4年に一度の「地方統一戦」も前半戦を終え、後半戦を残すのみとなった。

この選挙は、安倍政権がこれまで行なってきた「地方創生」の成果を判断するという意味で非常に重要な選挙といえるだろう。

しかし、まだまだ日本の各地方には元気がないように見える。一体、何が問題なのか? 消滅の危機に瀕(ひん)する「地方」の現実をよく知るふたりに語り合ってもらった。

ひとりは、実業家で投資家の山本一郎氏。最新技術動向や金融市場に精通するデータ分析と未来予想のスペシャリストで、東京大学政策ビジョン研究センターと慶應義塾大学SFC研究所が共同で立ち上げた「政策シンクネット」では高齢社会対策プロジェクト「首都圏2030」の研究マネジメントを行なっている。

もうひとりは、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事で内閣官房地域活性化伝道師の木下斉氏だ。

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山本 現状のやり方では合理性が乏しく、公共事業をやればやるほど地方が衰退します。国からお金を取ることが前提になると、間違った方向に努力してしまう。

木下 これに慣れすぎてしまった不幸はすごく大きいです。商店街もそうですけど、イベントなんかを自分たちのお金でやるという発想がほぼなくなってしまった。補助率も昔は半分とか3分の1だったのが、今や…。

山本 ほぼ全額というのも珍しくないですね。

木下 それで、地方自治体に営業をかけた代理店に丸投げして、どこでも同じようなことをやる。誰も自分のサイフからお金を出していないですからね。よく地方の人たちが都市部に出てきて、みんなで法被(はっぴ)を着て魚を焼いて出すお祭りみたいなものがあるでしょう。あれも、赤字が出るとその半分が補填(ほてん)されるんですよね。

アンテナショップの経営は成り立っていない?

山本 出展者からすると、安く東京旅行ができるからいいか、みたいな。本当にガチでやったら、相当売れないとペイできないはずですが。

木下 補助金がなくてもみんながやるのは、牡蠣小屋ですね。あれは儲かるから。でも、それ以外の大半は大赤字ですよ。アンテナショップだって、銀座であの単価で経営的には成り立っていないものばかりです。

山本 補助金のほうに頭がいくと、「自分たちの仕事をより良くする」とか「付加価値を見つける」という、本来取り組むべきことに関心が払われなくなりますよね。

木下 先日、北陸新幹線が金沢まで開通しましたが、その先の延伸を早めてもらうために福井市がJR福井駅前の再開発でとんでもなくデカい施設をガンと建てているんです。でも、この指定管理に誰も手を挙げない。その前にある施設も空いているくらいなので当然の結果なんですが、すると福井市は「じゃあ、7千万円管理費を上乗せします」みたいな話を始めた。

こういう話は本当にしょっちゅうで、結局、計画が全部その場しのぎなんです。維持費が予定より膨らんで、そこで働く人にはまともな給料を払えず、役所が絡んだプロジェクトでワーキングプアが生まれ…みたいな。

山本 炎上待ったなし。

木下 2009年に総務省が制度化した「地域おこし協力隊」なんかも同じです。ひとり、年200万円とかで若者を外から呼んできて、地域の課題が簡単に解決…するわけがないでしょう。

役所の地域振興課の人たちは、それよりも多額の報酬と長期雇用を保証されているのに問題を解決できていない。なのに、都会から呼んできた安い賃金の若者に「地域おこし」を任せる。変な話です。その地域振興課の課員全員の給料を合わせた金額を払え、と思いますよ。自分たちができなかったことを人に頼むのに、なんで自分たちのほうが給料をいっぱいもらって、「お手並み拝見」みたいなことを言ってるんですか。

ゆるキャラの戦略議論をやってる場合じゃない!

山本 そこで、中央のリーダーシップで地方をなんとかしようという話が安倍政権の「地方創生」という議論ですね。頑張って取り組んではいるんですけど、建設的な方向に話がなかなか進まない。

地方自治体の求めたものに関しては、とりあえず要望は聞きますという感じなんですが、するとご当地キャラクターだとか、特産品サイト作りとか、そのへんの話がメインでくるんです。それをやって、本当にご自分の地域が豊かになると思っているのか、と。

木下 ゆるキャラなんかを税金でやること自体が疑問視されないというのは、すごい時代になったなと思いますよ。そもそも論がほとんどなくて、「どうやったらゆるキャラで勝てるか」みたいな議論が始まっちゃう。そこじゃない。そんなことをやっている場合じゃない。

山本 正直、地方に活性策を考えろといっても、おそらく経験がなく、考える能力がないんじゃないかと思います。

木下 長年、国が出すメニューの中から地方が選択していただけなのに、急に「地方分権だから地方で考えなさい」といっても無理でしょう。地方分権というなら国の出先機関も含めて全部、国家公務員を地方公務員化するなどして業務に携わるメンバーを予算とともに地方に寄せないと。

山本 それもあってか、最近は総務省が各自治体に人をいっそう降ろしていますね。

木下 戦前の内務省時代みたいな話に(苦笑)。

山本 封建制とか荘園制ですよ。「おい、新しい地頭が来たぞ」みたいな。

木下 市長とかも総務省出身者が多いですしね。

(構成/佐藤信正)