「イスラム国は戦いをキリスト教対イスラム教の対立にどんどんもっていきたいんです」と指摘する佐藤優氏

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

今回のテーマは、ウクライナ停戦協定から見えたアメリカの外交力低下と、それが引き起こす中東の大混乱だ。その混乱に乗じて「イスラム国」が核兵器を手に入れることまで想定しなければならない事態を世界は迎えようとしている。

(前編の記事はこちら⇒http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/06/44536/)

***

鈴木 今回、ロシアが勝利した理由はドイツ、フランス、特にフランスのスタンスが変わってしまったからということでした。それくらい今、「イスラム国」が脅威になっているということですね?

佐藤 はい。しかも「イスラム国」は狡猾(こうかつ)なやり方をしています。

湯川遥菜さんが殺された時、その肩書は「日本人傭兵」でした。しかし、後藤健二さんの時は「十字軍兵士」です。そしてエジプトのコプト教会(キリスト教)に所属する21人のエジプト人が、リビアの海岸で処刑される時の肩書も「十字軍兵士」です。

キリスト教世界からすると、後藤さんの死は、日本人が殺されたことに加えてキリスト教徒の同胞が殺されたとの思いがあります。これが「イスラム国」の狙いです。戦いをキリスト教対イスラム教の対立にどんどんもっていきたいんです。

実は、エジプトはイスラム教徒だけの国ではない。トンカツが食べられますし、コプト教徒の肉屋さんに行くと豚肉を売っています。

キリスト教徒エジプト人殺害の目的は?

エジプトは「エジプト人の国をつくるために」と、イスラム教徒とコプト教徒が国づくりに参加した。イスラム教徒とコプト教徒が仲良くやっていくことはエジプトを大国たらしめる基礎だったわけです。

ところが、ムスリム同胞団をはじめとする原理主義者が「エジプトはやはりイスラム教徒の国。コプト教徒というキリスト教徒が政治に出てきたり、国家に対する発言権があるのはおかしい」と言い始めた。

そんな状況の中で「イスラム国」がリビアでキリスト教徒のエジプト人を狙い撃ちで殺した。エジプトは自国民が殺されたから、リビアにある「イスラム国」の領域を空爆して報復する。すると、「イスラム国」はエジプトのイスラム教徒にメッセージを出す。

「エジプトのおまえたちの政権はリビアでイスラム教徒を空爆で殺した。キリスト教をイスラムより大切にしている。これが本当のイスラム教徒か?」

エジプトの一部の人たちには、この言い分がスッと入ってしまう。これと同じ方法で、「イスラム国」は中東の紛争をどんどん拡大していこうとしているわけです。

そして、このような展開は日本でも起こり得る。「イスラム国」を支持する人々が日本国内にもいますからね。だから、日本でもテロの可能性はあります。

ただし、爆弾テロは日本の警察の優秀さからすると難しい。しかし、ガソリンをまいて放火する自爆テロはできます。屋内ならば、それなりの被害は出る。「イスラム国」がネットを通じて「日本の同志よ、決起しろ」と指示すればいい。

韓国や中国とガタガタしている場合ではない

そんな日本でテロを防止するために何が重要か? ひとつは「『イスラム国』を支持する人たちの考え方を批判していくこと」です。彼らが面白いから、彼らの言い分もわかるからと宣伝の機会をメディアで与えるべきではないと思います。

ふたつ目は、でも彼らをコーナーに追い込みすぎないこと。暴発を防がないといけません。

今、「イスラム国」は日本を標的として、本当に戦争を仕掛けている。危機意識をみんなが共有することが大事です。

と同時に「イスラム国」は韓国や中国も標的にしています。そういう意味では、日本は韓国や中国とガタガタしている場合ではない。国内だけでなく、国際的にもみんなで連帯してやらないとダメですね。

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、埼玉県出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

■「東京大地塾」とは?毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は3月19日(木)。詳しくは新党大地のホームページにて