『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソン の挑発的ニッポン革命計画」を連載中のマルチな異才・モーリー・ロバートソンが語る。

鳩山由紀夫元首相のクリミア半島訪問が波紋を呼びました。彼は日本政府とまったく異なる「ロシアによるクリミア併合は正しい」との認識を示し、「多くの日本国民が間違った情報の下で洗脳されている」と言い切った。さらに沖縄県の米軍普天間飛行場移設に関して「沖縄にこれ以上、基地を造らせないよう協力して」とクリミア住民に呼びかけた。

どう考えても、完全にロシア側の思うツボです。

鳩山さんの“独自外交”はこれが初めてではありません。3年前、当時の野田佳彦首相や外務省の制止を振り切り、民主党の外交担当最高顧問(かつ元首相)としてイランを訪問。強硬派のアフマディネジャド大統領と会談した結果、イラン政府の公式サイトに「鳩山氏は、核兵器不拡散条約(NPT)や国際原子力機関(IAEA)の不平等性を批判し、イランの主張に理解を示した」という内容がアップされました。

後に鳩山さんはこれを否定したものの、イランの核開発を正当化するカードとして、まんまと使われたことは100%事実です。

そして、今回のクリミア訪問。ロシアは旧ソ連時代からイランの核開発を助け、武器を売りつけてきた。そのイランと一緒に、シリア内戦では非人道的なアサド政権をバックアップ。また、イランはレバノンのシーア派過激組織ヒズボラも支援しイスラエルを攻撃するプロクシ(代理人)として利用している。

鳩山さんが主張するように、仮に日本がアメリカに寄りすぎているとしても、その対抗カードがロシアやイランの強硬反米政権ですか? ロシア側の演出で目にした都合のいい“クリミアの現実”に乗っかって、感銘を受けちゃっていいんですか?

自分を“平和の使者”と信じている?

実は、アメリカでも最近似たような動きがありました。オバマ政権とイランの穏健派政権が対話を深め、核開発問題の枠組み合意形成が目前になったところで、野党である共和党の上院議員47人がイラン指導部宛てに「任期があと2年足らずのオバマ大統領ではなく、我々と話をしろ」という内容の書簡を送りつけた。露骨な横やりです。

ただ、両者の違いはその目的。共和党は来年秋の大統領選を見越した実務的な意味合いが大きいけれど、鳩山さんは“平和の使者”として、ロシアに近づけば人類のためになると心底信じているとしか思えない。

僕がプーチン大統領なら、鳩山さんに対して北方領土返還をチラつかせながらサハリンからのパイプラインで日本へ天然ガスを安価で提供することを提案します。「ロシアのガスでぜひ、脱原発を実現してください」とでも言えば、鳩山さんなら目を輝かせて飛びつくでしょう。もしかすると、菅直人さんや小沢一郎さんもついてくるかも(笑)。

ただ、ロシアは2004年にウクライナ大統領選で親欧米派が勝った際、対抗措置として天然ガスの料金を2倍以上に引き上げ、その後、供給を大幅に減らした"前科"がある(当時は第1次プーチン政権)。この影響で、ウクライナ経由でガスを輸入していたEU諸国もエネルギー政策の転換を模索せざるを得なくなりました。ロシアにエネルギーを依存するというのは、そういうこと。

鳩山さんが「ロシアの資源で脱原発」とか言いだしたら、要注意ですよ。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)1963年生まれ、米ニューヨーク出身。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも、3ヵ月で中退し、米ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン、国際ジャーナリスト、ラジオDJとして活動。現在は『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(Block.FM)などにレギュラー出演中