社会問題になっている自転車の危険運転を排除するため、警察は取り締まりに本腰を入れているという。

1月20日、道路交通法(道交法)の改正が閣議決定された。この改正は14項目にわたって自転車の「危険行為」を定め、3年の間に2回以上違反した運転者に対しては、安全講習の受講を義務づけている。受講をしなければ5万円以下の罰金だ。

ただ、この14項目の「危険行為」をよく見てみると、「飲酒運転」や「ブレーキ不備」といった明らかな危険行為のほかに「一時停止違反」や「歩行者妨害」といった、ついウッカリやってしまいそうなミスもいくつかある。

これまで警察は、そういったミスをその場で注意することはあっても、いちいち摘発までしなかった。それをなぜ今、厳しく取り締まろうとしているのか。国内外の自転車政策を調査・研究している自転車活用推進研究会の内海潤(うつみじゅん)氏に聞いてみた。

「道交法は1960年に作られた古い法律ですが、これまで自転車に関する内容はほとんど変わってきませんでした。今回の14項目の『危険行為』も基本的に旧道交法から引き継がれたものです。

しかし、運用の仕方はかなり違います。旧道交法における自転車の交通違反には、自動車のように反則金を払えば起訴が免除される『反則金制度』、いわゆる“青キップ”という救済措置が存在しなかったんです。

だから、もし旧道交法で取り締まられたら、交通違反は一発で〝赤キップ〟が切られることになっていました」

少し説明すると、青キップと赤キップは、お金を支払わねばならない点では一緒。しかし反則金で済む青キップに対し、赤キップは略式起訴(即日1回の裁判で結審までいく簡略化された裁判を、検察官が裁判所に求めること)されて前科までつく。

もちろん、支払い額も赤キップのほうが高額だ。例えば、自動車で信号無視をした場合は青キップで反則金は9000円。ところが、自転車の信号無視はいきなり赤キップとなるので、即「5万円以下の罰金」となる。

なぜ大量摘発に舵を切ったのか?

■自転車の摘発! 恐怖の“赤キップ”

重大事故を起こしたわけでもない、うっかりミスでも多額の罰金刑を科せられ、前科持ちになるというのは、さすがに大げさすぎないだろうか…? だが、そこは警察サイドも同じだったらしい。

「現場の警察にとっても、赤キップを連発するのは大きな負担です。略式起訴のための取り調べや書類作成などの事務手続きは時間がかかるし、検察や裁判所だって手間がかかる。そんな理由もあって、自転車が目の前で信号無視をしたり車道を逆走したくらいでは、警察もほとんどの場合、摘発しなかったわけです」(前出・内海氏。以下同)

ではなぜ今、取り締まり強化に舵(かじ)を切ったのだろう?

「自転車事故の件数そのものは減少傾向にあるのですが、全交通事故における自転車事故の割合はむしろ高くなっていて、自転車の交通違反による死亡事故も増加しています。警察としても無視できなくなったのでしょう。

それに近年、警察は違反自転車の取り締まりを徐々に強化していて、赤キップの交付件数は2009年に全国で1326件だったのが、2年後の11年に3956件、そして13年には6796件と急増。そうした流れの中で制度を現実に即した形にしたのが今回の道交法改正なんです」

今回の法改正によって、警察は煩雑な手続きを気にせずビシビシ取り締まれるようになる。一方の自転車ユーザーはいきなり前科持ちになるリスクは消える代わりに、取り締まりを受けるケースが増えるというわけだ。

取締まりのアウトとセーフは?

■わかりにくい「危険行為」を大解説!

ここからは「危険行為」の具体的な中身を見てみよう。14項目の中には「通行区分違反」や「歩道を通行する際に通行方法を守らない」といった、字面を読んだだけでは具体的にどういう行為か、いまいちつかみづらいモノがある。引き続き、内海氏に解説してもらった。

「まず前提として、いまだに多くの方が勘違いしていることですが、自転車は道交法で『軽車両』に当たります。なので、走っていいのは原則として車道なんです」

ということは、歩道通行は即違反になる?

「通行するだけなら違反ではありませんが、スピードを出して走ると『歩道を通行する際に通行方法を守らない』に当たる場合があります。歩道を通行する時は徐行しなければいけません」

徐行とは時速何キロぐらい?

「警察は時速6~8kmをだいたいの基準にしていますが、現実的なスピードとはいえません。道交法では直ちに停止できる速度とありますが、とりあえず“ブレーキをかければ、すぐに止まることができる程度の速度”と思っておけばいいでしょう」

とはいえ、このあたりはかなり曖昧(あいまい)。取締まりの際に揉(も)め事が多発しそうだ。続いて、「通行区分違反」。

「わかりやすく言えば、車道の逆走禁止です。自転車が車道の右側を走ると、車と向かい合うことになって大変危険です。自転車は1車線の場合は車道の左端、片側2車線以上の場合は一番左側の車線を走らなければなりません」

要注意!一番多い摘発はこれ!

■一歩通行、一時停止はどうする?

一方通行の道路を逆から入る場合は? やはり、逆走として扱われるの?

「いえ、一方通行の標識の下に補助標識があり、そこに『自転車を除く』と書かれている場合は逆走になりません。ただ、ここでも必ず左側を走りましょう」

あと、「路側帯での歩行者妨害」という項目があるけど、「路側帯」とは?

「脇に歩道がない道路の外側にしかれた歩行者用のスペースのこと。自転車は路側帯を走行する時に歩行者の妨げになってはいけません。路側帯は、以前は左右両側の自転車通行が可能でしたが、危険ということで昨年の道交法改正で左側通行に限定されました」

最後は「一時停止違反」について。これは自動車でも取り締まりに引っかかりやすい、やりがちなミスだけど自転車の場合は?

「自転車での一時停止とは“片足を地面につく”ことです。ただ、実際にこれを守れている人はかなり少ないので、この項目で摘発されることが一番多くなるかもしれませんね」

改正道交法の施行は今年の6月1日。施行直後に安全講習が超満員なんてことにならなければいいが…。

(取材・文/頓所直人)