人気漫画家・いがらしみきお(左)☓異才監督・松尾スズキのスペシャル対談!

ジヌってなんのこと? 東北の訛(なま)りで“銭”がそう聞こえるってワケで、つまりお金のことですね。

で、それなしに生きていこうと決めた若い男がなぜか田舎暮らしを始めて、村の変な人々と大騒動…って映画『ジヌよさらば~かむろば村へ~』が4月4日から公開。

原作漫画『かむろば村へ』も連載時から話題だったが、作者のいがらしみきお氏は大ヒット作『ぼのぼの』で知られ、他にも様々なテーマ、風変わりな作風で支持を得る才人。

そして監督を務めた松尾スズキ氏も「大人計画」を主宰。個性的すぎる役者陣を束ね、演出・脚本に自ら出演までこなしつつ多方面で活躍するマルチな異才だ。

こんなふたりがコラボし、冒頭のお話をってんだから面白くないワケがない! そこにどんな化学反応が?

■原作者がまさかのウルッと…

―まず単刀直入に、いがらし先生から作品のご感想を!

いがらし あのね、ほんと原作の余計な枝ぶりを切ってもらって。完成度が上がったなと思いましたよ。実はラストシーン近くで、ちょっとウルッときちゃって。まさかそうなるとは意外でした。

松尾 えっ、それはどのあたりで?

いがらし 主人公のタケ(松田龍平)の演説が終わって、神様の“なかぬっさん”(西田敏行)の言葉があって…エンディング近くですね。

―原作者が泣けたなんて、いきなり最高の褒(ほ)め言葉!

松尾 いや僕のほうはね、原作を投げてくださって、でも面白いから特に無理やり何かを変える必要もなかったんですよ。どう取捨選択して映画にしていくかってだけで。

濁ってないとイヤじゃないですか?

いがらし 私は最初から松尾さんとはウマが合うと思ってたんです。映画を見て、ギャグの部分でも本当に手が多いというか。自分でもやりそうな感じなんだけど、これを漫画でもやればよかった、これは漫画ではできないなとか感心しましてね。

もちろん、映画だと物が飛んでいくスピード感も見せられるので、そういうニュアンスを漫画で伝えるのはそもそも無理なんですけど。

松尾 やっぱり、いがらし先生のギャグをちゃんと使いたいというのはありましたね。あとは、僕がやる限りはそれでお芝居的な間(ま)を生かしたギャグを入れられるなら積極的にやろうと。だいぶ遊ばせてもらいまして(笑)。

いがらし でも漫画のキャラクターと役者さんの落差も当然あるわけですよ。それをうまく松尾さんの演出で面白くしてね。村長の与三郎(阿部サダヲ)が乱暴にスーツケースをブワーッと投げるとか、笑えましたねぇ。

松尾さんも私も、カラーがビビッドでクリアな色合いの人じゃないからね。そこに違いはないはずだと思いましたけど。なんか濁(にご)ってないとイヤじゃないですか? その濁り方が面白さにつながると私は思ってるんですよ。

―確かに、松尾監督自身も清濁あってキレイ事の面と、その裏を描くテーマを問い続けているような…。

松尾 そうですね。何か残酷なことが起きて、その次にギャグが入り、その後にちょっと温かい話がある…でもやっぱりギャグで落ちる、みたいな。見る者を安心させないぞって、リアリズムの中にもギャグで濁りを入れてるのが共通するのかな。

―この作品をマジックリアリズムとも評されていましたが、物語のファンタジー的要素にそれが生きていたり?

松尾 奥深い田舎の寒村が舞台で神様がいてもおかしくない、実際そこに現人神(あらびとがみ)として普通にいるって話ですから。それがギャグとして違和感なく描けて、しかも結構俗っぽいみたいな世界観がそれで面白かったんですよね。

社会的なメッセージはない!?

