「ちゃんこ」は鍋だけじゃない。牛肉のオイスターソース炒めを調理中。日本酒をたっぷり使って、ファイヤー!!

お相撲さんが食べている、ちゃんこって具体的になんなの? それって一般人でも食べられるの? そもそもおいしいの?

気になるちゃんこの疑問を、超相撲通の噺家・三遊亭歌橘(さんゆうていかきつ)が大解決。それでは師匠、お願いします!

まず、「ちゃんこ=鍋」と思っている人が多いようですが、ちゃんことは、お相撲さんが作る料理全般を指す言葉。カレーもギョーザも肉じゃがも、すべてちゃんこです。

私が初めてちゃんこを食べたのは…お金がなく、食べるのにも困っていた前座、二つ目の頃。

相撲部屋の巨大な冷蔵庫は日本全国の後援者、お弟子さんのご両親、親戚などから送られてくる肉、魚、野菜でいつもギュウギュウ! 鶏肉ひとつとっても、比内(ひない)鶏に名古屋コーチン、宮崎地鶏に薩摩(さつま)地鶏…見るからに高そうな高級ブランド鶏ばかりでした。

さらに、横綱や大関がいる部屋ともなれば、ズワイ、タラバに越前ガニ。伊勢エビ、アンコウ、めんたいこ。神戸牛に但馬牛(たじまぎゅう)。京野菜に下仁田(しもにた)ネギ。もう、日本全国から一流の食材がすべて集まっていました。そんなゼータクなものを豊富に使って作るちゃんこが、おいしくないはずがありません!

【画像上】ご飯はガス釜炊きの部屋が多い。1升の米がわずか20分ほどでふんわり、おいしく炊き上がる【画像下】式秀部屋の名物サイドメニュー「ピー肉」。生のピーマンに、野菜や肉のそぼろを詰める

一般人でも食べれらるって?

【画像上】当然、肉も野菜も具材の量はハンパじゃない。1年もやれば自然と包丁さばきが身につく【画像下】40人が食べる藤島部屋では、焼き鮭を用意するのもひと苦労。焼いて、焼いて、また焼いて!

しかも味つけは、簡単・便利がウリの市販の合わせ調味料を一切使わず、すべてイチから手作り。鍋のダシも3日に一度のペースで回ってくる“ちゃんこ番”の力士が作ります。

新弟子は、おいしいちゃんこが作れるようになって初めて一人前。当然、調理場では稽古の時以上(?)に先輩力士たちの厳しい目が光っています。

「生まれてから一度も包丁を握ったことがないんです…」

そんな泣き言は一切通用しません。でも、目尻に涙を浮かべていた少年も、1年もするとみんな上手に包丁を使いこなし、部屋に継承された味つけを覚える。これはもう、相撲界の七不思議のひとつです。

今回、ごちそうになった6つの鍋(前回配信の記事参照→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/08/44762/)は、それぞれの部屋に継承される伝統の味に創意工夫を重ねた逸品ぞろいでした。

一方で、最近は塩、醤油、味噌の三大鍋以外にもカレーもつちゃんこ、トマトちゃんこ、オニオンスープちゃんこ、ポトフ風ちゃんこ、ネギちゃんこなど部屋ごとに変わり種の“創作ちゃんこ”も増えているそうです。ぜひ、それらも一度味わってみたいと思っています。

むくつけき大男たちの宴(うたげ)、相撲部屋の「ちゃんこ」を普通の人が味わう機会はなかなかありません。方法としては、部屋の後援会に入会し、地道に関係を深めていくのがひとつ。

もうひとつは、各部屋が時折開催するちゃんこ付きの相撲部屋見学ツアーに参加することです。興味のある方は、各部屋のウェブサイトやツイッター、フェイスブックなどをこまめにチェックしてみてください。運がよければ、本物の「国技の味」を口にすることができるはずです!

三遊亭歌橘1976年生まれ。15歳で三代目三遊亭圓歌に入門。2008年に真打昇進。仕事がない時代に武蔵川部屋(当時)の小結・和歌乃山の付け人を経験し、相撲界と関わりが深い

(取材/工藤 晋 撮影/ヤナガワゴーッ!)