マイホーム購入は人生最大の買い物。無計画に住宅ローンを組めば生活が破綻する可能性もある。では、家を買うために用意しなければならないカネはいくらになるのか? ファイナンシャルプランナーの豊田真弓氏と、不動産コンサルタントの長嶋修氏にレクチャーしてもらった。

【派遣社員Aさん(数年後は正社員?)の場合】

■年齢:30歳 ■年収:300万円 ■貯蓄:50万円 ■独身(結婚を考えている女性がいる) ■希望住宅:1LDK(都内) ■現在の住まい:都内のアパート(1DK)でひとり暮らし。家賃7万円

 いきなりですが、派遣社員は住宅ローンを組めますか?

豊田 一般的に金融機関で住宅ローンを組む場合、利用条件として年収、勤続年数、勤務先、過去にクレジットカードなどの延滞がないかといった信用情報を参照します。ハッキリ言うと派遣社員の場合、どうしても社会的信用力が低く、住宅ローンを組むのは難しい。しかし、住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35」は、利用条件において勤務形態は問われません。

 派遣でも家が買えるってことですね!

豊田 そう簡単ではありません。フラット35は、表向きでは勤務形態を問いませんが、実際の審査項目はポイント制になっていて、正社員か派遣社員かでポイントに差がつきます。そこで条件が悪ければ断られることもある。

個人の返済能力は、結局は就職先などの属性の部分を見られます。派遣社員の場合、借りられたとしても、借入額は希望の額には達しないかもしれません。ただ、普通の金融機関ではなく、ノンバンク系や信販系の住宅ローンで、金利がとても高いといった条件をのめば、ある程度は貸してくれると思います。

 でも、金利が高いと返済が大変になりますよね。

豊田 そのとおり。先々のことを考えると、将来が安定していない派遣社員のまま多額のローンを組むのはリスクが大きいですからオススメはできません。

先に物件を選んではダメ!

 実は僕の働いている会社が派遣の正社員登用を検討しているんです。頑張れば、もしかしたら数年後には正社員になれるかもしれない…。

豊田 それからでも住宅購入は遅くありません。ただし、住宅ローンを組むには勤続年数を問われますから、正社員になっても3、4年はコツコツと住宅費の積み立てをしましょう。

 じゃあ、それまでの間に物件を選んでおきます!

豊田 ダメ! それだと失敗しますよ。家が欲しいと思い、新築マンションのモデルルームなどを見に行くとイメージが膨らみます。その人の支払い能力からすれば、はるかに高額な物件を見てしまうと、身の丈に合った物件が見劣りしてしまい無理なローンを組んでしまうこともあり得る。

住宅購入で大切なことは、その人が安心してローンを返し終わるかどうかです。物件選びから入らずに、まず自分の予算を把握して、毎月返済できる金額を知ることからスタートしなければいけません。

 今の家賃が7万円なので、月々7万円のローンなら無理なく返せますよね?

豊田 それはよく不動産屋さんが使う「家賃並みのローンで買えます」という売り文句ですね。甘いです。住宅には購入後にかかるコスト、いわゆる固定費があります。マンションであれば、管理費、修繕積立費、駐輪場代や固定資産税など。一戸建ての場合でも固定資産税や修繕積立費が必要になります。

つまり、家賃7万から固定費を引いた額が、あなたがローンに回せる金額なんです。もし、住居費の積み立てをしていたら、その分をプラスしてください。マンションの固定費は物件によりますが、だいたい3万円前後と考えればいいでしょう。

 固定費って結構かかるんですね。正社員になったとしても、やっぱり年収300万円で住宅ローンを組むのはリスキーってことか…。

豊田 身の丈に合ったローンを組めばいいのです。2000万円の住宅ローンを金利2%、返済期間35年で組めば、毎月の返済額は約6万6000円です。Aさんの場合、毎月の返済をもう少し減らして約5万円ほどにすれば、1500万円は借りられるでしょう。(表1)

やっぱり頭金はないとダメ?

 1500万円か… 23区内じゃ中古マンションすら買えるかどうか怪しいなあ。

豊田 頭金の額にもよりますけどね。

 やっぱり頭金はないとダメですか?

豊田 中古の場合は頭金がゼロでも買えないわけではありません。むしろ、頭金が貯まるのを待っていて、金利が圧倒的に低い今の状況を逃すよりいいと思います。

 今の金利はそんなに低いんですか?

豊田 06年に約1.7%だった長期金利は、12年には1%を切り、今年の1月には約0.2%にまで落ち込みました。それに伴って、住宅金利もひたすら下落。金利だけ見れば、今買わないでいつ買うの!というくらい低い。各銀行の住宅ローンも、もはや金利1%台が標準になっています。

 ところで、金利には「変動」と「固定」の2種類がありますよね。どう違うんですか?

