ウクライナ停戦協定から見えたアメリカの外交力低下と、それが引き起こす中東の大混乱について鈴木氏(左)と佐藤氏が論じる

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

今回のテーマは、ウクライナ停戦協定から見えたアメリカの外交力低下と、それが引き起こす中東の大混乱だ。その混乱に乗じて「イスラム国」が核兵器を手に入れることまで想定しなければならない事態を世界は迎えようとしている。

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鈴木 2月12日、ウクライナの停戦協定が締結され、15日から停戦になりました。今日はこの背景について、佐藤さんにまず聞いてみたいと思います。

佐藤 ウクライナ情勢が突然、動きだした原因は過激派組織「イスラム国」にあります。アメリカのオバマ大統領は「イスラム国」、そしてウクライナを舞台にしてロシアと二正面作戦で戦っている。しかし、ヨーロッパ諸国はこの現状を望んでいない。だから今回、ドイツがフランスをうまく説得して、アメリカ抜きで会談を行なったわけです。

ドイツはもともと「金持ちケンカせず」が基本スタンス。第1次、そして第2次世界大戦でドイツはウクライナを自国の影響圏に置こうとしました。それを当時のソ連は断固として許さなかった。独ソの戦いはウクライナの覇権争いだったんです。

その結果、両国はお互いに大変な傷を負ったので、ウクライナのことではケンカしないというのがドイツ人、ロシア人の基本的な考え方です。

アメリカ抜きの4者会談が意味するのは?

ところが、アメリカはプーチンのことが嫌いですし、カナダにもロシア大嫌いのウクライナ系が120万人くらい住んでいて、彼らはウクライナにもっと影響力を広げたいと思っている。

一方、フランスは「ウチは無関係。ウクライナ情勢には巻き込まないでください」というスタンスだった。それが今年に入ってガラッと変わった。なぜか?

1月7~9日に起こったフランスの連続テロです。これで「イスラム国」が本気でフランスを狙ってきているとわかった。フランスは全勢力を「イスラム国」との戦いに向けないとならない。だから、早くウクライナ問題を解決してもらわないと困る、となったわけです。

そこで2月11日にドイツ、フランス、ロシア、ウクライナの4者首脳会談がベラルーシのミンスクで、16時間ぶっ通しでありました。

この会談の前日にオバマはプーチンに電話して、「ロシアが停戦に応じないならば、アメリカはウクライナに武器供給するからな」と言ったんです。これはロシアにケンカ売ってるも同然の強硬姿勢なんですが、ドイツ、フランスは会談にアメリカを入れませんでした。

これだけ大きい国際問題がアメリカの関与なしに決まったのは前代未聞ですが、とにかく、オバマ大統領になってアメリカの外交力が落ち、もはや国際情勢の重要なプレイヤーではないことが今回の一件で可視化されたわけです。

ウクライナのポロシェンコ政権が心配

鈴木 それで、会談の結果はどう見ればいいですか?

佐藤 ロシアは今回、昨年9月の会議で決まった停戦ラインよりウクライナ側に入った所に線を引くことに成功しました。これは完全なロシアの勝利。これより有利な条件は考えられないほどです。

ただ、私が心配しているのは、ウクライナのポロシェンコ政権がこれで倒れるのではないかということ。アメリカのネオコン(右派)やカナダの反ウクライナ系が右派の大統領候補ヤロシュを支持したり、ウクライナのナチス主義者などが権力を取ると、この地域でかなりすごい戦争になるかもしれません。

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(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、埼玉県出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

■「東京大地塾」とは?毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は3月19日(木)。詳しくは新党大地のホームページにて