過激派組織「イスラム国」による人質事件では、湯川遥菜さんに続き、後藤健二さんも殺害されるという最悪の結果となった。

イギリスのあるジャーナリストは「殺害動画や囚人服姿ではなく、彼がジャーナリストとして活動していた頃の写真を拡散しよう」と訴え、そのリツイートは日に日に広まっている。今、我々がすべきことはなんだろうか?

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に独自の視点で斬り込む、連載第3回!

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後藤健二さんの安否がわからなかったとき、あなたはニュース速報をチェックしながら、何を待っていましたか。結果が知らされたとき、検索スペースにどんな文字を打ち込みましたか。

もしも彼があなたの知人だったら、あなたの取った行動は違ったのでしょうか。

出来事がニュースになると「情報」というモノに変わってしまう。ストーリーを追うことに夢中になって、そこに生身の人がいることを忘れてしまうのです。だからこそ後藤さんは記者として紛争地に赴き、速報記事には決してならない、苦しむ人々の声を広く伝えたのですね。

映像の中の後藤さんもテロリストも、あなたと同じように一度きりの人生を生きている。彼に最後に触れた人物の体もやはり温かかっただろうということに、私は言葉を失います。

どちらも人間だった。私たちがそうであるように。

後藤さんについて喧(かまびす)しく批評をする前に、今はこの受け入れ難い矛盾に苦しむ時間が必要なのではないかと思います。

人ごとの正論は虚(むな)しいだけ。でも逡巡(しゅんじゅん)と不安の中からおずおずと絞り出す言葉には、世界を変える力があるはずなのですから。

●小島慶子(こじま・けいこ)タレント、エッセイスト。1972年生まれ。第36回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。2001年、ラジオの生放送中にアメリカ9.11同時多発テロ事件が発生。崩壊するビルの様子をリアルタイムで実況した