豊田 変動金利は経済情勢によって金利が上下します。借りた時は金利が低くても、数年後に金利が上がっていた場合には、それに応じて返済額が増えます。ただ、変動金利は半年に一度、金利の見直しがあるのですが、返済額の見直しは5年に一度なので、金利が上がったとしても5年間は返済額に変わりはありません。また、金利が上がった状態で5年が経過したとしても、毎月の支払額は最大1・25倍増が限度と定められています。

一方の固定金利は、借り入れ期間中の金利が一定です。そのため、毎月の返済額もずっと同じ。ただその分、変動に比べると金利が高く設定されています。

 どっちが得ですか?

豊田 金利情勢を見てみると、固定金利が数年前の変動金利ほどに低くなっています。今だったら固定で借りたほうが利口だと思いますよ。

正社員で年収400万円なら?

【正社員Bさんの場合】

■年齢:35歳 ■年収:400万円 ■貯蓄:200万円 ■雇用形態:正社員 ■既婚(子供がひとり。妻が妊娠中)■希望住宅:一戸建て(郊外) ■現在の住まい:郊外のアパート(2LDK)で3人暮らし。家賃10万円

 住宅ローンを組む際、月々の返済額はどのくらいに設定すべきですか?

長嶋 年収に占める住宅ローンの年間返済額の割合を「返済負担率」というのですが、一般的に25%以下なら破綻しないといわれています。なので、Bさんの場合は400万×0・25(25 %)÷12(ヵ月)で月々約8万4000円以下の返済なら大丈夫ということになります。

しかし、これはあくまで目安です。長い目で見ると消費税は10%からさらに上がる可能性がありますし、社会保険料の負担も増えるでしょう。今後、実質年収は下がると考えるべきで、それを踏まえて返済額を決めたほうがいいと思います。

銀行によっては年収に応じて返済比率を35%とか40%に設定しているところもあり、実際にその比率を元にお金は借りられますが、それは返せる額とイコールではありませんから注意してください。

 今、貯金が200万くらいあります。これを住宅購入の頭金にしようと考えているんですが、実際のところいくらくらい必要ですか?

長嶋 よく頭金の目安は「住宅価格の2割といわれています。これはかつて銀行の住宅ローンを借りる際に物件価格の8割であれば借りやすかったことが転じて、頭金2割を用意すれば家が買えるという定説になったものです。ただ、2割という数字はあながち間違ってない。

例えば、新築一戸建てで4000万円(土地2000万円、建物2000万円)の物件があったとして、誰か人が住むとその物件の建物部分は即“中古物件扱い”となり、いきなり物件価値は15から20%下がります。20%ダウンなら物件価格は3600万円(土地2000万円、建物1600万円)。

頭金を入れずに物件を買っていればローン残高は丸々4000万円だから、その時点で売れば400万円のマイナスになる。ローン返済期間中、物件価値は下落しますから、ずっとローン残高のほうが多い状態が続くわけです。つまり、住宅の資産価値をローン残高が上回る“担保割れ”を起こしてしまう。頭金を2割(800万円)用意しておけば、担保割れを起こさずに済みます。

消費税が10%になる前に買うべき?

 実は、両親が資金援助を約束してくれました。これは贈与にあたると思うのですが、贈与税はどれくらいかかりますか?

長嶋 通常、親から贈与を受けた場合は贈与税がかかります。しかし、住宅購入資金の場合は、政府が非課税枠を設けており、来年10月まで段階的に最大3000万円までの贈与が非課税の対象となります。

 物件を買うタイミングですが、やはり消費税が10%になる前のほうがいいですか?

長嶋 よく、増税前に住宅購入を!と不動産業界では言いますが、焦りは禁物です。納得のいかない物件を買っては元も子もありません。それに、新築住宅の場合、消費税がかかるのは建物だけ。仮に4000万円の物件があり、土地2000万円、建物2000万円とすると、消費税の増税分は40万円です。これは誤差の範囲といってもいい額。ですから、増税前に焦って買う必要はないと思います。

 不動産屋さんへの手数料はいくら必要ですか?

長嶋 手数料には上限が決まっています。取引額が400万円を超える場合は、上限が3・24%となります。しかし、これはあくまで上限ですので、不動産屋さんとの交渉によっては手数料を値下げしてもらえることもあります。

(取材・文/頓所直人 興山英雄)

■週刊プレイボーイ10号「『年収300万円』から始める勝ち組の家選び!」より(本誌では、さらに家選びのお得情報を満載!)