デーブこと大久保博元・新監督の東北楽天ゴールデンイーグルスが目指す、データを駆使した「科学野球」。

それを支えるのが今季から「チーム戦略室アドバイザー 編成・育成データ担当」に就任した山本一郎氏だ。

ネットユーザーには“野球狂の有名ブロガー”としても知られる山本氏が、熱い手記を寄せてくれた!(前編はコチラ→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/04/11/46392/)

山本氏によれば、2013年の日本一は田中将大(まさひろ)や当たり外国人ら「超人」たちに支えられたもので、星野仙一・前監督の方針は「王道」野球であった。ところが主力を失った昨年は、投打両面で壊滅し最下位に転落。今季も課題が山積みだ。

とりわけ得点力不足、得点効率の悪さは深刻。それを改善するべく、デーブ監督は“超機動力野球”を標榜しているが…。

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しかしながら、機動力野球とひと口にいっても、せっかく出たランナーが盗塁失敗や牽制(けんせい)死しては意味がありません。

長打力を外国人に求めるのも、毎年ガチャを回してレアカードが出るのを待つような編成になってしまうので効果は限定的です。

やはり、ドラフトで将来性のある若者を獲(と)り、あれこれ鍛えて楽天の野球を教え込む。チームの一員として、投手なら計算の立つようなイニングがこなせる選手に、野手なら特徴に合わせて得点や守備に貢献できるような選手に仕上げていくことが、チーム力を強化していくためには欠かせません。

とりわけ先発投手と長打力のある野手の育成は重点課題のひとつであり、データを駆使した「科学的な指導」で、3年計画でどうにか仕上げていきたい、というのが楽天のチーム戦略の根幹になります。

抑え投手として期待されたミコライオさんが故障してしまい、本来なら先発として期待される松井裕樹さんが抑えに回ったりしていますが、こっちだっていろいろ事情があるんだ、おまえら静かにしろ。そのように思うわけです。

「見逃し三振」でわかる、野村、星野の考え方の違い

やはり、戦略と育成に取り組んで痛感するのは、楽天という球団が持つコンテクスト―つまり、野村克也と星野仙一という球界を代表する指導者が長期政権で指揮を執(と)った利点と難点です。

野村さんと星野さんはまったく異なる野球観を持ち、両監督の時代に各々、選手としての基礎を固めた選手、コーチはボールの投げ方ひとつ、投球の待ち方ひとつとっても考え方が違うという点に野球の奥深さ、面白さと難しさを感じるのであります。

一番わかりやすいのは「見逃し三振を認めるか」です。

野村さんの場合、徹底した待ち球で投手攻略を行なう野球をやっていたため、選手の得意ゾーンや相手の投球傾向を読んで待つというスタイルでした。その待ち球が来なくて見逃し三振をしても怒られることはありません

片や、星野野球の方針は気合いと根性であり、野球は振らなければバットにボールは当たらないのであり、待ち球はほとんど指定せず、初球からしっかり振っていくことを求められます。見逃し三振はもちろん好ましくないと指導されます

「楽天になぜコンタクトヒッターが多いか?」という問いへの回答は「見逃し三振をすると怒られる星野野球に適応した結果」です。

*コンタクトヒッター…嶋、岡島、島内、聖澤(ひじりさわ)、阿部といった「どんなゾーンにボールを投げられても、とりあえずバットに当てられる」選手たちのこと

なんでも振っていき、なんでも当てられる素質を持った選手が、星野監督の下ですくすくと育ち、適者生存で生き残ったといえるのです。

野村、星野という偉大な指導者による考え方の違いは、この見逃し三振以外のほか先発投手にも捕手のリードにも、走塁にも育成方針全体にもあり、どちらが正しいともいえません。

選手の「取扱説明書」をつけて一軍に送り出す

ただし、どれだけ偉大な監督であったとしても、その方針ひとつで能力のある選手が才能を見極めてもらえずに伸び悩んでユニフォームを脱ぐことになったり、データ的にはさほど得点に貢献しないと予想される選手が上位打線に組み込まれ、凡退を繰り返してようやく気づいてオーダーが変更されたりということは、なるべくチームとしてきちんと避けていく必要があります。

育成も作戦もデータをしっかりと管理し準備をして、選手の“取扱説明書”をつけて一軍に送り出す―というのが理想です。

ひと口にデータといっても、すべてはリスクを伴います。まず二軍で試合に出してみる、その結果を見て分析しコーチや本人にフィードバックする。改善点を探り、再現できたか視認しつつ、さらに試合に出してみる…という「投資」を行なう必要があるのです。

そのためには、例えば打者なら「彼は内角や高めの速い球を待たせたら一軍でも通用する」といった特性をまず見極め、そこから徐々に試合に出ながら経験し、打てるゾーンや球種が広がっていくのが理想です。

良くも悪くも監督の個性やコーチの持っている経験で育成できたりできなかったりするという世界から、もう少し客観性のあるデータをもとに科学的に「こうすれば、こうなるはずだ」というアプローチを取り入れられれば、できることも増えていくはずです

実際、少しずつですが楽天野球はデーブ監督やフロントの理解の下、コーチ陣や関係者とともに良くなってきている実感はあります。

今年の楽天は、多くの評論家が予想するように最下位だ、Bクラスだと言われがちですが、ひとつでも多くの勝利、ひとつでも上の順位、願わくばパ・リーグ優勝、そして日本一を目指し「一致団結」して突き進んでまいりたいと思いますので、どうか長い目で見て応援していただければと願う次第であります。今年もよろしくお願い申し上げます。

■山本一郎(やまもと・いちろう)1973年生まれ。投資家、実業家、ブロガーとして有名だが、実は生粋の野球マニアにしてパ・リーグ愛好家。数量モデル、データ分析の専門家として、これまでも米マイナーリーグや日本の球団と契約し、解析業務を行なってきた。今季から楽天球団の一員としてチーム編成・若手育成にがっちり携わる