鈴木宗男・新党大地代表と佐藤優氏が、鳩山元首相のクリミア訪問の真相に迫る!

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

今回のテーマは、鳩山由紀夫元首相が日本政府の反対を押し切ってクリミアを訪問した真相と、2月末にモスクワ市内の橋の上で、深夜に銃撃され暗殺された反プーチン派政治家の評判。意外な話が次から次へと飛び出してきた!

鈴木 今日は佐藤さんから鳩山元首相のクリミア訪問、そして直近の日ロ関係を含めた外交問題等に対する見立てなどをぜひ聞きたいと思っております。

佐藤 まず、鳩山さんのクリミア訪問ですが、これは結構面倒くさいんですよ。というのも、鳩山さんはスタンフォード大学に留学して「マルコフ意思決定理論」という決断を専門としており、簡単に言うと「直近で起きたことだけで物事を判断して決断すると一番いい結果が出る」という理論で動いてるんです。

これは交通渋滞の解消では非常に役立つんですが、過去の経緯とか考えてないので、行動が一貫していない。別の言い方をすると“ニワトリ理論”。つまり、「三歩歩いたら、すべて忘れる」と。

鳩山さんは「理想のパートナーの見つけ方」という論文を書いてるんですよ。例えば、女性が1千人いてひとり選ぶとします。その場合、1番目は断る。残り999人に一番いいのがいる確率が圧倒的に高いから。で、一回断ったら戻ってはいけないとして、鳩山さんの計算だと、368番目の後に出てきた、369番目以後で出会った人で、368番目よりも少しでもいい人を捕まえるのが確率的に一番いい、というのが彼の研究なんです。

そんな鳩山さんが3月10日から12日、クリミアを訪問しました。日本政府は、首相経験者である鳩山さんのクリミア訪問はロシアの併合を認めることになる恐れがあるので自粛を要請していました。

鳩山さんは、日本政府の立場はよくわかっています。しかし、その上での独自外交をやっているんです。

ごく一部のサンプルから結論を出している?

鈴木 どんな独自外交を?

佐藤 モスクワで行なった記者会見の冒頭で、鳩山さんはこう言ってます。

「日本では西側、特にアメリカ中心の情報によって、多くの報道がなされています。『ロシアの軍事的パワーによって、クリミアで住民投票がなされた』『住民投票は正当なものではなかったから制裁を加える』など、必ずしも正しい報道がなされていないのではと大変心配しております。クリミアを訪れた一番の理由は、皆さんがどのような暮らしや未来を持とうとしておられるのかを直接拝見するためです。

日本ではアメリカにならって経済制裁をロシアに加えておりますが、これによって日本とロシアの関係は正常な状態ではなくなってしまいました。その制裁が正しいものなのか判断する必要があると思っています」

と、ここまでは実にまっとうな議論なんです。そして鳩山さんはどんな結論を出したか?

「ベラベンツェフ・クリミア全権大統領を始め、多くのリーダーにお会いしてわかったことは、住民投票は決してロシアの圧力ではなくクリミアの住民の自発的な行動のなかから正当に行なわれた。結果として、民主主義に基づいて、ロシアへの編入を自ら求めたものであるとわかりました」

でもこれ、ロシア側の人とだけ話して、反対のウクライナ側、クリミア・タタール人とは会っていないんです。ごく一部のサンプルから結論を出している。

クリミア住民がロシアへの編入を望んでいたのは確かでしょう。しかし、その住民投票が国際法的に有効だったかというと、これは全然別の議論。鳩山さんはそこをオミットしています。さらに鳩山さんは、

「日ロ関係が領土問題を含め、いまだに解決されていない中で、果たして日本がロシアに制裁を加え続ける意味があるのか、私は大変疑わしく思っております」

このクリミア問題でロシアの軍事的圧力がなかったかどうかは、3月15日にロシア全土で放送されたクリミア併合1周年記念番組『クリミア、祖国への道』でプーチン大統領がこう言っています。

「ロシアはクリミア情勢が思わしくない方向に推移した場合に備え、核戦力に臨戦態勢を取らせることも検討していた。しかし、それは起こらないだろうと考えていた」

北方領土交渉自体が停滞するリスク

プーチンは慎重な性格なんで、核政策をめぐる重要な問題で不規則発言はしないです。そのプーチンが、ロシアの国益にとって死活的に重要と考える政策については核兵器の威嚇(いかく)を含む軍事手段を用いても強行すると宣言している。

核兵器を使う準備をしていたとプーチン自身が言っているのに、ロシアの圧力はなかったという鳩山さんも相当な胆力がありますけどね(笑)。

鈴木 鳩山さんは何をしたいんですかね?

佐藤 アメリカのオバマ政権の外交力が低下しています。だから、鳩山さんは対米自主外交を考えてロシアに接近を図り、同時に日本政府に「北方領土交渉の障害になるから対ロ制裁はやめろ」と言っている。ご本人は北方領土交渉の地ならしのつもりだと思います。

鈴木 その先はどうするつもりなのでしょう?

佐藤 ロシアがクリミアに対して領土的な野心がないことを示そうと思うならば、国後(くなしり)島、択捉(えとろふ)島、色丹(しこたん)島、歯舞(はぼまい)群島からなる北方領土を日本に渡せばいい。要するにクリミアをロシア領と認める代わりに北方領土返還を実現する。典型的な帝国主義者の取引外交です。

でも、こういうことをやるのなら、少なくとも官邸とか外務省に話しておいたほうがいいんですが…。とにかくこのままだと、ロシアは鳩山さんのクリミア訪問を日本と欧米を分断するための宣伝に最大限利用します。すると、逆に北方領土交渉で日本がおかしなことをするんじゃないかと、アメリカが過剰な警戒心を抱いて、北方領土交渉自体が停滞するリスクが出てきます。

ロシアとの取引だけなら成立し得るけれども、日米関係全体の中であり得るかはまた別の話ですからね。

なので、鳩山さんの理論を政治の世界でやると、イランとかロシアとか、こんなふうに混乱が生じてくる。政治には過去の過程があるし、アメリカとの関係とか日本政府の主張とかもある。鳩山さんの場合、そういうところが考慮外だけど、妙に理論に裏づけられてるから、たちが悪いんですよ。

*この続きは明日、配信予定です!

(取材・文/小峯隆生 撮影/村上庄吾)

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002 年に国策捜査で逮捕・起訴、2010 年に収監される。現在は201 7年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、埼玉県出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

■「東京大地塾」とは?毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢等の分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は4月16日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