ようやくヴァヒド・ハリルホジッチ氏に内定した後任監督だが、サッカー日本代表の問題は“進まない世代交代”にこそある。 

おなじみのメンバーで臨んだアジア杯で連覇を逃し、育成年代もすべてアジアですら結果を出せていない…。「ハリル・ジャパン」に期待するも、そのツケは3年後に払うことになる?

■高齢化日本代表の現実

八百長疑惑に端を発した、ハビエル・アギーレ前日本代表監督の電撃解任劇。前代未聞の事態を受けて、日本のサッカー界は「後任の日本代表監督は誰だ?」に注目が集まっていた。

テレビや新聞の報道でも連日、何人もの候補者の名前が挙がっては消えていく。それだけ世の関心が高かったということだろう。

確かに、この時期に日本代表監督が不在になるというのは不測の事態。早く新しい監督が決まってほしいという気持ちはわかる。

とはいえ、後任が決まったら、日本代表はひと安心かといえば、残念ながらそうとばかりも言っていられない。先のアジア杯で、現在の日本代表が抱える大きな問題が明らかになったからだ。

すなわち、「世代交代の遅れ」である。

アジア杯を戦った日本代表がどれほど「高齢化集団」であったかは、他国と比較するとわかりやすい。

今回のアジア杯でベスト4に進出した4ヵ国の登録メンバー23名の平均年齢(大会開幕日時点。以下同じ)は次のとおりだ。

・オーストラリア 26.4歳・韓国 25.8歳・イラク 22.6歳・UAE 25.3歳

これに対して、日本の平均年齢は26.7歳。上の4ヵ国すべてを上回る。

8年も世界から遠ざかっている

しかも、日本の場合は出番のなかった控えDFの植田直通(なおみち・20歳)や昌子源(しょうじげん・22歳)といった選手が平均年齢を下げており、実態はもっと高齢化が進んでいる。

この大会で日本は全4試合をすべて同じ先発メンバーで戦ったが、その11名に絞れば、平均年齢は27.8歳と大きく引き上がるのだ。

せめて柴崎岳、武藤嘉紀(ともに22歳)あたりが、この大会をきっかけに日本代表でも一人前になってくれればよかったのだが、彼らふたりが先発メンバーに名を連ねることは一度もなく、与えられたプレー時間は途中交代によるわずかなものだった。

もう少しアギーレには将来を見据えた選手起用をしてもらいたかったし、それはアルベルト・ザッケローニ元監督にも言えること。ザックもまた、2010年南アフリカW杯のメンバーを中心にチームを固めてしまい、新戦力を抜擢(ばってき)することに積極的ではなかった。

しかし、彼ら歴代の日本代表監督がそうせざるを得ない事情があったのも確かなのだ。

このところ、年代別日本代表はアジアでの苦戦が目立ち、なかなか世界大会で結果を残すに至っていない。つまりは、若い人材が期待するほど伸びてきていないのである。

象徴的なのが、U-19代表だろう。一般にユース代表とも称される19歳以下の日本代表は、このところ4大会連続でアジアU-19選手権の準々決勝で敗れ、翌年に開かれるU-20W杯に出場できていない(アジアの出場枠は4ヵ国)。

U-20W杯は2年に一度開催されているため、この世代で日本は07年以来、すでに8年も世界から遠ざかっていることになる。1999年に小野伸二らの「黄金世代」が、この大会で準優勝したのももはや遠い昔の出来事だ。

弟分まで世界大会出場を逃した

黄金世代の例でもわかる通り、これまで右肩上がりで成長してきた日本サッカーの根幹を担っていたのが、この世代の強化だったと言ってもいい。ユース世代の成果こそが日本代表(A代表)の強化につながっていたのである。

ひとつの大会へ向けて短期的に日本代表だけを強化するのではなく、長い目で見て若年層から選手を育成・強化することで、日本は現在の地位ーーアジアのトップに立ち、W杯に出場するのが当たり前ーーにたどり着いたのだ。

にもかかわらず、ユース世代が世界と対等に戦うどころか、アジアの壁すら突破できないのでは、人材の供給が先細り、トップである日本代表の世代交代が進まないのも無理はない。

日本が最後にU-20W杯に出場した07年当時のメンバーが、内田篤人(26歳)、森重真人(27歳)、香川真司(25歳)といった面々。20代半ばから後半になった彼らが、日本代表の主力の中では若いほうに分類される選手であり、彼らより若いのは酒井高徳(ごうとく・23歳)くらいというのが現状なのだ。

