本誌連載中のコラム「衆愚レアリズム宣言!!」より、ジャーナリストの川喜田研氏が“シューグ”な現実と向き合い世の中を見つめなおす!

***

宇宙人、鳩山由紀夫(ゆきお)元首相がまたもや「やらかして」世間を騒がせている。

政府の制止を振り切って、単身、クリミア半島を訪問した鳩山氏は、現地で親露派のクリミア自治政府関係者の歓待を受け、真顔で「ロシアによるクリミア半島の併合は合法的」との発言を連発!

ロシアの行為を「重大な国際法違反」と見なすアメリカや日本など西側諸国とは正反対の主張を展開する、「日本の元首相」の言動には当然ながら非難が集中した。

菅(すが)官房長官など、政府関係者が強い調子で鳩山氏の言動を批判したのはもちろんのこと、「古巣」である民主党の幹部も「コメントに値もしないような国益を損なう行為で激しく怒っている」(枝野幹事長)、「日本政府の考え方とはまったく違うし、一私人とはいえ元首相としてあってはならないことだ」(岡田代表)と、ともかく散々な言われようである。

しかも鳩山氏、一部で「パスポートを返納させるべき」との声が出ると、「パスポートを取り上げられたら自分はクリミアに移住します」とまで言いだす始末。

これまで2回、鳩山氏をインタビュー取材したことがあり、その「宇宙人ぶり」に、ある程度免疫ができていたはずの筆者も、さすがに「おいおい、『今後は東アジアの平和と沖縄の皆さんのために全力を注ぎたい』と言っていたあなたがクリミアに移住しちゃマズかろうよ?」と、ツッコミを入れたくなった。

正直に言って、ロシア側の主張を一方的にうのみにし、「クリミアは平和だった」なんて言っている鳩山氏の言動は「軽率」としか言いようがない。

政治家を引退し、民主党を離党した身だからといって「元首相」の肩書を持つ人間の行動が本人の意図とは関係なく、大きな意味を持ってしまうというコトへの自覚がまったくないのだろう。

宇宙人なりの考えがある?

ただし、この人の一見「突飛(とっぴ)」に見える宇宙人的行動には何か必ず「意味」があることを見逃してはならないとも思う。

今回の一件に関して言えば、クリミア併合はアメリカなど西側諸国が言うようにロシアが一方的に悪いのか?という疑念と、“ロシア系住民がなぜロシアへの併合を望んだのか”という点を無視してウクライナ問題を解決することはできない、という宇宙人なりの考えがありそうだ。

もちろん、プーチン大統領がどんなに否定しようと、クリミアのロシアへの併合やその後に始まったウクライナ東部の「内戦状態」がロシアの軍事的な介入の下で起きたことは疑いようがない。

だが、ロシアをそこまで追い詰め、こうした行動の引き金となった首都キエフでの「ウクライナ政変」が「ロシア潰(つ ぶ)し」を狙うアメリカの裏工作と「ネオナチ」といわれる過激な極右民族主義勢力の力で起こされたといわれていることを知らない日本人は多い。

つまり、キエフの「政変」も、それに反応する形で起きたロシアのクリミア併合とウクライナ東部の内戦もその実体はウクライナを舞台にしたアメリカとロシアの代理戦争にすぎない。その結果、これまでなんとか共存してきたウクライナ系住民とロシア系住民の間に修復不可能な溝をつくってしまった…というのが、ウクライナ情勢の本質である可能性が高いのだ。

西側諸国や日本の政治家があえて「無視」している、そうした現実に「宇宙人」は光を当てたかったのではないだろうか?

首相時代の「沖縄基地移設問題」と同じく、その「目のつけどころ」は決して悪くないのだが、その後、哀れなドン・キホーテとなって風車に突撃し、すべてを「コメディ」にしてしまうところが、この人の実に困ったトコロである。

●川喜田 研(かわきた・けん)1965年生まれ。モータースポーツ、特にF1関連の記事をはじめ、原発問題、TPP、憲法改正、集団的自衛権、沖縄基地問題を本誌で執筆。著書に『さらば、ホンダF1』(集英社)がある