「イスラム国を解体するには軍事的アプローチだけでは無理で、経済、そして思想を使うことも考えなければならない」と指摘する佐藤優氏

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

今回のテーマは、湯川遥菜さん、後藤健二さんを拉致、殺害したイスラム国についてだ。イスラム国の次の標的のひとつとして名指しされた日本は、今後どうすべきなのか?

(前編はこちら⇒ http://wpb.shueisha.co.jp/2015/02/12/43410/

(中編はこちら⇒ http://wpb.shueisha.co.jp2015/02/19/43753/

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佐藤 イスラム国については、中長期的に見て、今後、3つのシナリオがあると私は見ています。

ひとつはイスラム国が勝利する。そうなると、我々はもう酒は飲めなくなるし、イスラム国の掟(おきて)に従って生きていくことになる。

2番目はイスラム国がなくなる。そして3番目が、イスラム国がソ連化していくシナリオです。というのも、イスラム国の成り立ちは、かつてのソ連に似ているんですよ。

1917年にロシア革命が起こった後、レーニンたちは全世界で革命を起こそうとして、1919年に「コミンテルン(共産主義インターナショナル)」、いわゆる国際共産党をつくりました。その日本支部が日本共産党ですね。

彼らは「国際法なんか守る必要はない、あれはブルジョアどもがつくった法律で、我々はそれに従う必要はない」と言っていた。ところが、この理屈で革命を起こそうとするけれどもうまくいかないし、世界中に広がっていかない。

そこでレーニンたちは、コミンテルンとは別にソ連をつくります。これが1922年、コミンテルンより後のことです。そして「ソ連は国際法を守る、コミンテルンと我々は関係ない、ソ連は世界革命運動の手助けはしません」という2本立てで動き始めた。

このためコミンテルンは徐々に弱っていき、最後は第2次世界大戦中に、国際法無視のコミンテルンがあると、西側と一緒にナチスと戦えないという理由でソ連はコミンテルンをなくすわけです。

これと同じように、イスラム国も世界各地でテロをやろうとしているんだけど、そのテロ活動の広がりに限界があるとなったら、中東の今の領域で事実上の国をつくり、国連には加盟しないで、なんとなく国のような安定した感じを維持しながら、チャンスがあればテロを世界各地でやるようになるでしょう。

このままいくと、イスラム国はこの3番目のシナリオになると思います。

彼らの危険さを周知徹底すべき

ただし、世界テロ革命の脅威に人類が日常的にさらされる環境はよくない。イスラム国は本気で解体しにいかないといけない。その方法は軍事的アプローチだけでは無理で、経済、そして思想を使うことも考えなければなりません。

思想とは、20世紀以降、我々が受け入れてきた普遍的な人権とか自由とか民主主義。一方、この価値観を根本的に覆(くつがえ)して、奴隷制を導入するとか、裁判もしないで首切って人を殺すとか、こういうことをしているイスラム国の思想と行動がいかに危ないか、それを世界にきちんと認識させる思想教育が必要です。

日本にも、思想的にイスラム国を支持している人がいますが、イスラム国は思想とか口先だけの支援じゃなく、決起して行動しろと思ってる。今回のような日本人が犠牲になる事件が起こると、イスラム国を支持している日本人に対して、マスコミや当局が厳しくなる。そうして彼らをコーナーに追い込ませ、暴発させる状況をイスラム国はつくり出そうとするでしょう。

ですから、彼らが暴発しないように社会の力を結束させなければいけないし、彼らの主張を面白おかしくワイドショーで出すなんて、いかに危険なことかを周知徹底させる必要があるんです。

とにかく、イスラム国の連中に良識はない。あるのは世界イスラム革命を実現させるために何が役立つかという観点だけです。

10年前にテロを起こし、ヨルダンに拘束されていたリシャウィ死刑囚。この人の話なんか、みんな忘れていましたが、その釈放を後藤さんに言わせることで世界的ニュースになった。イスラム国はこういうことをやっていると広まった。その宣伝効果はものすごく大きかったわけですよ。

その後も、この死刑囚と引き換えに後藤さんだけ釈放すると言ったことで「パイロットを見捨てるな」とヨルダンの中で反発が出て、政情が不安定になっている。ヨルダンの政情が不安になると中東全域がおかしくなりますからね。これがイスラム国の狙いなんです。

イスラム国の戦略は非常によく組まれてます。そういう意味で、世界はこれからまた大変なことになるでしょう。

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002 年に国策捜査で逮捕・起訴、2010 年に収監される。現在は2017 年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、埼玉県出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

■「東京大地塾」とは?毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は2月19日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ。