経済ジャーナリストの谷本有香氏は「高果汁チューハイは今日の健康志向、本格志向の高まりに合致し、今後、各社の競争は激化するはず」と分析

ビールの売り上げが伸び悩む昨今、ここ数年好調なのがRTD市場だ。「RTD」とは「Ready To Drink」の略語で、栓を開けたらすぐに飲めるアルコール飲料のこと。つまり、チューハイ、カクテル、ハイボールなど低アルコールの酒類を言う。中でも、今年の注目ワードは「高果汁チューハイ」だ。

この高果汁チューハイの元祖は、キリン『本搾り』。2003年の発売以降、他社より高い果汁含有率と「お酒+果汁だけ」というこだわりがユーザーの心をつかみ、2012年に179万ケースだった販売数が2013年には341万ケース、2014年には554万ケース…と急成長を遂げているという。その人気は本物だと言っていいだろう。

そんなキリンの独走に“待った”がかかったのは、この2月。サントリーから果汁の深いコクを謳(うた)った『こくしぼり』が発売され、各社が「高果汁チューハイ」市場に名乗りを上げたのだ。

それにしても、なぜ今、「高果汁チューハイ」なのか。経済ジャーナリストの谷本有香氏が、こう解説する。

「まず、お酒の飲み方が多様化しているという背景があります。乾杯は“とりあえずビール”という半ば強制的な風潮がなくなり、より自分の好きなものを飲んでいい雰囲気が蔓延(まんえん)しつつある。そこで一番手を出しやすいのがチューハイなんです。

高果汁チューハイは今日の健康志向、本格志向の高まりに合致し、パッケージに描かれたフレッシュな果実はビタミンCなど美容のイメージを想起しやすい。例えば、キリンの『本搾り』はレモンが12%、グレープフルーツが28%、オレンジは45%といった「高」果汁です。その付加価値を意識して、女性が買い求めているのでは」

やはり、高果汁チューハイの人気は女性に支えられているということなのか。

写真右からキリン『本搾り りんご』(果汁50%)、キリン『本搾り グレープフルーツ』(果汁28%)、サントリー『こくしぼり オレンジ』(果汁37%)。どれも一見、ジュースのように色鮮やか

“彼女下がり”の風潮で男性にも影響

「週プレNEWS」の連載コラム『神保町Girl‘s Talk』の筆者としてもおなじみ、若い女性の生態に詳しいライターの菅野光紗氏に聞いてみた。

「“ビール好き女子”がいることは確かですが、20代女子は甘みのあるフレーバーを好むコのほうが断然多いですね。居酒屋でもコラーゲン入りカクテルやカロリーが低くビタミン豊富な『生レモンサワー』をオーダーしたりと、女子はお酒を飲む時でも美容に気をつかっているんです。同じように、高果汁チューハイもお酒を飲む罪悪感を軽減してくれる存在として人気を集めていますね。

それに、パッケージも重要です。女子会では必ずと言っていいほど皆で写メを撮り合うのですが、例えば、家飲みでテーブルに焼酎や日本酒が置かれている写真と、オシャレなデザインの缶チューハイが並んでいる写真とでは与える印象が全く異なります。そういった意味でも、演出のひとつとしてライフスタイルの中にカッコ良く取り入れたいという女子の願望に応えている商品ですね」

なるほど、女性ウケしていることは確かなようだ。しかし、「実は女性人気だけには止まらない」と言うのは、前出の谷本氏だ。

「意外に男性の購買者も多いですね。というのも、女性が使っているものを男性も買ってみる“彼女下がり”という風潮があるためです。女性は研ぎ澄まされた消費感によって商品をセレクトしているので、“女性が選ぶものなら間違ってない”と同じ選択をする男性も増えてきているのでしょう。また、強いお酒が飲めなくなってきた団塊世代以上の男性にも手が出しやすい商品なのでは」

今や男女ともに注目されている高果汁チューハイ。今後、どのような進化を遂げるのだろうか。

「本格志向、健康志向、高級志向という消費者のニーズをすべて兼ね備えた商品のため各社の競争が激化していくはず。例えば、『シチリア産レモン』や『青森産りんご』など、さらにブランディングが明確な商品が出てくれば立場は優位になり、逆に本物じゃないとみなされると明らかに劣後していく。今後は他の商品と並走・共存して、一種のトレンドではなく、ひとつのカテゴリとして席巻していくでしょうね」(前出・谷本氏)

キリン『本搾り』が切り開いた高果汁チューハイ市場。そして、そこに割って入ったサントリー…高果汁を巡る戦いは今、始まったばかりだ。

(取材・文/週プレNEWS編集部 撮影/五十嵐和博)