テロのグローバル化、凶悪化によって、もはや地球上に“安全な場所”はなくなってしまった。本来、治安対策は畑違いの仕事だが、わが国に危機が迫るとき、自衛隊の出番はあるのか?

Q)国内テロ対策で自衛隊と警察、海保との関係は?

A)基本的には警察、海保の仕事だ。

国内の治安は、基本的に陸上では警察、洋上では海上保安庁が担っている。テロ予告のような凶悪な事案を扱うのは、警察の中でも特殊な部署だ。一般の警察官で対応できない場合は、実行部隊としてSATなどの特殊部隊が出動することになる。

「例えば、東京湾で客船がシージャックされたような場合、海保が行きます。人質の人命救助と犯人の身柄確保を目指すなら海保の特殊部隊出動となるでしょう。自衛隊と同じ89式小銃、M4カービン、1km以上の長距離狙撃が可能な口径338ラプアの狙撃ライフルなど軍用装備を持っている特殊警備隊(SST)の出番です」(軍事フォトジャーナリスト・柿谷哲也氏)

Q)対テロで自衛隊の出番はどんな時か?

A)NBCテロなど極めて危険性の高い時。

警察や海保では対処できない放射性物質や生物化学兵器(NBC)を使ったテロのような場合は自衛隊が出る。例えば、1995年の地下鉄サリン事件では市ヶ谷から陸自第32普通科連隊(現在は大宮駐屯地)が出動。普通科約120名、化学科部隊約70名が現場に向かい、救助にあたった。

ただし、シビリアンコントロールの下で自衛隊が出動するには、総理大臣による命令や都道府県知事による要請といった法的根拠が必要になる。地下鉄サリン事件の時は、地震や台風などの自然災害で出される「災害派遣」命令だった。

自衛隊のどの部隊が出動する?

また、武装勢力が現れて暴れるなど警察力で対応できない場合は、自衛隊の「治安出動」命令が出されるが、今までこれは実際に出されたことはない。しかも、出動しても警察官職務執行法に準じた武器使用しか認められない。

一方、海自に出される「海上警備行動」は、過去に不審船対策で使われてきた。他に自衛隊基地や米軍基地がターゲットになった場合、「警護出動」というものがある。これは自らの施設を守るもので、例えば、空自にも基地警備隊があり、弾道ミサイルを撃ち落とすためのパトリオットミサイルなどを守っている。

最も大規模な「防衛出動」は、外部からの武力攻撃が発生した事態が認められ、「日本」を防衛するため必要があると認める場合にのみ内閣総理大臣の命令により可能となる。

Q)自衛隊のどの部隊が出動するのか?

A)テロの種類によって異なる。

「何が起きたかによってケース・バイ・ケースだとは思いますが、(1)管轄する方面隊の普通科部隊が先着、(2)中央即応連隊が増援、(3)ほぼ同時にNBCテロを想定して特殊武器防護隊が到着、(4)脅威度によって特殊作戦群という順番でしょう」(前出・柿谷氏)

特殊なNBC兵器を使ったテロに対しては、陸自の中央即応集団隷下の中央特殊武器防護隊(大宮・約150名)が出動することになる。彼らは前身の部隊も含めて、1995年の地下鉄サリン事件や2011年3月の福島原発の事故でも出動した。

ハイジャック、シージャック、建物立てこもりなどのテロでは、警察のSATで対応できない場合、(4)の特殊作戦群が投入される。

テロを未然に防ぐ情報力はある?

Q)テロを未然に防ぐ情報力はあるのか?

A)関係機関が共有しない限り、ない。

「警察庁にはテロやハイジャックなどに対応する警備局があり、外事情報部に外事課と国際テロリズム対策課があります」(軍事ジャーナリスト・黒井文太郎氏)

自衛隊には、陸海空の各幕僚監部の調査部がある他、防衛省の中央情報機関として情報本部がある。

だが、残念ながら警察と自衛隊では基本的に情報を共有はしていない。情報力以外のテロへの抑止力として、元フランス外人部隊のスナイパー、反町五里伍長が次のように言う。

「フランスが対テロでやっているVigipirate(ヴィジ)を日本でもやるべき。仏政府は兵士を国内の要所に配置しています。テロ予告があれば、自衛隊もパトロールチームを巡回させテロを抑止するのです」

(取材・文/本誌軍事班[取材協力/世良光弘 小峯隆生])

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