日本サッカー史に残る快挙だ。現役最年長、90歳のサッカージャーナリスト、賀川(かがわ)浩さんが長年の功績をたたえられ、FIFA(国際サッカー連盟)会長賞を日本人で初めて受賞した。

FIFA会長賞はサッカー界に大きな貢献をした人を表彰するもの。過去にはペレも受賞している。そこに賀川さんが名前を連ねるのは、日本サッカーにとっても、日本メディアにとっても誇らしいこと。授賞式での彼のスピーチを、メッシやクリスティアーノ・ロナウドがニコニコしながら聞いていたのは本当に印象的だった。個人的にも、サッカー不遇の時代から頑張り続けてきた彼がこうやって評価されるのは、自分のこと以上にうれしいよ。

何を隠そう、賀川さんがいなかったら、僕は今こうして日本にいなかったかもしれないからね。

それは1977年、所属チームの解散とともに現役引退を決意し、これからどうしよう、ブラジルに帰ろうかなと考えていたときのこと。ちょうど日本全国を巡回する大規模なサッカー普及プロジェクト(「さわやかサッカー教室」)が進んでいて、賀川さんが日本サッカー協会に「セルジオ君にコーチをやらせたほうがいい」と強く推薦してくれたんだ。

実際にサッカー教室が始まってからも、よく取材に来てくれた。時には「セルジオは子供に人気があるなぁ。きっと日本語のレベルが小学生にちょうどいいんだな」と言われたこともあったけど(苦笑)、僕にとっては日本での新しい道を開いてくれた、まさに恩人だ。

その後も、専門誌で一緒に連載をやらせてもらったり、地方の指導者を紹介してもらったり、本当にお世話になっている。

FIFA公式サイトに大会最年長記者として紹介

そんな経緯もあって、昨年のブラジルW杯では恩返しの意味を込めて、現地でのアテンドをさせてもらった。賀川さんは、2010年の南アフリカW杯は持病の腰痛が悪化して取材に行けなかった。だから、ブラジルに行くかどうかも迷っていたんだけど、「W杯をブラジルでやるのに行かないの? 一緒に行きましょうよ」と誘ったんだ。

賀川さんとはもう何十年もの付き合いになるけど、ブラジルでは彼のタフさにあらためて驚かされた。飛行機の乗り継ぎの合間に原稿を書き、長時間のバス移動も苦にしない。現場ではなんでも自分ひとりでこなしていた。

ちょうど大会期間中、FIFA公式サイトに大会最年長記者(当時89歳)として紹介されたんだけど、翌日からは連日、海外メディアの取材を受けていたね。

実は今回の授賞式の前、賀川さんから電話があって、「ブラジルW杯に行っていなかったら、こんなすごい賞はもらえなかったよな。セルジオ、おまえのおかげだ」と言ってもらったのは本当にうれしかった。

でも、これで終わりじゃない。賀川さんが言うには、上には上があって、W杯取材の史上最年長記録はまだ更新していないとのこと。ウルグアイのディエゴ・ルセロさん(故人)という記者が93歳のときにW杯(94年アメリカ大会)を取材しているというんだ。

賀川さんが3年後のロシアW杯の取材に行けば、同じ93歳。でも、誕生日は賀川さんのほうが17日ほど早いので、本当の意味で史上最年長になる。だから、ぜひまた一緒に行きたいね。今から楽しみだよ。

(構成/渡辺達也)