■正しい人より、欠落している魅力

いがらし そもそも、この漫画の始まりが限定された地域でのファンタジーを描こうということだったんですね。そうすると超常的な存在を出したほうが話も作りやすい。昔は田舎だと神棚が必ずありましたし、さほど突飛(とっぴ)でもなかったですから。私の子供の頃なんかそうだったんです。

松尾 それを成立させる場所を探してロケハンにはこだわりましたね。絶対的な田舎の風景があって畑や山が美しいっていう。

いがらし 原作は私の生まれた町(宮城県・加美町)(かみまち)をそのまま使ってまして。映画では福島の奥会津のほうになるって聞いて撮影現場にもお邪魔しましたけど。本当に畑と田んぼがキレイで何も問題なかったですね。うちの地元は後継者もいないので結構、荒(すさ)んできてますから。

―それこそ物語のかむろば村も今の地方の限界集落であるとかリアルな社会問題を背景に描かれていますが。

いがらし 高齢化とか少子化、過疎っていうのはもちろんありますよ。ただ、描いてる時にそれを殊更(ことさら)とらえてはいないんですね。もっとパーソナルな問題に近づけて、お金がなくても生きていけるのか?ってこと。松尾さんも私も社会的なメッセージみたいなのはないんじゃないかな。

松尾 まぁ、映画を貫く一本の線は、お金がないのにどこまで生きられるかという。ドラマの運びとしてはそこにまつわるサスペンスを意識して。原作に描かれているツボを外さなきゃ間違いないと。

それとファンタジーというふたつの軸で成り立っていると思うんですけど。

いがらし 普通はお金がなければ生きていけないですよね? それを一銭も使わずに生きていくと決めた人間がどういう運命をたどるのか、一般の人たちも興味があるだろうということで。でも主人公のタケにしても実際いたら、はた迷惑なだけですよ(笑)。

ファンタジーですけど、それを描くならリアルな土台の上に乗っけないとダメでね。その土台が限界集落なり、かむろば村なんですね。

欠落した人間こそ面白い?

松尾 タケなんて、あんな病気ないですからね(笑)。でも、かむろば村自体、はた迷惑な人しか出てこない。正しい人って描きづらいし、僕はやっぱり欠落した人間が面白いと思っちゃうんですけど。その欠落を埋めようと過剰になってしまう人とか。

―タケは元銀行マンで、顧客の人生をむちゃくちゃにする金というものを目の当たりにし、“お金恐怖症”に。普通の社会生活を送れなくなり、かむろば村にやって来ます。そこに共感というか、感情移入する人も多いのでは?

いがらし それは逆に今、あまりいないんじゃないかな。単行本の後書きにも書いたんですけど、昔だったらタケも清貧の人とか聖人君子みたいにとらえられてたんですよね。そういう時代の違いみたいなのがタケの存在に表れてるんじゃないかと。

みんながみんなお金に苦労させられていて、お金いらないわけないだろうと。現実的にこいつはただ甘えてるだけじゃんって。ですから、これを見たお客さんたちがどういうイメージを持つのか? これは難しいと思いますね。

*この続きは、明日配信予定です!

(撮影/五十嵐和博)

松尾スズキ1962年生まれ、福岡県出身。88年に「大人計画」を旗揚げ。劇作家、演出家、俳優、コラムニスト、エッセイスト、小説家、映画監督、脚本家などマルチな顔を持つクリエイター

いがらしみきお1955年生まれ、宮城県出身。79年に漫画家デビュー。『ネ暗トピア』『さばおり劇場』など過激なギャグで支持を得て『ぼのぼの』が大ベストセラーに。ほかに『Sink』『Ⅰ【アイ】』

■『ジヌよさらば~かむろば村へ~』病院も学校も警察もない、乱暴だが世話好きな村長や自称“神様”ら妙な人々だけの過疎の村に都会から“お金恐怖症”の若者が!?(4月4日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー)。原作『かむろば村へ』(小学館)も新装刊発売中。映画の公式HPはこちら→ http://www.jinuyo-saraba.com/(c)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会