サムライの心を持つイタリア人ジョッキー、ミルコ・デムーロがついにJRAの騎手免許試験に合格した。

そこで本誌は香港に飛び、日本のメディアとしては一番乗りで直撃取材に成功。喜びの声とともに、これまでの数々の逸話の真相を語ってもらった。

―まずは合格おめでとうございます!

ミルコ ありがとう。日本ダービーやドバイワールドカップに勝った時と同じくらい嬉しいよ! 日本を第2の故郷だと思っているボクには、本当に素晴らしいこと。チャンスをくれたJRA、応援してくれた皆さんに感謝です。

―ミルコといえば、日本初騎乗の99年以来、ファンの記憶に残る数々の逸話を残してきました。イイのも悪いのも両方ありますが(笑)。

ミルコ 若い頃はノーティ(生意気)だったからね。今日はイイほうの話をいっぱいしまショ(笑)。

―まずは03年の皐月(さつき)賞。ネオユニヴァースに騎乗して優勝したレース直後、馬上から2着・サクラプレジデントの田中勝春(かつはる)騎手の頭を思いっ切り引っぱたいたシーンは、今もファンの間で語り草です。

ミルコ あれは日本で初めてのGⅠ勝ちだったし、ゴール前も白熱したからテンションが上がってしまってね。ガッツポーズするつもりが、ちょうど叩きやすいとこにカツハルの頭があったんで、つい「やったぜ!」って(笑)。なんせカツハルはいい人だからね。でも、もしも僕が負けてても「やったな!」って彼を叩いていたかも(笑)。

感動を呼んだ12年の天皇賞・秋

―そのネオユニヴァースではダービーも優勝し、日本初の外国人ダービー騎手に。これはいまだにミルコだけです。

ミルコ 昔、インタビューで「(地元)イタリアのダービーを5回勝つよりも、日本のダービーを1回勝つほうが嬉しい」って答えたんだけど、その気持ちは今も変わってないよ。ネオユニヴァースはすごく思い出深い馬。皐月賞、ダービーと2冠制覇した時点で短期免許の期限が切れてしまったから、本来、菊花賞は乗れなかったんだけど、JRAが特別に新しいルールを作ってくれたおかげで乗ることができた。

結果は3着で残念だったけど、乗ることができて本当にうれしかったよ。

―11年には、そのネオユニヴァースの子、ヴィクトワールピサで国際GⅠドバイワールドカップを優勝。ちょうど東日本大震災の直後の快挙で、日の丸を掲げてのウイニングランは感動的でした。

ミルコ 震災の直前まで日本で騎乗していたし、日本のためになんとか頑張りたいと思ってたんだ。レース後のインタビューではいろんな思いがこみ上げてきて、思わず泣いてしまったんだけど、ちょっとカッコ悪かったね(苦笑)。

―さらに、天覧競馬となった12年の天皇賞・秋をエイシンフラッシュで優勝。スタンド前で下馬して、天皇・皇后両陛下に最敬礼したシーンはファンの感動を呼びました。が、実はあれ、本来ならルール違反(故障などがない限り、後検量までの下馬は禁止)だったんですよね。

ミルコ さっきも言ったけど、ボクにとって日本は第2の故郷。だから両陛下がいらした特別な日に勝つことができたのが本当に嬉しくて、その気持ちをどうにか表現したくてやってしまったんだ。

「ヒコーキポーズ」のワケは?

―でも、結果的にお咎(とが)めなし。ここでもルールを変えてしまいましたね。

ミルコ そんなジョッキー、なかなかいないよね(笑)。でもJRAの裁決委員はすっごく厳しいし、口うるさいんだ(苦笑)。

―そういえば、ゴール寸前で両手を広げる「ヒコーキポーズ」をして、裁決委員に何度もこっぴどく怒られてますね(苦笑)。一体なぜ、あんなことを!?

ミルコ 大好きなサッカー選手の(ヴィンチェンツォ・)モンテッラがゴールを決めたときにやるポーズだったから、ボクもやり始めたんだ。イタリアでは厳しく怒られなかったけど……。

―……日本ではアウトです。

ミルコ そう。裁決委員に撃墜されちゃったよ(苦笑)。ゴール後はOKだけど、手前でやっちゃダメね。初めて日本でやったレース(07年中日新聞杯)、実はレース前に仲のいい日本の騎手に「勝ったらやるよ!」と宣言していたんだ。勝ってその通りにやったら、裁決委員に大目玉をくらって罰金5万円。

その後、ドイツの重賞でもやったんだけど、やっぱり怒られて騎乗停止1週間と罰金2000ユーロ(約27万円)(苦笑)。でもあれはオーナーのリクエストだったんで、彼が払ってくれたんだ(笑)。

―去年の高松宮記念でもまたまたやっちゃいましたね。

ミルコ あと2ストライド我慢すればよかったんだけど、つい嬉しくてね。裁決委員に「前もやったろ!」ってすごく怒られて、「もう10年近くたってるし…」と言ったら、余計に怒られちゃった。「反省してない」って言われて罰金10万円…。ゴール前でのポーズは怒られるからもうしないよ。いや…やっぱり、しちゃうかも(笑)。

日本人の彼女も欲しい!?

―ところで、ミルコは日本語が本当に堪能ですね。日本の競馬新聞もスラスラ読めちゃうとか。

ミルコ ありがとう。日本の競馬新聞は情報量がスゴイから作戦を立てるのに役立ててるよ。ちなみにこの前、一緒に合格したクリストフ(・ルメール)と電話で話したんだけど、最初から「おめでとう」「ありがとう」って日本語で祝福し合ったんだ(笑)。

―さて、いよいよ今週から日本での新たな挑戦が始まります。抱負を教えてください。

ミルコ 桜花賞を勝ちたいね。

―なんでまた桜花賞!?

ミルコ 桜は日本を象徴する花だし、あの時期は満開でキレイだからね。あとは若い日本人のガールフレンドができれば文句なしなんだけど。

―さすがイタリア人!

ミルコ 冗談だよ(笑)。うちの奥さんはJRAの裁決委員より怖いからね(笑)。

(取材・文/土屋真光)

●ミルコ・デムーロ1979年生まれ、イタリア出身。36歳。94年イタリアでデビュー。99年に初来日し、以後、日本ダービー、有馬記念など大レースを次々制覇。JRA通算354勝(うちGⅠ10勝)