『龍が如く』シリーズの名越稔洋総合監督(左)と『週プレNEWS』の貝山編集長

全身Vシネマすぎる風貌でありつつ、実はゲームメーカー・セガの取締役である『龍が如く』シリーズの名越稔洋総合監督。

バラエティ番組にも広域指定キャラとして登場する名越さんの手がける待望の最新作が『龍が如く0 誓いの場所』だ。シリーズを通して舞台となるのは、東京・歌舞伎町をモデルにしたといわれる架空の街・神室町。

今回の新作では、80年代を舞台に原点ともいえる熱を持っていた時代が描かれる。そこで、そのハスキーボイスが「龍が如く」シリーズの桐生一馬にそっくり?で、おまけに長年歌舞伎町へ出没している「週プレNEWS」の貝山弘一編集長と、名越さんとの歌舞伎町トーークが実現!

早速ですが、おふたりの歌舞伎町デビューからお願いできますか?

名越 19歳で上京して、まず遊びに行ったのが東京駅だったんです。なぜなら、“東京”って名前だったから(笑)。山口県出身の田舎者なので、それしか考えられなかった。

休日で人もほとんどいない東京駅周辺をうろうろしてその後、山手線の駅を回ったけど、いまいちピンとこない。そして新宿で歌舞伎町に行ったら“これだ!”って。俺にとって歌舞伎町がテレビで見たことのある、まんまの東京だったんです。

貝山 僕も18歳で上京して初めて歌舞伎町に行きましたね。でも、入り口で躊躇(ちゅうちょ)してしまうんです。歌舞伎町一番街のゲートの前で“ここは学生じゃ入れない!”っていう恐怖感があったわけですよ。初めて歌舞伎町を見た時にそういうのはありませんでしたか?

名越 そこはかとない恐ろしさを感じましたね。そこら中にネオン管のいやらしい看板があって、いかがわしい人間がいっぱいいる。小説や映画の舞台としては最高の環境じゃないですか。

だから、そこを歩いている自分がカッコイイという。完全に自分に酔っていましたね(笑)。“俺の東京はここから!”っていう物語が始まってたんじゃないかな。

貝山 現在はかなり浄化された雰囲気のある歌舞伎町ですけど、ゲームのようなバトルが勃発するような体験は?

名越 さすがに、それはないです。俺、本職じゃないんで(笑)。それでも、いまだに十分怖い場所ではありますね。歌舞伎町のど真ん中にあるビルで、螺旋階段で地下3階まである。1階までは行けるけど、2階、3階に降りたら“これは五体満足で出れないな”って雰囲気を感じる所がありますから。

でも、実際に入ってみると某有名漫画家の先生が派手に飲んでいたっていう(笑)。

昭和を彷彿(ほうふつ)させるブルーのごみ袋、LEDではなく怪しい光を放つネオン官の看板など、80年代末期の歓楽街を超絶グラフィックで再現

人の熱が少なくなった現代の歌舞伎町

貝山 歌舞伎町は大きな事件が起きるたびに、規制が入って街が変化していく部分がありますよね。ホストやスカウトが大挙していた時代もあるし、今もアジア系の観光客が増えてたりはしますが。僕が最近実感するのは、とにかく人の熱が少なくなったなぁってことですね。

名越 相変わらずキャッチは多いけど、それについて行くお客さんも少ないですよね。

貝山 ある意味、歌舞伎町でキャッチについていくのもイベントの面白さだから、ノッてみろみたいな?

名越 ほんと、それあります(笑)。でも、俺の場合はキャッチから声をかけられることがほとんどなくて、いつもこっちから声かけしてます。

貝山 僕がキャッチでも、そのビジュアルだったら声かけませんね(笑)。ちなみに、どんなやりとりをするんですか?

名越 キャッチに「お店、どこにあるの? 50歩以内なら行くよ」って。でも、50歩で到着することはないんですよ。結局、100歩以上歩いたところで「あと50歩ください!」となる(笑)。そこから値段の交渉が始まるんです。

歌舞伎町のキャッチとの対話って男同士ナンパみたいなもんで、自分の人を見る目が試されるんですよね。

貝山 それはありますよね。甘い言葉に乗せられて多少痛い目にあっても、そいつのトークが上手かったら“今回は俺の負け”って納得したり? ま、よほど酔っ払ってなければ、簡単には乗らないだろうけど(笑)。ところで、ぼったくりの経験は?

名越 ありますよ。でも僕の場合は交渉してなんとかするかな。ちなみに、知り合いがぼったくられた時に「ビール2本で10万だろ? 安っすいなぁ~。あと10本、持ってこい!」って言ったら店員がビビッて代金がチャラになったって聞いて、そういうやり方もあるのかって感心したことも(笑)。

貝山 たびたび失礼ですけど、名越さんのビジュアルから“ぼろう”という感覚がどうかしていますけどね(笑)。

どぎついピンクのテレクラの看板を使ってのバトル。30、40代には懐かしく、20代には新鮮な異空間。それが『龍が如く0』の神室町だ

“本職”の方は飲み方も口説き方も綺麗

貝山 歌舞伎町でぼったくりや喧嘩で絡んでくるのって、ただのチンピラ。本職の方々は、そんなこと絶対にしませんよね。

名越 本職なのかな?と思われる人ほど飲み方が綺麗。逆に、普通のサラリーマンのほうが飲み方も口説き方も下品なんですよ。ホステスから話を聞くと、みんな普通のサラリーマンの方が面倒臭いと言ってる。

