イスラム世界に内側から風穴をあけるべく、英語とアラビア語で世界に発信しながらガチンコの戦いを続ける人物がいる。彼女の活動を理解すれば、今のイスラム世界が抱える課題がくっきり見える!

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソン の挑発的ニッポン革命計画」を連載中のマルチな異才・モーリー・ロバートソンが語る。

■真っ赤に染めた髪、両腕にはタトゥー

今の世界情勢では、イスラム過激派によるテロが一定の割合で起きてしまうことは避けられない。この冷徹な現実を受け入れよう。ムスリムの人々への監視を強めるとか、そんな短絡的な発想は社会の“溝”を深めるだけで、なんの解決にもならない。

根本的な解決策があるとすれば、それはイスラム世界そのものを変えること。でも、どうやって? 実は、そういう動きがイスラム世界の内側から出てきているんです。

2011年1月、チュニジアの独裁政権が崩壊したジャスミン革命を皮切りに、「アラブの春」と呼ばれるデモの嵐が吹き荒れた。盤石な独裁政権下のサウジアラビアやイラン、すでに紛争状態にあったイラク、アラブの春が大弾圧と内戦の引き金になってしまったシリアなどは別にして、多くのアラブ諸国で民衆が蜂起し、政権が転覆したり、社会が大きく動いた。

しかし、結果的にはさほど状況が好転しなかった国も多い。例えばエジプトでは、ムバラク独裁政権の崩壊後、イスラム主義政党のムスリム同胞団が政権を掌握。その後、混乱のなかで軍がクーデターを起こし、今も軍事政権下にある。この軍事政権は、過去の圧政を表面上は批判しながら、実のところ同じように宗教という“印籠(いんろう)”を使い、無神論者や女性、ゲイを弾圧しています。

ただし、以前と違うのは、理不尽な圧政に対する“カウンタ”が存在感を発揮していること。今回紹介するモナ・エルタハウィさんは、その中心人物のひとりです。

モナはエジプト系アメリカ人の女性ジャーナリストで、アラブの春のときはエジプトの首都カイロに入り、英語とアラビア語で24時間、生々しい情報をツイートし続けた。その後、新たに出現した圧政と戦うために、カイロで抗議デモに参加した際、警察に捕まってしまいます。

イスラム世界に必要なのは女性の意識と性の解放

すぐに世界中のフォロワーから非難の声が殺到し、当局はやむなく解放しますが、モナは拘束中に暴力で両腕を折られたり、大勢の男たちから股間に手を入れられるなど、ひどい性的暴行を受けた。事実上、男尊女卑のアラブ社会では、ほかにも同じような目に遭った女性が数多くいるけれど、彼女たちは声を上げられなかった。

ところが、モナは両腕にタトゥーを入れ、髪を真っ赤に染め、カイロで活動を再開した。アラブ社会では考えられないことですよ。

右腕のタトゥーは“復讐(ふくしゅう)とセックスの神”とされる古代エジプトの女神「セクメト」をかたどっている。現在のイスラム世界で女性が受ける抑圧や性暴力に復讐しつつ、一方で気に入った相手とは思う存分ファックしてやるぜ! そんな挑発的なメッセージが込められているんです。

モナはこう言います。イスラム世界を変えるために必要なのは、女性の意識と性の解放だ。頭の中からは独裁者ムバラクを追い出したけれど、寝室にはまだムバラクがいる。これは、私たちの膣から独裁者や原理主義者を立ちのかせるための運動だ。ただし、私が気に入った人は、私がいいと言ったときには入ってきてほしい。アラブ女性よ、もっとセックスをしよう、フェアなルールでーー。

■上からマララ、下からモナ!

モナは“欧米で評価されるアラブ系フェミニスト”という枠にとどまらず、イスラム世界の内側で声を上げる。自分が汚されたり、弾圧されながらも戦い続ければ、いろんな方面から応援を引き出せることを知っている。ろくな戦略もないまま原理原則を振りかざしたり、安全地帯からきれい事を言う人たちとは次元が違います。

だって、「聖典コーラン自体は男尊女卑じゃないというなら、現在の法解釈が間違っている。それを変えろ」とまで言うんですよ。最悪の場合、どこかからファトワ(宗教指令)が出されて刺客がきてもおかしくないのに…。本当にガチンコの戦い!

もちろん彼女の言説は、イスラム世界では賛否両論。過激な原理主義者だけでなく、敬虔(けいけん)な信仰心を持つ穏健派のなかにも、快く思わない人も多い。男性と女性を分けるのは悪いことではない、西洋の価値観を押しつけるな、と。それでも、モナの味方はジワジワ増えているように見える。アラブの春は決して無意味だったわけじゃなく、人々の心を着実に解放させているんだと思います。

女性の意識変化を理解する男がモテる

モナはまた、アメリカでも戦っている。“胎児の人権”を振りかざしてレイプ被害者の中絶をも許さないキリスト教右派議員や、反ムスリムキャンペーンを張る右翼団体とバチバチやり合う。そもそも、こういうタカ派の支持を受けた共和党政権が、かつてエジプトのムバラク独裁政権を支援してきたわけだから、そういう意味でも彼女の活動は筋が通っている。

大局的な視点で言えば、モナの活動は、ノーベル平和賞を受賞したパキスタン出身のマララ・ユスフザイさんにもつながっていく。受賞当時、「マララはリベラルな大人たちが、イスラム世界を悪く見せるために利用している“パンダ”だ」という心ない批判が一部ではびこりました。でも、モナとマララの活動を合わせて理解すれば、この批判が的外れだとわかる。

女性が教育を受ける機会、発言する機会が極めて制限された社会では、女性は力の抑圧に対抗するすべを持てず、家に押し込められ、貧困が下の世代に受け継がれる。逆に言えば、女性がみんな教育を受け、文字が読めるというラインを越えれば、一世代で政治秩序や社会秩序は変わる。過激な原理主義が力を持つための土台が揺らぐ。タリバンはそれを恐れて、マララの頭を撃ち抜いたんです。

教育という“苗”を植えるマララと、成長した大人の女性を解放するモナ。下世話な言い方だけれど、上(頭)からも下(膣)からもフェミニズムのデモクラシーを促す彼女たちの活動を応援することは、イスラム世界をいい意味で多様化、流動化させていくことにつながる。

ちなみに、日本人の女性にモナの話をすると、ふたりにひとりは目をキラキラさせます。日本でもこれから女性の意識はどんどん変わっていき、それを理解する男がモテるようになる。そういう意味でも、僕はみんなにモナのことを知ってほしい。彼女が日本に来たら、ぜひ岩井志麻子さんとコラボするといいと思う。僕が通訳します!

●Mona Eltahawy(モナ・エルタハウィ)エジプト系アメリカ人ジャーナリスト、フェミニスト。ニューヨーク・タイムズ、BBC、アルジャジーラなど、欧米やアラブ圏の多くのメディアに出演・執筆。2009年4月にツイッターに登録して以来、総ツイート数は30万以上!

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)1963年生まれ、米ニューヨーク出身。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも、3ヵ月で中退し、米ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン、国際ジャーナリスト、ラジオDJとして活動。現在は『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Sho 』(Block.FM)などにレギュラー出演中