がけっぷちに立たされるワカバのボーカル・ギター担当の亀田大(左)と松井亮太(右)

“ワカバ”というJ-POPアーティストの存在をご存知だろうか?

路上ライブからプロデビューした亀田大、松井亮太、作詞担当の塚本伸男の3名からなるユニットが『週刊プレイボーイ』本誌で『羊たちのローキック』という連載コラムをスタートさせたのは……えっと、うまく思い出せない…。

申し訳ないが、それくらい人気もなければ反響もまるでなかった薄~いアーティストの連載が、かつて掲載されていた(本当は2013年4月~12月に掲載)。創刊以来、週プレでは数々の魅力的なアーティストの連載をやってきているが、彼らほど話題にならなかったミュージシャンというのも珍しい。逆にいえば、読者からの支持をまるっきり受けなかった連載ということで、“ワカバ”の名は長く歴史に刻まれるかもしれない(苦笑)。

それでも毎週、彼らは彼らなりに自分たちの存在、生み出した楽曲を広く知ってもらうために精一杯の努力を続けた。たとえば、週プレの「誌歌」を作ろうと、悩みながら楽曲を編んだり、誌面で読者に呼びかけて女人禁制のライブをしたり。女子ゴルフの元・賞金女王、横峯さくらとも対談している(なんで…!?)。

そして連載後半では、ガチで企業に自分たちでアポイントメントを取り、出前ライブを仕掛けたこともあった。それから……あとは何かしたっけ? やっぱりうまく思い出せない…。

そんなガチで誰も知らないワカバが、3月25日にシングル『見せたいもの』をリリースする。“命のともし火が消えかかっている自分のおばあちゃんに、頼りない「僕」が見せたいものがあるんだ、だから、もっと、お願いだから――”と祈るように歌う珠玉のバラード。忘れてしまいがちな家族の絆や大切な人に想いを馳せることのできる作品でもある。

―というわけで、松井亮太と亀田大に登場いただこう。

心の裏側に、そっと置いてもらえる曲

松井 僕らはデビュー以来、壮大な人類愛やベタベタな恋愛は歌ってこなかったんです。いや、作ろうとも歌おうとも思わなかった。そういう音楽はワカバの音じゃない。そうではなくて、僕らはみんなが過ごしている日常のシーンを切り取り、その中から感じ取れる身近で等身大な愛情を歌ってきたんです

亀田 そういうちっちゃな、それこそちっぽけで弱々しい消え入りそうな気持ちを救い上げ、歌い上げることにより、何かに悩んでいたり勇気を持てず一歩を踏み出せない人たちの背を押すことができたらな、と願っているんですよね。

松井 だから僕らの曲って、聴いてくれよってグイグイ押し付けるような曲は少ないんですよ。その分、寄り添うことができたらとは思っています。ふと涙を落としそうな瞬間に、僕らの曲がその人の心の裏側に寄り添うことができたら、それだけで歌い続けている価値はあると思うし。新作の『見せたいもの』も、できれば聴いてくださった皆さんの心の裏側に、そっと置いてもらえるようになれば嬉しいです。

―心情はわかった。では、それを踏まえた上で、本当に『見せたいもの』とは一体なんなのだろうか?

松井 この曲は、先日亡くなった僕のおばあちゃんがモデルです。いま思えば正直、曲がヒットして、例えばNHKの紅白歌合戦の舞台で歌う姿を見せたかった。もちろん、武道館のステージでもよかったんですよ。多くの人たちから声援を受けている孫の姿を見せたかった

―じゃあ、ファンに対しては? というより、世間に対して「見せたいもの」って?

松井 コツコツと誠実に歌い続けてきた姿ですかね。答えが地味ですか(笑)。でも本当にそう思っているんですよ。昔、本番前にノドを潰してしまって、うまく歌えなかったことがあるんですね。あの時は、死ぬほど悔しかったですし、落ち込みました。もう二度とあんな思いはしたくないです。だから、どんな小さいステージでも、いや、路上で歌う時でも誠実に歌いたい、真摯な心で自分たちのメッセージを届けたいと願っているんです。そういう姿勢をみんなには見せたいかなと。

それと、昨日の糧(かて)を今日に少しでも活かしていきたい。その積み重ねを続けている自分たちの歩みも見せることができたらいいな、とは思ってます。そりゃ週プレさんの連載は当時、話題にもならなかったですよ(笑)。「何をやってんだ、あいつら」って読者からバカにされてたかもしれない。

本作のテーマであるおばあさんへの想いが溢(あふ)れ、インタビュー中に涙する姿も

泣きながら「ライブやらせてください」

「この15年の積み重ねを経て、今だからこそ胸を張って歌える曲ができました」

―そうだね。リアルに人気はなかったしね。まっ、バカにはされていたよな。

亀田 ヒドい(笑)。いやあ、泣きながら企業さんに「ライブやらせてください」ってアポ取りしましたからね。あれは本当にキツかった。

松井 本当に嫌だった、あの企画だけは。ただ、生きることに無駄なことってないような気がするんです。人気はなかったし、ゲストを迎えて対談してもうまく話を引き出せなかったりしましたけど、それでも何かが自分たちの“実”になっていたんですよね。というか、その“実”を無理やり見つけ出していた(笑)。そうやってあがきながら、少しづつでも成長したいと思う姿を見ていただければなと。