つまり、近年続くU-20W杯における負の歴史が、若手の人材不足となって現在の日本代表を苦しめているのである。それでも、さらに下の弟分にあたるU-16代表(16歳以下の日本代表)がどうにか頑張っているうちは、まだよかった。

アジアU-16選手権を突破し、07年から13年まで3大会連続でU-17W杯に出場。しかも、11年大会ではベスト8に進出するなど世界の舞台でも成果を残していた。兄貴分の体たらくをどうにかフォローしてくれていたのだ。

ところが、昨年のアジアU-16選手権では準々決勝敗退。とうとう弟分まで世界大会出場を逃してしまった。

時代を逆戻りしている?

今年はU-20がニュージーランドで、U-17がチリで、それぞれ年代別W杯が開かれるが、どちらにも日本は出場できない。この由々しき事態は91年以来、実に24年ぶりのことになる。

91年といえば、まだJリーグ誕生(93年)前で、日本のW杯出場も夢物語だった時代。そんな時代と同じ状況まで逆戻りしてしまったといえば、今がいかに危機的状況であるか、おわかりいただけるだろうか。

加えて言うなら、昨年、韓国・仁川(インチョン)で開かれたアジア大会ではU-21代表(リオデジャネイロ五輪代表)も準々決勝敗退に終わっている。つまり、この半年ほどの間に4世代の日本代表がすべてアジアのベスト8にとどまっているのである。

それでもアジア杯での試合内容は決して悪くなかったし、常に相手を押し込んではいた。PK戦の末に敗れはしたが、それほど悲観することはないのではないか。そんな意見もあるだろう。

確かに、アジア杯での日本は強かった。優勝したオーストラリアと比べても同等以上の実力があったはずだ。

しかし、前記した平均年齢から考えても、日本代表は現在のメンバーで戦う限り、大きな上積みがあるとは考えにくい。今がピークか、あるいはすでに下り坂に入り始めていると考えたほうがいい。今のメンバーで十分強いのだから、このままでも大丈夫、と楽観視するのは危険だ。

過去のW杯を振り返ってみても、日本代表は世代交代がうまく進んだ時ほど好成績を残している。

例えば、02年日韓W杯では、その2年前(2000年)に開かれたシドニー五輪に出場していた世代が力をつけ、日本代表の主力を成していた。

その結果が、初めてのグループリーグ突破である。

また、同じくグループリーグを突破した10年南アフリカW杯にしても、その2年前(08年)に開かれた北京五輪に出場していた世代――すなわち本田圭佑、長友佑都、岡崎慎司ら―が台頭し、日本代表を底上げしていた。

出場すら危うい未来が

これに照らせば、3年後の18年ロシアW杯では、12年ロンドン五輪に出場した世代を中心とする日本代表に、16年リオ五輪を経験した選手が加わってくるというのが理想的な年齢構成である。

だが、下の世代から続く負の連鎖に歯止めがかからない現状を考えると、そもそもリオ五輪に出場できるかどうかの心配が先に立つ。これでは日本代表の理想的な年齢構成など望むべくもない。

今のメンバーで戦っても、次の18年ロシアW杯に出場するだけでいいのなら、それほど問題はないのかもしれない。(結果はともかく)日本が実力的にアジアの上位にいることはアジア杯が証明している。

だが、W杯本番で結果を残したいとなると、見通しは暗い。ブラジルW杯と同じ轍(てつ)を踏む可能性は高い。いや、内容的にはもっとひどいものになるかもしれない。

そして、このまま下からの人材供給が滞り、世代交代が進まないようなら、いよいよ22年カタールW杯は出場することすら厳しい状況を迎えることになるだろう。

残念ながら失われた過去は取り戻せず、育成をやり直すことはできない。

だとしても、このまま指をくわえて見ているだけなら、22年、いや18年にも日本代表は危機的状況を迎えるかもしれないのだ。

今からでも遅くない。自然な流れに任せていてもダメなら、ある程度人為的に世代交代を進めなければならない。経験は足りなくてもポテンシャルを秘めた選手を抜擢し、成長を加速させる必要がある。

3年後に迫った危機を回避するため、残された時間はもう多くはないのだ。

(取材・文/浅田真樹)