がそのうちのひとり、湯川遥菜氏を殺害したとされる映像が公開され、日本中に戦慄が走った。

一方、それ以前、『シャルリー・エブド』紙へのテロ事件を受けて1月13日、フランスのバルス首相は「フランスはテロとの戦争に入った」と宣言し「(テロに対しては)あらゆる手段を取る」と語った。

この年明け早々の事件から、世界は緊張状態にある。イスラム国への大規模な攻撃も、今にも始まりそうな気配だ。しかし実は、パリで発生したテロをもう一度整理してみると、隠れていた構図が見えてくるのだ。

国際ジャーナリストの河合洋一郎氏が指摘する。

「まず、シャルリー・エブド襲撃事件を担当した兄弟テロリストたちが、射殺される前にマスコミに語った内容と、AQAP(アラビア半島のアルカイダ)が出した犯行声明の内容は一致しています。つまり、シャルリー・エブド襲撃事件はアルカイダのテロなのです」

実際、AQAPの出した犯行声明にも「標的を選び、計画を立て、作戦の資金を出したのは組織(アルカイダ)の指導部である。この作戦はアル・ザワヒリの命令によって行なわれたものであり、オサマ・ビンラディンの遺志でもあった」とある。正統的なアルカイダ・テロなのだ。

「それに対して、ユダヤ系食料品店に立てこもった男は、イスラム国のメンバーというより、イスラム国ファンのHGT(ホーム・グロウン・テロリスト=自国育ちのテロリスト)とみていいでしょう。イスラム国はアルカイダほど欧米でテロを行なう必要性はありませんから」(河合氏)

つまり、同時期にフランスで起こったテロは、アルカイダ系とイスラム国系によるもので組織が違うのだ。河合氏によると、この両者には深い因縁があるという。

戦争資金の調達に身代金ビジネスが

「今回の一連のテロは、アルカイダとイスラム国との間でのサラフィー・ジハードの主導権争いなのです」

サラフィー・ジハードとは、武力を使ってイスラムの理想を実現する聖戦のことだ。

「実は去年の2月3日、イスラム国はその行動が過激すぎるためにアルカイダ総司令部から破門されています。一方、破門されたイスラム国は『アルカイダ指導部は、正しいジハードの道から外れた』と、逆にアルカイダ批判を始めました。

イスラム国はアルカイダと対立関係になりましたが、その思想の純粋さが世界各地の義勇兵を引きつけることになり、それがあの類(たぐ)いまれなる残虐性の源にもなっています。

アルカイダは人気面でイスラム国に押され気味となり、失地回復と、ジハード主義者たちの注目と支持を集めるために欧米をターゲットにした大規模テロを実行するしかありませんでした。今回のシャルリー・エブド襲撃は、その第1弾です」(河合氏)

つまり、アルカイダvsイスラム国の「人気取り・自己顕示テロ合戦」が全世界で開始されたというのだ。

そして、アルカイダのフランステロを受け、イスラム国が対抗措置として出してきたのが、日本を巻き込んだテロである。

これまで資金が潤沢とされてきた「イスラム国」だが、それを支えた原油マネーが米軍を中心とした石油施設への空爆で急速に絶たれているという。となれば、もう一方の重要な資金源のひとつ、身代金要求が生命線ともなってくる。

世界を巻き込み広がる戦火…二大テロ勢力の示威争いに日本も否応なく直面せざるをえない。

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(取材/小峯隆生)

■週刊プレイボーイ6号(1月26日発売)「アルカイダvsイスラム国 “ 自己顕示テロ合戦”の行方」より