貝山 そういうお客さんに限って“俺は客なんだ!”って態度をしがちなんじゃないかな。これは気をつけたい部分ですね。

名越 ケチなのに口説こうとする行為が、ホステスの感覚だと筋が通らないんですよ。そもそも、お金をいっぱい使って、初めてスタートラインです。客とホステスが同等になる。でも、一気にお金を使ってもセックスに即つながることはない。

貝山 一見で成金みたいに何十万と使っても意味がないなと。やっぱり長く通うことで本当の顔が利くし。

名越 もう高密度で通ってお金を使うしかない。そしてホステスに“こいつ将来性があるな”と思わせる。結局、選ぶのはホステス側ですから。

貝山 ちなみに、歌舞伎町に飲みに行く時は、おひとりで?

名越 ひとりでも会社の後輩とも行きますね。俺、社会人になって会社の偉い人にまず連れていってもらったのが銀座。確かに、“こういう所で飲めるようになりたい”って思いましたけど、金銭的に無理でしょ(笑)。

貝山 自分の金じゃなく、人に接待してもらう立場になったら行ける街っていう。特に昔はそんな印象でしたが。

名越 それで、後輩たちにおごっても大丈夫な歌舞伎町に行くようになったんです。でも、新宿だから安いってことはない。だから昔は、後輩たちを誘う時はATMで限度額いっぱいに下ろしてから飲みに行ってましたよ(笑)。

貝山 カードは使わないんですか?

名越 使わないっていうか、使えない。いつも限度額を使い切ってたから(笑)。

金、女、暴力。ダークサイドの三拍子が揃ったゲーム、それが『龍が如く0』だ

優等生的な発言だけじゃヒットは生まれない

貝山 後輩たちとの飲みで、仕事の話をしたりも?

名越 例えば、18時に打合せをスタートして、メシ食って、二軒目あたりで仕事の話を切り出したりしますね。会社での会議だと、ロジックは正しいけど“優等生的な発言”しか出てこない。それを崩すために飲みに誘うってこともあります。

貝山 確かに。会議だと企画書作って、どうプレゼンするかを考え、構えて臨む場なので。ノリや勢いで違う発想が出て盛り上がったりはないんですよね。

名越 そうなんですよ。そもそも、『龍が如く』シリーズも『初音ミク』も『ファンタシースター』シリーズも、うちでヒットしているタイトルはどれも企画段階で上から反対された作品が多いんです。

すべてとは言わないけど“優等生的な発言”だけじゃヒットは生み出せないと思っています。

貝山 上から反対されてスタートした『龍が如く』シリーズは、今年で10周年。新作の『龍が如く 0誓いの場所』はバブル時代の1988年の神室町が舞台ですよね。なぜバブルの時代を?

名越 1988年という年代は、主人公の桐生一馬が20歳でちょうどキリが良かったんです。そしてバブルの真っ只中。俺自身、この時代が大好きだったし、主人公たちの過去を描きたいというのはずっとありました。

シリーズを通しての主人公、桐生一馬(画像上)と真島吾朗(画像下)。真島編では大阪の道頓堀をモデルにした蒼天堀が舞台となる

“絶対に間違いのない!”作品

貝山 普通の昔話ってどうしても苦労話や貧乏自慢大会になりがちですけど、バブル時代は夢物語として楽しめる。それを若いコたちに伝えるのも、昭和回帰みたいなのもあって、今まさにタイミング的に満ちたのかなという感じですごく良いですね。

名越 もちろん、それもあって原点回帰でもあります。そしてシリーズ一作目へつながる作品ですね。ファンの方々は主人公たちの未来の話を知りたがりますけど、ここが過去を描くラストのタイミングだと思って制作しました。

俺自身、バブル時代をリアルタイムで知らないけど、シナリオを描き始めたら“絶対に間違いのない!”作品になりました。

貝山 名越さんだけでなく、制作チーム全体がそれを実感している?

名越 チームみんなが『龍が如く』という作品、そして桐生や真島のキャラクターの性格をわかっている。物語を作る一方で、キャラクターという役者を育てるのと一緒の感覚でやっている部分もありますね。もちろんストレスもあるけど、気持ちよく作れたと思います。

貝山 そんな気心の知れたスタッフたちと打上げで歌舞伎町に繰り出すわけですね。

名越 それがですねぇ。最近は若いスタッフを誘ってもあっさり「今度でお願いします」なんて言われちゃって…、時代は変わりました(笑)。

でも、これからもチームで良い作品を仕上げてドカンと稼いで、その金でまた新しい作品を作り出す。そして祝杯をあげに繰り出せればと思っています。ま、連中には「また今度で」って言われちゃうかもしれないですけどね(笑)。名越稔洋株式会社セガ取締役CCO・開発統括本部長。1989年にセガに入社。CGデザイナーとして『デイトナUSA』 『バーチャファイター』シリーズに参加。2005年より『龍が如く』を発売し、現在ではシリーズ累計600万本以上を売り上げるhttps://youtu.be/TExQ0_7JaHM

(C)SEGA

(取材/文・直井裕太 撮影/石川耕三)