左から、実業家で投資家の山本一郎氏、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事で内閣官房地域活性化伝道師の木下斉。今回、日本の「地方」の厳しい現実についてふたりに語っていただいた。

4月12日・26日に4年に一度の「統一地方選」が行なわれる。近年は立候補者の減少で「無投票」となる自治体も多いが大事な選挙であることに変わりはない。

週プレ世代は、自らの一票をどんな人に入れるべきか? 日本の「地方」の厳しい現実を熟知するふたりに語ってもらった。

ひとりは、実業家で投資家の山本一郎氏。最新技術動向や金融市場に精通するデータ分析と未来予想のスペシャリストで、東京大学政策ビジョン研究センターと慶應義塾大学SFC研究所が共同で立ち上げた「政策シンクネット」では高齢社会対策プロジェクト「首都圏2030」の研究マネジメントを行なっている。

もうひとりは、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事で内閣官房地域活性化伝道師の木下斉氏だ。

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山本 さて、そういう状況で統一地方選をどう考え、どう投票すべきですかね。候補者に何を問うか。

木下 基本は「経済の話をちゃんとする人に入れろ」。これだけだと思います。「明るい福祉」とか、そんなのは当たり前なんですよ。「うちの地域は何でメシを食っていくんですか」という質問を立てるのが一番いい。製造業のこの分野だとか、農業の産直率をこれだけ上げるだとか、明確に言う人がいい。即答できる人は結構少ないですよ。

山本 経済的なビジョンを持っている人。

木下 「国とパイプがあるので、補助金で会議場をつくる」とか、そういう分配に関することばかり言う人ももちろんダメです。それは依存症型のカンフル剤にしかならない。維持費で地元の税金が食われるから、また国からもらうカンフル剤を打ち続けない限り死んでしまう。

夕張の財政破綻はレアケースではない

山本 ドイツ村の廃墟があちこちにありますね(笑)。やはり自治体の財政が非常に厳しい、かといって国からの分配を頼りにやっていくのも厳しいというのは、さすがにみんなわかり始めています。ただ一方で、“おこぼれ”がなくなった時に地方経済が一時的に大きくシュリンクすることへの恐怖心もある。

しかし、国の財政だって状況は深刻です。「もう今まで通りの地方交付税は出せません、補助金も出せません」となる道筋も考えないといけない。現状のままでは間違いなく北海道・夕張市のようにクラッシュする自治体がたくさん出ます。いまだに「夕張はレアケースだ」と思っている人も多いようですが。

木下 夕張は事実上、粉飾決算みたいなもので、破綻するまで誰も言えなかった。あれを見て、ドキッとした自治体も多いはずです。

山本 「高齢者福祉を充実させます、モノもいっぱいつくります」という候補者は多いですが、支出を増やすことばかり言っているのでNGですね。ただし同じ福祉でも、保育園を増やすような子供向けの施策は子育てをする勤労世帯を呼び込んで税収を増やす可能性は一応あります。まあ、地域間で減りゆく人口を奪い合うわけですが。

木下 子供向けの施策は、少子化で頭数も少ないし年数も限定ですからね。

山本 一方、高齢者福祉は、やり始めるとエンドレス。無尽蔵にやるのはまずい。

木下 高齢者に厚い政策というのは、地方議会にご老人が多いせいもあるでしょう。先日、議会関係の飲み会に出た時にすごく面白かったのは、議長さんが「任期を全うするのも過酷な年齢になってまいりました」とあいさつしたんです(笑)。次の選挙まで生き続けられるかわからないような議員さんがたくさんいる。本来なら定年制があるべきですよね。

山本 それと、重要なのは公共サービスの部分でも、人口減少や過疎化でいよいよできなくなってきていることを「できない」としっかり言える人ですね。ある程度の人口集積をし効率化していかないともう回らない中で、言い方は悪いですが、どうやって過疎地域での公共サービスを諦めてもらうか。

木下 昭和30年から人口減が続いているようなところで、急に人口が増えるわけないですからね。地方創生関連でも普通に「これから過去最高の出生率を記録する」みたいなことを書いてあったりするんですが、そんなバクチみたいな話は政策でもなんでもないわけで。政策は地元の願望ではなく、最悪のケースでも対応可能なように考えなくてはいけない。

全員が今まで通りなら全員が破綻

山本 例えば、住み慣れた家を出て、町に移り住んでいただかないといけません。そうでなければ税金は非常に高くなります。もしくはデイケアだとか生活を支援するサービスがなくなります。郵便は週2回になり、除雪の頻度も落ちます…というような話。あるいは、町に4本かかっている橋のうち2本を落とさなきゃいけないとか、市営バスは廃止になりますとか。

木下 それはもう政治問題ですからね。最後はその自治体の全議員がサービスを落とすところに行って説明するしかない。役所の人間が行ったら殴られますよ。地元の代表者である議員が苦渋の決断を100回でも説明するしかないんです。全員が今まで通りに暮らそうとしたら全員が破綻してしまう。

山本 やはり、候補者には民間での経験があったほうがいいでしょうね。

木下 稼がないと食えない、売り上げを上げて支出を減らさないと収入はない、という常識を経験した人じゃないと。東日本大震災の被災地でも、高台移転にかかる費用が1棟当たり1億円ぐらいで計算されていたのが「これはおかしい」と住民が大学の先生を交えて検討したら3千万円ぐらいまで下がったということがありました。

課題に優先順位をつけて、ちゃんとゴーイングコンサーン(継続事業)で何かやろうと決断できるのは民間であり住民のほうですよ。

山本 議員が工務店出身で自社に利益を誘導しそうだとか、そういうケースもあるかもしれないけど、それでもとにかくちゃんと「自治体を経営」してくれればいい。

木下 民間に施設整備と公共サービスの提供を委ねるPFIという仕組みもありますし。例えば、今までの公共施設よりもっとパフォーマンスのいい経営の方法を自分たちで考えますという工務店さん上がり、建設会社さん上がりの議員、首長だったら全然ありだと思います。

(構成/佐藤信正 撮影/髙橋定敬)

■週刊プレイボーイ16号「統一地方選直前 山本一郎×木下斉 「地方消滅」 時代に当選させるべきはこんな候補者だ!」より(本誌では、さらに地方創生のダメさ加減なども論議!)