ここ最近、都会での暮らしに見切りをつけて、田舎で第二の人生を始める人が増えているらしい――。

移住者の数は2013年度で8169人、この4年間で2.9倍に増えたというデータもあるが、NPO法人「ふるさと回帰支援センター」副事務局長・嵩(かさみ)和雄さんによると「それはあくまで自治体の支援策を利用して移住した人の数。自治体を経由せずに移住した人を含めると、実数は2万人近くに膨らむのでは」とのこと。

しかし、興味はあっても都会で生まれ育った人が地方移住の実際をイメージするのは難しいはず。そこで、今回は嵩さんと、『田舎暮らしの本』(宝島社)編集長・柳順一さんのふたりに移住を考えているならまず知っておくべき基本的な知識を伺った。

●移住にはどれくらい「お金」がかかるのか?

「まず、移住地選びで複数の候補地を訪れる場合には、料金設定が比較的安い自治体の移住体験ツアーを利用するといいでしょう」(嵩さん)

過去の例では、宮崎県日南市の場合、航空券、宿泊、食事込みで2泊3日3万5千円(大人1名、以下同)、奄美大島は3泊4日3万2500円で、ツアー参加時、アンケートに答えれば1万円が謝礼として戻ってくるお得な料金設定だったという。そして、

「移住先が決まれば住宅取得費や中古住宅の補修費、引っ越し費用などが必要です。目安は出しにくいですが、500万円以上の蓄えがあれば安心かと思います」(嵩さん)

賃貸の場合は?

「賃貸物件は空き家バンクが主で、基本的に不動産業者を通さないので仲介手数料が不要。仮に不動産業者を通しても家賃が安いので手数料は都会より安いです」(柳さん)

ただし、田舎暮らしには欠かせない車の購入費は用意しておいたほうがいいようだ。

注目は「地域おこし協力隊」

●移住先に「仕事」はあるのか?

ハローワークに掲載されている田舎の求人情報を閲覧してみると、農林漁業や製造・建設・運送業、サービス業など都会のサラリーマンにはなじみの薄い仕事が目立つ。看護師、保育士、エンジニアといった専門職には好条件な求人も見受けられたが…。

「地元に溶け込んでくると、厚意で仕事を回してくれるようなケースもよくあります。ただし、そもそも求人数自体が都会ほどあるわけではないし、特に事務・営業職のようなホワイトカラーの仕事は非常に少ないです」(柳さん)

「その結果、正社員雇用を諦めてフリーターとして食いつなごうとして、結局、家族を養うことができず都会に舞い戻っていく移住者も多いんです」(嵩さん)

そこで今、田舎の働き口として注目されているのが、総務省が音頭を取る「地域おこし協力隊」。09年に始まったこの制度は、都会の住民が過疎地に移住し、地域活性化に携(たずさ)わりながら働く仕組み。

「隊員になれば毎月15万円から20万円程度の給与が保証されるばかりでなく、最長で3年間、任期中の住居は受け入れ先の自治体が無償で提供するケースも多いんです」(柳さん)

14年度は全国で1500人が隊員として活動したが、安倍政権は今後3年で3千人まで増やす目標を掲げる。予算増に伴い、目下、農山村を中心に隊員募集を呼びかける自治体が急増中だ。

総務省の調査によれば、任期を終えた隊員の定住率は56%と高く、任期後1年以内に活動地で起業する際はひとり当たり100万円の支援金を受け取れる制度もできた。

「地域再生に携わる仕事は地元自治体や住民からの期待度も高く、やりがいがあります。都会の若者の間で、移住の手段として地域おこし協力隊を目指す人は今後ますます増えるでしょう」(嵩さん)

1にあいさつ、2にあいさつ

●移住先で注意すべきことは何か?

最後に、移住先でうまくやっていくためのコツはあるのだろうか?

「都会では隣人の顔も知らないのが普通ですが、濃い人間関係がベースの田舎でそれはあり得ません。むしろ、受け入れる側にとって、移住者ははなから“有名人”。『この人はきちんと付き合いをしてくれるのだろうか?』と警戒心を持って注目されます。そこで居住する地域の区長や地区役員、隣近所へのあいさつ回りを怠ろうものなら、『なんだアイツは、なっちょらん!』と孤立していくこともあります。

そうならないよう、“1にあいさつ、2にあいさつ”です。また、人口が少ない地域であれば特にお祭りや町内の一斉清掃といった地区の行事には積極的に参加する姿勢が大切で、地元の消防団にも極力入団したほうがいいでしょう」(柳さん)

一方で、地域にのめり込みすぎるのも禁物だという。

「例えば、近隣にゴルフ場の建設が持ち上がった場合、その村は賛成派と反対派に二分されます。すると、双方から『オマエはどっち派なんだ?』と詰め寄られる。特に選挙期間中はこうした政争に巻き込まれるケースも多いですが、そこであまりのめり込むと“村八分”同然の仕打ちを受けることにもなりかねない。政治活動からは一線を置くことです」(嵩さん)

都会のルールと田舎のルールは別モノだということを念頭に置きながら慎重に移住先を見極めてほしい。

(構成/興山英雄)