亀田 僕もそうです。ステージで弾く音色が昨日よりも1ミリでもきれいに響き、聴いてくださるみんなの胸に響けばいいかなって。まあ、何度も言いますが、週プレさんの連載は苦しかったことも多かったですけど、その分、実は得られたことも多いんですね。相方の言葉じゃないですけども、そこで得たものが自然と指に伝わって、ギターの音色になり、みんながハッピーになればいいなと思ってます。

*  *  *ワカバの『見せたいもの』に対する、素直な心構えは十分にわかった。ただでも、彼らの誠実な姿勢、誠実な音が世間一般に広く伝わるかというと、難しかったりする。ぶっちゃけ、この『見せたいもの』がヒットし、それこそ紅白歌合戦の舞台に立てるかというと、申し訳ないが奇跡に近い。いや、ヒットするかしないか以前にこの作品が世間に届くのかさえ疑わしい。

いまの不況下の日本においては、歌番組はどんどん消滅し、現在のワカバに出る幕もない。また音源のダウンロードの普及により、楽しみ方が多様化したことによって、聴く側の嗜好(しこう)は常に移ろいやすくなってしまった。そういう状況の中、ワカバに焦点を当ててくれる人はそれほど多くはない。

だったら、スタッフやレーベルが頑張って、もっと押し上げればいいじゃないかと思う人がいるかもしれないが、そこもまた難しい。昔のようにヒットにつながる方程式が成り立たなくなっている。たとえば、国民的商品のCMソングに起用されればヒットする時代ではない。人気ドラマの主題歌に決まればミリオンセラーの時代でもない。

答えは“見えない約束”にある?

今は、何をどうすれば楽曲が売れるのか、世間に届くのか、音楽業界自体がその答えを見失い茫然自失となっているのが現状だ。それこそ、そのような方程式がまだ健在ならば、彼らのスタッフは血眼になってタイアップを取ってくるだろう。

では、どうすれば彼らの音が世間に響くのか。残念ながら、答えは見えない。ただ、ひとつだけ言えることがある。彼らがこれから何をすべきか。その答えが『見せたいもの』にある。

彼らが前述した通り、「僕」がおばあちゃんに向けて“自分は頑張ってるよ、だから、もう少し僕のそばにいて。見せたいものがあるから――”と綴(つづ)っているのだけど、逆に考えると、どうなるのか。そう、おばあちゃんからすると『見せたいもの』より“見たいもの”を「僕」に求めているのではないか。

では、おばあちゃんの“見たいもの”とは何か。それはきっと「僕」が自分の夢を投げ出さず、一歩ずつ歩き続ける姿だと思う。何があろうとも、どんなことが起きようとも、自分の夢と寄り添い続ける姿を見たいのだ。

おばあちゃんは別に紅白歌合戦に出場してほしいとは思っていない。そんなことよりも、歌えなくなりそうな状況を跳ね返し、誠実に自分たちの歌を聴いてくれる人たちに届ける姿を見続けたいのだ。これからもそういう営みを“見たいもの”として天国から祈っているに違いない。それはワカバの音楽に寄り添ってきた人たちの願いでもある。

「今回の『見せたいもの』のCDがもし5千枚売れなかったら、解散の2文字も現実的になってくるかと思います」(事務所関係者)。

そう、しつこいようだが、彼らを取り巻く状況は厳しいし、音楽不況の真っ只中、吹けば飛ぶような存在がワカバなのだ。しかし、『見せたいもの』と“見たいもの”の間には、見えない約束が交わされている。

――がんばるよ、何があっても歌い続けるよ。その姿を見せたいよ、これからも。――うん、わかった。だったら弱音を吐かず、絶対に歌い続けて!

この目に見えない約束をワカバが破らない限り、奇跡は起きる、かもしれない。

(取材・文/佐々木徹 撮影/岡本武志)

●ワカバ(wakaba)2000年、日本福祉教育専門学校の同級生3人で結成されたボーカル・ギター担当の亀田大と松井亮太、作詞のみ担当する塚本伸男によるJ-POPユニットが。日本各地での路上ライブを経て、2002年にアルバム「さるはんきゅう」と「とりはんきゅう」にてメジャーデビュー後、シングル6枚、アルバム6枚を発表している。【http://www.wakaba515.com/】

■ワカバニューシングル『見せたいもの』、 2015年3月25日(水)リリース!『見せたいもの』M1. 見せたいもの作詞 山岸賢介・ワカバ 作曲 ワカバ 編曲 寺岡呼人M2. いろいろのいろ作詞 山岸賢介・ワカバ 作曲 ワカバ 編曲 吉田明広※「パラリンアート」応援ソング(発売:株式会社 喝采  販売:キングレコード株式会社 価格:¥926+税)詳しい情報は、以下にてチェック!【http://www.wakaba515.com/misetaimono.html】