国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。

* * *突然のクリミア併合から1年がたっても緊張が続く東ウクライナ情勢。この問題はアメリカでも非常に関心が高いのですが、その理由はなんでしょうか?

ウクライナ政府と親ロシア派武装勢力が2月に署名した停戦合意は、いまだ完全履行されるに至っておらず、ウクライナ東部では緊迫した情勢が続いています。

アメリカ政府は3月11日、ウクライナに対する追加支援と親ロシア派に対する追加制裁を発表するなど、この問題への深いコミットを継続。米メディアの関心も高く、ISIS(アイシス・イスラム国)、イラン核開発といった中東関連の話題に次ぐボリュームで報道されている国際ニュースです。

そんな折に突然起きたのが、鳩山由紀夫元首相のクリミア訪問です。鳩山氏が現地の会見で、ロシアによるクリミア併合の正当性を語ったというニュースはアメリカでも一部で話題になりました。

アメリカのある上院議員は「ミスター・ハトヤマは何を考えているんだ!?」と心底、驚いていました。そして鳩山氏があのような行動をとった理由について3つの仮説を立て、「どれだ?」とぼくに意見を求めました。

●クリミアと鳩山氏の間に個人的な権益がある。

●「日本はアメリカに洗脳されている」と本心で思っている。

●彼は単なる愚か者である。

ぼくがどう答えたかはあえて書きませんが、ウクライナ問題が米政界で高い関心を集めていることを示すひとつのエピソードです。

ところで、アメリカはなぜウクライナ問題にこれほどコミットするのか。この機会に整理してみましょう。ポイントは5つあります。

ロシアだけでなく中国にも警戒するアメリカ

【1】ロシアへの歴史的・国家的・政治的なライバル心冷戦時代から米ロ(当時ソ連)はライバル。ロシアのアンチ・アメリカ志向が根深いのと同様、アメリカもロシア国家・ロシア人への警戒を解くことができない。この関係は、両国が国家であり続ける限り未来永劫(えいごう)続くのでしょう。

【2】国際ルール・秩序の維持クリミア併合は、第2次世界大戦後にアメリカが主導して作ってきた国際社会のルールを逸脱した暴力的な非合法行為である。このような力による秩序の変更がまかり通ることは、アメリカの国益に符合しない。…これが、クリミア問題に対するアメリカの基本的なロジックです。

【3】中国に対する牽制(けんせい)ロシアの力による現状変更を許せば、南シナ海などにおける領土問題で攻勢を強める中国に格好の口実を与えてしまう。加えて、もともと経済的・歴史的・イデオロギー的に中ロ両国は深い関係があるので、それに対する牽制という意味も込められています。

ちなみに、ウクライナ問題について、中国は不気味なほど沈黙しています。表立ってロシアを支持することはハイリスクですが、かといってロシアを批判すれば、将来的に自分の首を絞めてしまう可能性があるからです。

【4】ウクライナは“デッドライン”NATO(北大西洋条約機構)から見て、ウクライナはロシアとの緩衝(かんしょう)地帯。ウクライナ(の一部)がロシア側に取り込まれた場合、ユーラシア地政学における勢力図が激変する可能性がある。ウクライナを西側諸国に引き込んでおくことが、アメリカの国益に直結すると考えているのです。

【5】自由・民主主義の維持ウクライナはオレンジ革命などを経て、民主主義国家として歩みつつある。制度は未成熟で、現実的には問題が多々ありますが、こういう転換期にある国を守ることは、自由・民主主義に基づいた国際社会を実現するというアメリカの核心的な利益にかなうとの判断があったと思います。

ただし、アメリカがウクライナ問題にコミットする上で最大の難関は、何をするにも相手が冷徹なまでにしたたかなロシアのプーチン大統領だという現実。この問題の落としどころが見えている人がいるなら、その内容を逆に教えて!!

●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェローを経て、現在はジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員。最新刊は『たった独りの外交録 中国・アメリカの狭間で、日本人として生きる』(晶文社)。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」が活動中!http://katoyoshikazu.com/china-study-group/